金銭授受疑惑などで揺れる福岡県議会(定数87、欠員2)の9月定例会が始まった。「議長になるために金を渡した」と名指しされた5人のうち、「県議会のドン」と言われた蔵内勇夫(筑後市、当選10回)、中尾正幸(北九州市若松区、当選6回)の正副議長は議員を辞した。県と県議会は17日、高額な海外視察の妥当性や授受疑惑などを調査する3つの第三者委員会を設置した。いずれも弁護士が委員を務める。第三者委に支払われる委託費は約2億2,000万円。県と県議会の歪んだ関係のつけともいえる今回の問題は、捜査権のない弁護士の力で、どこまで真相究明が進むのか。政治不信が広がり続けるなか、県と県議会は変わることができるのか。本当に信頼を取り戻せるだろうか。
異例の定例会
9月定例会は9日に開会した。議場では、当選回数の少ない議員ほど前列に座る。最後列には、5人のうち、残る原口剣生(久留米市・うきは市、当選7回)、松本国寛(遠賀郡、当選7回)、松尾統章(北九州市八幡西区、当選7回)の3人の県議が並ぶ。初日の傍聴者は60人ほど。日ごろは10人程度というから、県民の関心の高さがうかがわれる。
蔵内前議長の後任を選ぶ選挙では、85人が無記名で投票。その結果、自民党県議団の大島道人県議(田川郡、当選4回)と「非自民」4会派が推す公明党県議団の新開昌彦県議(福岡市早良区、当選7回)が39票の同数で並んだ。くじ引きで、大島県議が第75代の議長に就任した。無効票6票のなかには、「新開」とだけ書いた票が3票もあった。県議会には「新開」姓の議員が、ほかに2人いる。事前の議会運営委員会では「きちんとフルネームで書くように」と注意喚起していたというが、3票を投じた議員は、なぜ「姓だけ」を書いたのか、その理由は判然としない。議長職はこれまで最大会派の自民党県議が独占してきた。それだけに、自民党ではない県議の就任を期待していた県民も少なからずいたはずだ。
大島新議長は「県民の信頼を大きく損なった。心よりおわび申し上げる」と頭を下げ、疑惑の解明に全力を尽くすとした。
お隣の佐賀県では、26年間も議長を務めた小原嘉登次氏のようなケースもあるが、福岡県議会では大物と言われた県議も例外はなく、概ね1年で交代してきた。議長に就任した順で、5人をみると、蔵内前議長が第54代、原口県議が第61代、松本県議が第62代、松尾県議が第63代、中尾副議長が第66代の議長を務めている。爆弾証言をした吉松源昭(もとあき)県議(糟屋郡、当選7回)は第70代で、2020年6月から1年間、議長をした。現在の県議の任期満了は27年4月29日なので、27年春には選挙が行われる。新しい顔ぶれとなっても「議長の1年交代」は続くのかが焦点になるだろう。
01年から1年間、議長をした蔵内前議長が25年に二度目の登板をしたのは、全国都道府県議会議長会会長のポストが25年から2年間、「九州地区」の順番にあたり、「重鎮でなければ、福岡県が会長になれない」との判断が働いたためだ。今回の問題がなければ、2年間、福岡県議会議長を務める算段だったはずだ。蔵内前議長の議員辞職にともない、全国都道府県議会議長会は現在、京都府議会の荒巻隆三・府議会議長が会長職務代理者となっている。
根回しせず
第三者委が調査するのは、金銭授受疑惑のほか、県庁の互助組織「部課長会」が、県議の政治資金パーティー券の購入を補助していた問題、県や県議会幹部による高額な海外視察問題だ。
金銭授受疑惑では、「渡した」という吉松県議らと「受け取っていない」という5人の言い分が真っ向から食い違っている。第三者委がどこまで真相を解明できるのか、今のところまったく分からない。パーティー券の購入補助問題では、補助が始まった経緯や法令違反の有無などを調べる。海外視察は21年4月以降、知事や副知事が訪問団長を務めた海外活動23件と、県議会の視察33件の計56件が対象になっている。公表された費用は計6億円を超えており、「大盤振る舞いのような海外視察だった」との指摘も少なくない。
県と県議会をめぐるこれらの問題の根底には、議会に対する県の過剰な忖度(そんたく)がある。県民から大きな批判を浴びたこともあって、服部誠太郎知事は「議会への根回し廃止」を宣言した。自民党の場合、議会の約2週間前には事前協議を始め、答弁も念入りに打ち合わせをしていたが、9月定例会では、質問と答弁の事前調整を最小限にしたという。
15日から始まった代表質問のトップバッターは自民党県議団会長、渡辺勝将県議(那珂川市、当選3回)。熊本地震を受けた防災対策、物価高に対応した賃上げ、中小企業支援など多くの問題を質した。質問項目は11日に通告。執行部側も答弁骨子を自民側に渡したが、その後の調整はしていなかったと聞く。知事の答弁を受けた再質問の内容は通告していなかったことから、議場内の各部長が何度も答弁メモをもって、知事に駆け寄ったり、耳打ちをしたりする場面があった。
渡辺県議は「知事の答弁がしっかりとしたものだったか、はなはだ疑問」と述べ、2時間を超える代表質問を締めくくった。傍聴した60代の男性は「再質問に対する答弁は何を言いたいのか分からなかった」と首を傾げた。17日の代表質問でも、議員の質問に対し、知事が答弁できなくなり、5分程度中断する事態も起きたという。
現職県議の1人は「県職員に質問を作成してもらうのは論外だが、打ち合わせのなかで、知事が答えやすいように、質問の文言を変更することもあった。事前調整をしないと、担当の県職員に驚くほどの労力をかけることになるのではないか」と懸念する。国会でも、官僚が議員会館に足を運び、議員本人から、質問の詳細などを聞き取る「問取り(もんとり)」をしているが、官僚の長時間労働の要因と指摘されている。県議会でも同様なことがあるかもしれない。議事運営に多少の混乱があっても、「お芝居」のような予定調和の議会よりもましという考え方もあるだろう。どこまでの調整が必要なのか。「県職員の働き方」につながる問題だけに、どこに最適解を見出すかは悩ましい。
(つづく)
【西嶋太朗】









