全国2,000社超の賃貸住宅管理・仲介会社が加盟する全国賃貸管理ビジネス協会(全管協)。その発展を長年にわたって牽引してきたのが、高橋誠一名誉会長だ。高橋氏は業界の要望を政治に届けるため、自民党ちんたい支部連合会などを通じて大きな政治力を築いてきた。一方、その党員獲得をめぐっては会員企業への過大な要求や党費負担の問題が浮上し、高橋氏自身も会長退任後もなお組織内で強い影響力をもつとされる。業界の発展を目指して築かれてきた全国組織は、なぜガバナンスを問われる事態に至ったのか。高橋氏の歩みと全管協をめぐる問題を追う。
全国組織「全管協」高橋誠一名誉会長とは
全国の賃貸住宅管理・仲介会社が加盟する業界団体「全国賃貸管理ビジネス協会」(以下、全管協)。設立時16社だった組織は現在、2,000社を超える全国ネットワークへ成長した。その全管協で1999年から2023年まで24年間にわたって会長を務め、退任後も名誉会長として強い影響力をもつのが高橋誠一氏である。
高橋氏は1945年、埼玉県大宮市(現・さいたま市)生まれ。69年に東京電機大学工学部電気工学科を卒業した。事業家としての原点は、父が営んでいた米穀店「高橋米穀」にある。当初、高橋氏には他社への就職が内定しており、家業を継ぐつもりはなかったという。しかし、父が自分に後継者として期待していることを知り、家業を継ぐことを決断した。
その際に高橋氏が父へ出した条件の1つが「俺の好きなようにやらせること」だった。実際、高橋氏は従来の米穀店の経営を次々と改め、「自分流でむだなことをどんどん削っていき、それまでの米屋の商法をがらりと変えてしまいました」と後に振り返っている。「やるからには、自分流のやり方でやっていく」という強い姿勢は、高橋氏の事業家としての成功を支えた一方、現在の全管協における統治にも通じるものがあるのではないか。
72年に高橋建設を創業し、75年には三光不動産(現・三光ソフランホールディングス)を設立。その後、不動産事業を中心に事業を拡大し、99年にはメディカル・ケア・サービスを設立して介護・ヘルスケア分野にも進出した。04年には国土交通大臣表彰、06年には黄綬褒章を受章。一代で事業を拡大すると同時に、全国の賃貸住宅業界でも存在感を高めていった。
「業界のため」に築いた政治力
もっとも、高橋氏が当初から現在のような批判を受けていたわけではない。長く高橋氏を知る関係者によれば、99年に全管協会長へ就任した当初は「日当さえ固辞するような人物」で、業界全体の利益のため精力的に活動していたという。
東日本大震災後に被災者支援として普及した「みなし仮設住宅」(賃貸型応急住宅)の創設にも、全管協の役員らとともに尽力したとされる。10年に国会へ提出された賃貸住宅居住安定法案に対しては、賃貸管理業者への影響が明確でないとして反対活動を展開。住宅家賃への消費税についても、入居者の平均所得が低いことなどを理由に非課税化を求め、海外の事例を示すとともに約100万人の署名を集めて国へ要請した。こうした活動では、高橋氏が「全管協会員の利益」「賃貸住宅業界全体の利益」を掲げて政治へ働きかけていたことは間違いない。
そのためには、政治に対して物をいえるだけの組織力が必要だったのはたしかだ。全管協は全国賃貸住宅経営者政治連盟(ちんたい政連)と連携し、高橋氏はその会長を務めた。さらに自民党側には「自民党賃貸住宅対策議員連盟(ちんたい議連)」があり、高橋氏は自民党ちんたい支部連合会会長として党員組織の拡大を進めた。同連合会の党員数は約4万人にまで膨らみ、自民党でも最大級の職域組織の1つとなった。
4万人の党員を背景に石破氏と「蜜月」
ここで注目すべきなのが、高橋氏と政治家との関係である。なかでも関係の深さが際立つのが、ちんたい議連会長を務める石破茂前首相だ。両者の関係を象徴する出来事が、石破政権発足からわずか1週間後の2024年10月8日にあった。この日、高橋氏は首相官邸を訪れ、午前11時53分から午後0時9分まで約16分間、石破首相と面会している。翌9日は衆議院解散の日だった。
当日の首相動静を見ると、石破氏の面会相手には林芳正官房長官、森山裕自民党幹事長、小泉進次郎選挙対策委員長、秋葉剛男国家安全保障局長、原和也内閣情報官など、政府・自民党や各省庁の幹部が並ぶ。そのなかで民間人の高橋氏が、総選挙を目前に控えた首相と面会している。「破格の厚遇」といってよい。
党員名簿を渡す高橋誠一氏
その背景にあったとみられるのが、自民党ちんたい支部連合会が有する約4万人の党員である。その力が発揮されたのが24年9月の自民党総裁選だ。多くの業界団体がほかの候補を推すなか、自民党ちんたい支部連合会は石破氏の支援に回ったとされる。国会議員票だけでなく党員・党友票が勝敗を左右する自民党総裁選で、4万人規模の党員を抱える組織の存在は決して小さくない。石破氏は決選投票で高市早苗氏を破ったが、5度目の挑戦で総裁の座を射止める過程で、ちんたい支部連合会の支援も大きな役割を果たしたとされる。
25年総裁選では小泉氏を応援
高橋氏が築いた政治ネットワークは石破氏だけではない。25年6月4日、東京・丸の内のパレスホテルで開かれた全管協の定期総会・シンポジウム後の交流会には、石破首相、小泉進次郎氏、菅義偉元首相らが来賓として出席した。この総会で高橋氏自身、「16社で始めた全管協が、35年経った今では2,000社を超えるネットワークとなった。何もないところから収益源を生み出し、国会議員にさまざまな要望ができるようになった」と述べている。組織拡大によって獲得した政治力を、高橋氏自身が強く意識していたことがうかがえる。
石破氏退陣後、25年10月に行われた自民党総裁選では、全管協関係者によると、今度は小泉氏を支持・応援していたという。この総裁選は国会議員295票と党員・党友295票で争われ、1回目の投票では高市氏183票、小泉氏164票で両氏が決選投票へ進出。最終的には高市氏185票、小泉氏156票で高市氏が勝利した。全管協が応援した小泉氏は敗れたが、国会議員票と同数の党員票が配分される総裁選において、4万人の職域党員を抱える組織の存在感は小さくない。
全管協関係者によれば、高橋氏は石破氏だけでなく菅氏ともつながりをもち、その菅氏は小泉氏の有力な後見人だった。石破、小泉、菅の各氏がそろって全管協の会合に顔を出していることからも、高橋氏が党員組織を背景として自民党中枢に幅広い人脈を築いてきたことが見て取れる。
過大な党員獲得要請 会員企業は反発
では、その政治力の源泉となった約4万人の党員は、どのように集められたのか。全管協関係者への取材から浮かび上がった実態は、「業界の政治力を高める」というだけでは片付けられないものだった。
全管協に加盟する複数の関係者によると、本部からは地方組織や会員企業に対して党員獲得目標が示され、その達成を求める強い働きかけが行われていた。実際、関係者に送られたメールには「現時点までに確保いただいています新規党員数のおよそ10倍の新規党員確保が全体として必要」と記載されていたという。関係者からは、党員獲得について「目標が高すぎる」「目標達成会議まで開かれる」との証言が寄せられた。
高橋氏らが求める政治力を維持・拡大するための負担は、全国の会員企業へ下りていったことになる。関係者からは「若い人の自民党離れが進むなか、党員になってくれる人を探すだけでも大きな負担」「本人の意思でなくても拒否しづらい環境がある」「ロビー活動の必要性は分かるが、業界団体として透明かつ公正な運営をしてほしい」「年々ノルマが増えている」といった不満が相次いだ。
さらに深刻なのが、会員企業やその代表者が従業員や退職者などの党費を本人に代わって負担していたとされる問題だ。当社には、本人が自らを自民党員だと認識していなかったケースまで寄せられている。退職者を含む「幽霊党員」の存在も指摘されている。当社が取材過程で入手した資料には「活動費を活用した新規党員の獲得フロー」まで示されていた。
党員獲得の陰で政治資金規正法違反の疑い
自民党の党費は一般党員が年間4,000円、家族党員が2,000円だ。党費は原則として本人が負担しなければならない。ところが当社の取材では、全管協の会員企業やその代表者が、党員本人に代わって党費を支払っていたとされる事例が明らかになった。
政治資金規正法第22条の6は、「何人も、本人の名義以外の名義または匿名で、政治活動に関する寄附をしてはならない」と定めている。党費の代理負担が同法上の寄付にあたると判断されれば、企業や代表者が本人に代わって党費を支払う行為は同法に抵触する可能性がある。少なくとも、本人が党員になったことさえ知らない状態で第三者が党費を負担していたとすれば、正常な党員獲得とはいい難い。全管協本部は、こうした実態をどこまで把握していたのだろうか。
もちろん、業界団体が政治連盟を組織し、政治家へ政策を要望すること自体は珍しいことではない。全管協が賃貸住宅業界の利益を政策へ反映させるため一定の政治力を必要とするとの考え方にも合理性はある。しかし、そのために会員企業へ過大な党員獲得目標を課し、本人以外による党費負担まで生じていたとすれば、「業界のため」という大義だけで正当化することはできない。
さらに重要なのは、こうして築かれた政治力が誰のために使われてきたのかという問題である。
業界の利益から高橋氏自身の利益へ
かつての高橋氏を知る関係者は、「昔の高橋氏は今とは違った」と語る。会長就任当初は日当さえ辞退し、みなし仮設住宅の創設や家賃の消費税非課税化など、文字通り業界全体のために奔走していた。それが、いつから変わったのか。
明確な転換点を特定することはできないが、ある関係者は09年に行われた三光ソフランホールディングスのMBO(経営陣による買収)を1つの可能性として挙げる。MBOによって経営の自由度が高まったことが、高橋氏の倫理的判断に影響を与えた可能性があるという。これはあくまで関係者の見方だが、その後の高橋氏をめぐっては、全管協と自身の事業との境界を疑わせる事例が表面化していく。
その1つが、高橋氏自身が経営する宮古島のリゾートホテルの会員権販売である。高橋氏は全管協の支部や取引先などに対し、総額2億4,400万円の会員権を販売したとされる。高橋氏は「法律的には問題ない」としているが、全管協の名誉会長という立場を利用して自身の事業の商品を会員組織や取引先に販売したのであれば、倫理・ガバナンス上の問題は避けられない。
実際、全管協全会員を対象に実施されたアンケートでは、回答した190社のうち、高橋氏が支部などへリゾートホテルの会員権を販売したことについて97.3%が「問題ある」と回答し、全管協の取引先などへの販売についても84.4%が「問題ある」と答えた。高橋氏についてはこのほか、自社の「ごみ処理プラント」の販売にも全管協の影響力を利用したとされる問題が、別の取材で浮上している。
長期支配の弊害 私物化された業界団体
高橋氏は23年に全管協会長を退任し、名誉会長となった。しかし、関係者によれば、その後も実権を握り続けているという。会長時代から数えれば、実質的に約27年間、全管協のトップに位置していることになる。以前は高橋氏に対して反対意見を述べる三役や理事も少なくなかったが、高橋氏が80歳を超え、他の役員との年齢差が広がった現在、「意見を言いにくくなっている」と関係者は語る。
全管協が自民党員の獲得を進めてきたのは、業界の政治力を高め、会員企業の要望を政治に反映させるためだったはずだ。しかし、その結果として生まれた約4万人の党員を背景とする強大な政治力が、長年にわたり団体内で強い影響力をもつ特定の個人によって利用され、組織の私物化につながっている可能性があるとすれば、看過できる問題ではない。加えて、党員獲得の過程では、会員企業に対する過大な目標設定や圧力、本人以外による党費負担など、政治資金規正法に抵触する可能性のある手法まで浮かび上がっている。
全管協には、これまで築いてきた政治力を業界全体の利益のために生かすという本来の目的に立ち返るとともに、党員獲得の方法や政治活動の実態を改めて検証し、問題があれば是正することが求められる。また、個人に権限や影響力が集中することを防ぐ仕組みを整え、組織としてチェック機能を働かせる──。2,000社を超える全国組織となった今だからこそ、全管協には一層のガバナンス強化が求められている。
【近藤将勝】










