「大雨と渇水」にどう対処?福岡市の歩みと今後求められるもの

 8月下旬~9月上旬にかけて豪雨災害のニュースが全国をにぎわせた一方、九州北部地方は梅雨明け後に降水量が減少し、再び渇水の危機に迫られている。かと思えば、8月26日に福岡市内でゲリラ豪雨が発生し、道路冠水や停電も発生した。これらは、気候変動に起因する降水の極端化の一端である。高まる水害・渇水のリスクに対し、過去にいずれも経験した福岡市は、どう立ち向かえばいいのか、従来の取り組みや今後の課題を踏まえ、考えていきたい。

データが示す近年の降水の極端化

 近年の福岡では、気温上昇に加え降水の極端化傾向がみられる。2026年8月がその好例だ。平均気温は同月としては過去最高タイの30.5℃、降水量は平年8月の約半分の106mmだった。26日夕方には観測史上9位の1時間降水量67.0mmを記録した一方、降水を記録したのは26日と31日だけだった。

 中長期的な統計からも、福岡県を含む九州北部地方では、気温上昇や降水の極端化傾向がうかがえる(※1)。1967~2025年の平均気温は10年あたり0.34℃上昇している一方、3時間降水量100mm以上の極端な大雨の年間発生回数は、79~88年平均の約0.23回から、16~25年平均で約0.40回に増加した。その一方で、日降水量1.0mm未満の無降水日数も増加傾向が認められる。

 気温が1℃上昇すると、大気が含むことのできる水蒸気量は約7%増加する一方、海水温の上昇により供給される水蒸気量も増える。この過程で、水資源と水利用の間の水収支のバランスが崩れて、渇水リスクが高まる。気候変動にともない、今後降水の極端化のリスクが増大する可能性が高い。

※1:福岡管区気象台「九州・山口県のこれまでの気候の変化(観測結果)」による。

福岡市を襲った水害と渇水の歴史

 降水が極端化すれば水害、渇水のいずれのリスクも高まる。福岡市にはいずれも複数回見舞われた歴史がある。

 99年、博多駅周辺一帯や博多駅・天神の地下街が浸水に見舞われ、ビルの地下でも浸水による死者が発生した。博多駅周辺は4年後に再び水害に見舞われた。また09年には、樋井川や那珂川流域を中心に浸水被害が発生した。その一方で、78年と94年には渇水にともない300日近くの給水制限が発生しており、うち前者は大規模な給水車の出動が必要となり市民生活に混乱をもたらした。

表

 一級河川がない福岡市には、42の二級河川(水系数は13)があるが、いずれも勾配が急で河川長が短い。そのため、雨水の貯留が困難な一方で、いったん豪雨で流量が急増すれば氾濫が発生しやすい。市街化により雨水が地中に浸透しにくくなった点、潮位の影響を受けやすい点も影響している。

福岡市の地形と河川(福岡市道路下水道局計画部河川計画課「福岡市の河川概要」サイトより引用)
福岡市の地形と河川
(福岡市道路下水道局計画部河川計画課「福岡市の河川概要」サイトより引用)

水害と渇水双方へのレジリエンス強化の歴史

 前述の水害や渇水の歴史を踏まえ、福岡市では、双方に対する対策が着実に進められ、成果を上げている。

 代表的な水害対策の1つが、博多駅周辺地区や天神地区で進められてきたレインボープランだ。これは、雨水管やポンプ場の整備、貯留や浸透施設の整備、合流式下水道の分流化を一体に進める総合的な都市型の浸水対策である。

 博多駅周辺地区では、04年に策定が始まり12年6月に整備が完了した。ここでは、博多駅周辺の雨水貯留管の整備、山王地区での野球場やグラウンド地下を生かした雨水貯留池の整備(2エリアのいずれも約3万m3の貯留が可能)、博多駅北ポンプ場の新設が行われた。雨水整備水準は、99年の水害時の降雨に対応した79.5mm/時間に設定された。

 09年に計画が策定された天神地区では、まず59.1mm/時間の降雨に対応した整備が目指されている。6万m3の雨水貯留が可能な管渠の整備を中心とした第1期整備が19年に完了し、第2期の整備事業が進められている。

 市内の他のエリアについては、雨水整備Doプラン(18年度完了)や雨水整備Doプラン2026により、過去に浸水のあったエリアから重点整備地区を選定のうえ、59.1mm/時間の降雨に対応した整備が順次実施されている。個々の建築物に対しては、雨水貯留タンク・雨水浸透ます等の設置費用を助成する制度が設けられている。

博多駅周辺地区「レインボープラン博多」による水害対策(福岡市道路下水道局計画部下水道計画課サイトより引用)
博多駅周辺地区「レインボープラン博多」による水害対策
(福岡市道路下水道局計画部下水道計画課サイトより引用)
雨水貯留池にもなる山王公園野球場:写真右側に雨水の流入口があるほか、ライトポール際には水深計もあり
雨水貯留池にもなる山王公園野球場
写真右側に雨水の流入口があるほか、ライトポール際には水深計もあり

 これらの取り組みには、具体的成果もみられる。先行して雨水貯留施設が整備された博多駅周辺地区では、09年7月の豪雨の被害が軽微だった。72.5mm/時間の降雨があった13年8月30日の福岡の浸水被害は、3棟にとどまった。18年調査では、「浸水被害が軽減された」と感じる市民の割合は約7割にのぼった(※2)。

 行政と大学が連携した取り組みも始まった。26年6月に福岡市と福岡大学は、水災害への備えを強化する連携協定を締結した。これに基づき、福岡大学は、グランドを改修して約2,000m3の雨水を貯留する施設を整備する予定である。

 渇水への対応も順次進められてきた。1981年には、配水管の流量や水圧を24時間体制で集中コントロールする配水調整システムが導入された。83年には筑後川から福岡都市圏へ水を運ぶ「福岡導水」の通水が始まった。03年には福岡市節水推進条例により、大型建築物に対し再生水を利用した雑用水道の導入や節水計画書の提出が義務付けられた。05年には、1日5万tの生産が可能な海水淡水化施設「海の中道奈多海水淡水化センター(まみずピア)」が稼働を始めた。21年には、総貯水容量約4,000万m3の五ケ山ダムが供用を開始した。

 こうした取り組みの結果、94年の給水制限時には給水車は出動しなかった。そして94年以降は、年間降水量が78年を下回った05年を含め、給水制限は実施されていない。

※2:福岡市道路下水道局「雨水整備Doプラン2026」記載のデータによる。

依然として残る降水極端化対応の課題

 このように成果を上げてきた福岡市の水害、渇水対策だが、今後予想される気候変動や降水の極端化を前にすれば、課題も見受けられる。

 水害対策における課題の1つが、降雨の極端化に対応した整備の遅れだ。天神地区のレインボープランの基準は59.1mm/時間にとどまり、整備は完了していない。これを上回る1時間降水量を記録した26年8月27日にも、冠水や道路隆起などがみられた。コスト面を踏まえれば、行政によるハード面の水害対応は、地区間の優先順位を決めて段階的に行うしかない。新たな大規模な雨水貯留の余地も見当たらない。

 渇水対策の課題として、水源開発の限界と需要の増加が挙げられる。すでに筑後川水系に水供給の3分の1を依存する福岡市には、新たな水源開発の余地は見当たらない。一方、福岡市水道事業統計年報によれば、24年度までの10年間で年間給水量は7.4%増加し、23年度、24年度の年間給水量はいずれも前年比+1.2%と、給水人口を上回る増加を示した。今後は天神、博多駅周辺両地区の再開発にともなう給水量の増加に加え、AI需要に対応したデータセンターによる水需要の増大も想定される。

 両者の対策の連携は、現時点ではあまりみられない。たとえば、前述の雨水貯留施設で貯留された雨水は、次の大雨に備え貯留空間を空ける必要があるため、そのまま段階的にポンプから排出され、再利用されない(※3)。

※3:福岡市道路下水道局計画部下水道計画課に聴取して確認。

流域治水・水循環への福岡発のモデル創出を

 従来成果を上げてきた行政による水害・渇水対策のハード面の対策には、限界が見えてきた。今後は、緑地整備を生かしながら、都市全体に水の地下浸透や再利用といった「スポンジ」としての機能をもたせ、水害対策と渇水対策、貯留と利水を統合する「流域治水・水循環」へ転換する必要がある。前提となる水収支のモニタリングも欠かせない。

 実現に向けた新たな技術やビジネスモデルも必要だ。現在、東京大学などが水収支のモニタリングシステムの開発を進めている(※4)。福岡では、福岡大学が流域治水や水循環の研究を進めている。九州大学と民間企業の連携による雨水貯水地下タンク「ためとっと」(※5)の開発事例もある。

 今後さらに求められるのは、Fukuoka Growth NextやCIC Fukuokaなどのエコシステムの役割だ。気候変動や水問題に強い問題意識を持ち果敢に挑む「クライメイトテック/ウォーターテック」領域のスタートアップが、福岡から生まれてほしい。福岡市が官民連携でスタートアップなどへの実証実験のフィールドを提供し、気候変動適応の先行モデルを創出すれば、同じ課題に直面する国内外諸都市へのソリューション展開にもつながり、「スタートアップ都市福岡」の地位も真に高まるはずだ。

※4:花崎直太「気候変動の適応策と水不足の世界地図−世界の水資源のコンピュータシミュレーション  その4−」国環研View Deep 2026.8.24 https://www.nies.go.jp/kokkanken_view/deep/column-20260824.html
※5:「ためとっと」の詳細は、(株)大建HPなどを参照。


<プロフィール>
島倉孝之
(しまくら・たかゆき)
島倉孝之富山県射水市出身。不動産系シンクタンクの研究員として都市計画、資産評価、国連ハビタット関連業務などに従事。海外開催の起業支援プログラム参加後は、気候対策とヘルスケアを複合させたビジネス構想を進めながらライターとして活動。2024年に大谷翔平選手のコラム記事を連載。脱炭素まちづくり公認ファシリテーター。

記者募集

月刊まちづくりに記事を書きませんか?

福岡のまちに関すること、建設・不動産業界に関すること、再開発に関することなどをテーマにオリジナル記事を執筆いただける方を募集しております。

記事の内容は、インタビュー、エリア紹介、業界の課題、統計情報の分析などです。詳しくは掲載実績をご参照ください。

記事の企画から取材、写真撮影、執筆までできる方を募集しております。また、こちらから内容をオーダーすることもございます。報酬は別途ご相談。
現在、業界に身を置いている方や趣味で建築、土木、設計、再開発に興味がある方なども大歓迎です。
また、業界経験のある方や研究者の方であれば、例えば下記のような記事企画も募集しております。
・よりよい建物をつくるために不要な法令
・まちの景観を美しくするために必要な規制
・芸術と都市開発の歴史
・日本の土木工事の歴史(連載企画)

ご応募いただける場合は、こちらまで。不明点ございましたらお気軽にお問い合わせください。
(返信にお時間いただく可能性がございます)

関連記事