九州の観光産業を考える(48)「被災地観光」その語法、内実、希み

厄介事に寄せる厄介者?

 2026年7月28日、熊本は16年以来の大きな地震(令和8年熊本地震)に再び見舞われ、新たな被害が各所で積み重なった。九州ではほかに、九州北部豪雨(17年)、球磨川が氾濫した熊本豪雨(20年)から月日を経て、今なお傷は癒えない。

 近頃、地震や台風、洪水がやけに多い。このような天変地異は、日本に限った話ではない。熱波、渇水、寒波。地球がどう心変わりしたのか。気候変動はもとより、地殻プレートがスリップしたり偏西風や海流が大蛇行したりと、変異が過度だ。

 復興のまちづくりは概して行政を軸に、レジリエンス(創造的復興)といった今日の社会的要請を加味し、また反面で帰還住民の減少など、社会的現実(そもそも危険因子の免れない土地柄や少子高齢化)に晒されながら進められる。しかし、災害前の“普段通り”に戻る工程は、既述した地球の変節もあって遅滞する状況のようだ。

 そうした大局的な都市計画とは別枠に思えるのが、被災地の痛みを癒し取り除こうと、自発的に現場へ関わろうとする域外からの有志たちだ。こうした慈善の労務提供は、「被災地観光」「ボランツーリズム(ボランティア・ツーリズム)」「災害ボランティア」と、いろいろに表現される。

 「観光」という字面は、「名勝、史跡、温泉」などレジャー的、愉楽的意味合いをどうしても帯びてしまう。土地の惨禍と住民の悲嘆へ思い至す「被災地」という用語とを組み合わせる「被災地観光」には、どうにも違和感を覚える。あるいは、その表層的理解の先にある「風光を見物すること」の深意に迫らなくてはならないのか。

熊本城のくじけない復旧姿が地域を元気づけ、観光を奮い起こし、残る長い工程に希望を添える
熊本城のくじけない復旧姿が地域を元気づけ、
観光を奮い起こし、残る長い工程に希望を添える

呼称と類型

 これら用語の意味するところ、実相の整理を試み、それに即した“被災地におけるツーリズム”の有り様をうかがってみたい。

 その行動をどう呼ぼうと、善意が正しく理解されず、誤解による行き違いがそこここで起こるのは、国家としての損失だ。被災地におけるボランティアは、参加者の自己欲求と社会的要請、社会貢献を重ね合わせる、称えるに足る行為と信じたい(別表)。

【別表】被災地への訪問旅類型(公的な救援隊を除く)

用語 その意味合い その有り様
被災地観光  ある論文は、【復興の進み具合を確認しに現地へ赴き、安堵し喜びを感じ、消費により地域経済へ某かの貢献をしてくる旅】と定義する。AIの1つは【地震や津波などの自然災害を受けた地域(被災地)を訪れる観光のあり方。被害の現状や復興の過程を学び、防災意識を高める「復興ツーリズム」としての側面と、宿泊や消費を通じて地域の経済支援を行なう「旅して応援する」側面を持つ】とする。  復興が相当程度に進み、被災地、被災住民に物心とも余裕が生じて受け入れられる。現地被災者の暮らしぶりやプライバシー、受入環境、心情に最大限配慮し、単純見物ではなく「支援と理解」の姿勢を持つことが求められる。
 【経済の活性化:国や自治体が主導する観光支援策(例:〇△応援割)等を通じ、観光客が現地の宿泊施設や飲食店を利用することで、産業の復旧を支え、交流人口を拡大させる復興支援(復興応援ツアー等)】【教訓の伝承と防災学習:震災遺構の見学や「語り部」の体験談等を通じて災害の脅威を学び、自身の防災・減災意識を高める】というのが挙げられる。
ボランツーリズム
(ボランティア・ツーリズム)
 「ボランティア活動」と「ツーリズム」を組み合わせた新しい旅行スタイル。単に観光だけでなく、旅先での地域課題の解決、自然保護、災害復興支援等に自主的に参加し、地域との深い交流や自己成長を目的とする。
 代表的な活動では【環境保全・自然保護:ビーチや海洋の清掃、サンゴの植え付け、森林の整備等】【地域・農業支援:人手不足に悩む農家での収穫のお手伝い、伝統的な景観の維持作業等】【災害復興支援:地震や台風等の被災地における瓦礫撤去や復旧作業】【国際・文化交流:地域の国際イベントの運営支援や伝統文化の継承の手伝い等】がある。
 活動内容は、訪問者や地域の特性、課題によってさまざまで、災害復興支援に特定されない。
 【参加者にとっての特典:通常の観光では接点がない、その土地や地域の人々と深く関わることができる。社会貢献、新たな気づきや自己成長、スキルアップにつながる】があり、その地が好きで役立ちたいとか、それまでの訪問経験から恩返しのつもりで参加というのも少なくない。
 【地域の特典:少子高齢化や自然災害等で人手が不足する地域では、貴重な労働力となる。訪問者が地域のファンとなり、リピーターや「関係人口」増加につながる】が挙げられる。
 参加時の注意点としては【ミスマッチの回避:自分のしたいことと、地域が本当に必要としている支援内容が一致しているか、確認する】【自己満ツアーの意識:十分な準備をせずに現地へ向かうと、引き受け側に負担をかけてしまう恐れがある。宿泊先や食料を事前にしっかり確保し、安全管理にも注意】がある。
災害ボランティア  地震や水害などの自然災害が発生した際、被災地や被災者のために無報酬で復旧・復興のお手伝いを行なう。活動対象とされた家屋の泥出しや瓦礫の廃棄といった力仕事から、炊き出し、避難所の運営サポート、被災者の心のケアまで幅広く支援を行なう。
 主な活動では、【直接的な復旧支援:屋内の泥かき、浸水した床の清掃、家具の移動や瓦礫の撤去等】【生活・心のサポート:炊き出しや配食、避難所での運営手伝い、子どもたちの遊び場づくりや高齢者との交流】【後方支援・専門活動:救援物資の仕分け、ボランティアセンターの事務局運営、医療・建築などの専門知識を生かす相談対応】【現地に行かない支援:遠隔からの支援物資の提供、募金、当該地域の産物の積極購入、写真の洗浄作業等】
 参加時の心得・注意点としては、被災地での活動は自己責任が原則ということ。水、食料、宿泊場所、交通手段等は自分で手配し、被災地負担にならない準備が求められる。
 被災地側が一般のボランティアを募集し、募集条件(人数や地域制限)を満たしているかを事前に確認することが多い。一方的に押し寄せられても、受け入れ自治体側が対処しきれず、かえって行政業務の負担を増やすことになる。参加者には安全管理上、怪我を防ぐため、ヘルメットや防塵マスク、軍手、長袖・長ズボン、踏み抜き防止の厚底靴を着用するよう求められる。ボランティア保険への加入も薦められる。こうした流れを理解し、ボランティアを取りまとめるリーダー役が重要。「災害ボランティアセンター」がその中心を担い、受付と活動登録を行なう。
 被災者ニーズとボランティアの希望をマッチングさせ、オリエンテーションを施してから現場へ派遣。義侠心あるいはこれまでの恩義に報いる気持ちにかられ、早くから現地入りするボランティアや送られてくる支援物資も、ニーズにマッチせず困ることがある。被災後間もなく、支援物資の仕分けや避難所への配送を担う人手が足りない状況が出来する。本来、その任にある地元行政職員自体が被災者であり、彼らは緊急で他に担当せざるを得ない職務も発生するため、そうした物資の仕分けや配送に当たるためにも、地元の事情を受けての現地入りが望ましい。

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 多雨地域で知られる紀伊半島の山道を大雨のなか、筆者は1人車を走らせた経験がある。路面を舐め下る泥水の勢い、ガードレールをくぐり急斜面を流れ落ちていく水量。道端に転がり散らばる小さからぬ石が、土砂崩れの予兆のようで不安にかられる。業務出張の折、旅館で就寝中に土石流に襲われ命を失った知人のことも、脳裏をかすめる。また、雪下ろしツアーの経験からは、雪の重みで古い家屋の梁や柱が歪み、襖や障子の開閉ができない状況下、屋根の上ではスコップ1つのボランティア参加者たちが懸命に雪を掻く尊さを見た。

 頻発する自然災害に、我々は対峙せざるを得ない。当事者になる恐れはあるし、支援側に回ることもあるだろう。支え合う人の気配が、近くにあると心強い。被災地で余所者にボランティア精神を体現してもらうには、学際的な仕分けは脇に置き、彼らが各々の自己実現を果たし得る、必要最小限の受け入れ環境を用意してあげることに尽きよう。不便は不親切ではない。


<プロフィール>
國谷恵太
(くにたに・けいた)
1955年、鳥取県米子市出身。(株)オリエンタルランドTDL開発本部・地域開発部勤務の後、経営情報誌「月刊レジャー産業資料」の編集を通じ多様な業種業態を見聞。以降、地域振興事業の基本構想立案、博覧会イベントの企画・制作、観光まちづくり系シンクタンク客員研究員、国交省リゾート整備アドバイザー、地域組織マネジメントなどに携わる。日本スポーツかくれんぼ協会代表。

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