【業界を読む】木材利用の実践的「促進」へ 福岡県の需要をつなぐ業界間連携
「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が改正され、法律の対象が建築物一般に拡大して以降、福岡県においてもさまざまな木材の利用が進められてきた。そのようななか、2026年10月に福岡県木材利用促進協議会(木促協)が(一社)化した。木材利用の拡大に向けた実践のフェーズへと歩を進めている。
木材利用の「促進」掲げる
「木促協」とは
2021年に改正された「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律(通称:都市(まち)の木造化推進法)」を背景に、非住宅分野での木材利用に関心が高まっている。しかし、関心だけで需要が創出できるわけではない。山で木を育てる者、製材・加工して供給する者、設計・施工を担う者では、木材を扱うにあたっての条件や事情がそれぞれ異なる。それらを相互に理解し、木材を具体的な建築案件へと結びつける役割が業界全体で求められている。
福岡県内で、その役割を担ってきた団体の1つが福岡県木材利用促進協議会(以下、木促協)だ。木促協は26年10月に(一社)化し、実際に供給や設計、施工を担う事業者の参画を通じて、活動を実践の段階へと進めている。木促協の活動は当初、福岡県森林組合連合会と(一社)福岡県木材組合連合会の2団体を中心に、県内の木材供給体制を生かす方法を模索し、主に建築士向けの普及啓発を目的とする勉強会から始まった。福岡県内で育まれた森林資源をどのように地域社会へ循環させ、その産業的価値を高めていくかという問題意識が活動の原点だったという。
しかし、どれほど供給側が木材の魅力を訴えたとしても、実際の建築現場でどのようなかたちで木材を採用するかを決める「川下」の事業者、つまり建築士や建設業界の理解と協力がなければ、真の需要拡大にはつながらない。木促協によると、建築士の側にも、非住宅分野における木造化や木質化のノウハウが十分でなく、どのように設計へ取り入れるべきか苦慮していた経緯があるという。こうした双方の課題意識が合致し、(公社)福岡県建築士会をはじめとする建築関係団体が加わることで、林業・木材産業・建築の3者が対等に手を取り合う連携体制が確立された。
木促協は、名称に掲げる「促進」に、木造建築を増やすだけでなく、木材の価値を高め、供給から利用までの循環を後押しする思いを込める。単に建物の構造形式として木造建築の数を増やすことだけを目的として活動するのではなく、「木材そのものの価値をいかに高め、適正なかたちで流通・活用させるか」という、木材に関わる業界全体での循環を後押しすることに重心を置いている。地域で育まれた森林資源を単なる低価格資材として消費するのではなく、その社会的な価値を適正に評価し、循環させる。川上から川下までを視野に入れた「促進」が、木促協の活動の軸となっている。
川上の視点で見る
需要地としての福岡県
福岡県は、森林資源を有する生産地であると同時に、九州の木材を受け止める需要地でもある。林野庁の資料によると、22年3月末時点の県内の森林面積は22万4,136ha。県土に占める森林の割合は約45%で、全国の約67%を下回る。一方、森林面積に占める人工林の割合は約62%であり、こちらは全国5位となっている。今日まで、スギやヒノキなどの植林を通じて資源が形成されてきた。県内には八女スギ、京築ヒノキといった地域ブランド材がある。家具・建具生産で知られる大川市を中心に木工産業も集積し、木材を加工し、製品として付加価値を生み出す基盤をもつ。
需要面では、福岡市と北九州市の2つの政令指定都市を抱え、事務所、店舗、福祉施設など、木材を活用できる建築物が集まっている。地域材の利用に加え、九州各県の供給力と都市部の需要を結ぶ役割も大きい。また、木促協は、福岡県の情報発信力にも着目している。県内で木造化・木質化の事例をつくり、その設計や調達、施工の知見を共有できれば、九州のほかの地域での木材利用の拡大にもつながる。地域材を使う取り組みを進めながら、必要な資材や技術を広域で融通する。その両方を視野に入れた連携が求められている。
住宅需要の縮小を見据え
非住宅への利用へ
建築用木材の需要を長年支えてきたのは、戸建住宅を中心とする住宅産業だった。しかし、人口減少が進むなか、住宅分野だけに需要を依存し続けることは難しい。福岡県の24年度の新設住宅着工戸数は3万8,103戸で、前年度比約5.6%増だった。ただし、1989年度をピークに長期的な減少傾向にあり、木材の供給側も、新たな用途と需要を開拓する必要に迫られている。
関係者を取材したところ、住宅の低価格化や生産の合理化が進むなかで、価格を重視した資材選択が広がり、地域材の価値を十分に伝えにくかったとの指摘があった。住宅価格の低減が求められるなか、木材利用そのものが持つ環境的・産業的な意義を伝え、山で木を育て、長い歳月をかけて管理してきた林業関係者や木材生産者の適正な収益につなげることが課題となっていたという。そのほかにも、木材の加工について、大工による手加工からプレカットへ移行し、施工の標準化が進んだことも今日の木材利用状況に影響をおよぼしているという。住宅向けに整えられた供給・施工の仕組みが、そのまま非住宅へ移せるわけではないためだ。
全国の2024年の着工建築物を見ると、床面積ベースの木造率は47.2%。ただし、用途や階層によって木造率には大きな差がある。1~3階建ての低層住宅は80%を超えるのに対し、低層の非住宅建築物は15%程度、4階建て以上の中高層建築物は1%以下にとどまる。木材利用には依然として開拓の余地があるといえるだろう。住宅での地域材利用を続けながら、事務所や店舗、福祉施設などへ需要の裾野を広げる。そのためには、木材の魅力を訴えるだけでなく、発注者や設計者が採用を判断できる技術と費用の情報を示す必要がある。
新たなステージは
身近な非住宅建築
非住宅の木造建築では、先進的なものやデザイン性の高い建築物が注目を集めやすい。これに対し、木促協が重視するのは、地域の店舗やロードサイド施設、低中層オフィスなど、身近な非住宅建築の「中間領域」である。こうした建物で木材を使う方法を確立できれば、地域の供給者や施工者が参加する機会も広がる。特殊な建築物だけでなく、日常的に建てられる施設の選択肢に木造を加えることが、継続的な需要につながるという考えだ。素材の選定についても、集成材やCLT(直交集成板)のみに頼らない方法を模索している。これらは有用な材料だが、建物の条件によっては、製造・加工費や調達先、輸送距離が費用面の制約となる。地域外の遠方から調達する場合には、運賃に加え、輸送にともなう二酸化炭素排出量も考慮する必要がある。
一方、地域で一般に流通する無垢の製材品でも、設計や構造の工夫、JAS(日本農林規格)の格付けによって非住宅建築に活用できる。大径木や、曲がり・節があるため使いにくいとされていた材にも、設計や工法次第で用途を見出せるのだ。たとえば、トラス構造を採用したり、必要な部材断面を計算したりすることで、一般流通材を組み合わせて必要な空間と強度を確保する。もちろん、構造材として使う以上、材の品質や強度、乾燥状態などを確認し、設計条件に適合させることが前提となる。しかし、重要なのは、特定の材料を万能視することではなく、地域で何が調達でき、その材をどのように使えば建築として成立するかを考えることだ。供給側が材の情報を伝え、設計側が使い方を工夫する。木促協による3者の連携は、こうした具体的な判断に生きるという。
木造の経済性を示し
木材の魅力を訴求
非住宅への展開で、素材や構造と並んで重要になるのが、施工現場の管理と積算である。ゼネコンなどが手がける大規模な非住宅の現場では、多様な職種が同時に作業を進める。職長会議への出席、安全管理、詳細な図面作成、CAD入力、ほかの工種との工程調整など、住宅施工とは異なる対応が求められる。
木促協が取り組むのは、非住宅特有の管理業務と積算項目を整理し、必要な費用を正しく計上する手法の共有である。木造を安く見せるために管理費を削るのではなく、実際にかかる費用を把握したうえで、ほかの構造と比較する。木促協で理事を務める建築士によると、こうした管理費を織り込んでも、鉄骨造より木造のほうが数百万円単位で安くなる比較事例もあるという。建物の規模や仕様によって結果は異なるが、木造を選ぶ経済的な根拠を、積算によって示そうとしている。こうしたコスト比較や見積もり手法をさまざまな場で共有してきた。供給側の経験、設計側の構造的な検討、施工側の現場管理を突き合わせることで、木材利用の提案を具体的な発注につなげたい考えだ。
事業を動かす担い手を迎え
実践のフェーズへ
(一社)化にあたり、木促協が重視したのが、実際の案件を動かす「リアルプレイヤー」の参画だ。従来は業界団体を中心とした理念的な話し合いが活動の中心だったが、林野庁との意見交換も経ながら、供給、設計、施工を主導する事業者を巻き込み、建物を具体的に実現する組織への転換を進めてきた。
前述の通り、川上には、育った木を適切な利用につなげたいという事情がある。川中には、加工や乾燥、在庫、納期の条件がある。川下には、建築主の要望、法令、予算、工期に応える責任がある。それぞれが自分の事情を伝えるだけでは、案件はまとまらない。木材の供給条件を設計へ、設計上の要求を調達や施工へとつなぎ直す必要がある。
木促協の役割は、こうした異なる立場の間に入り、木材を使う意義と、実際に使える条件をすり合わせることにある。法人化を機に、相互理解を具体的な建築へと結びつける体制づくりを進める。活動は福岡県内にとどまらない。取材では、福岡県内のゼネコンとの連携、実績のある県外での構造見学会、九州各県との連絡体制づくりが、具体的な動きとして挙げられた。実際の構造を見て、材料の使い方や施工方法を知る機会は、図面や数値だけでは伝わりにくい点を補う。地域を越えて事例や課題を共有できれば、各地で同じ問題を一から解決する負担も減らせる。福岡の需要と情報発信力を、九州全体の供給力や技術につなぐ取り組みである。
見据える木材の価値は、建築費の比較だけではない。木の空間がもたらす快適性やデザイン性、それが利用者の評価や企業のブランディング、採用面での魅力にどうつながるかにも目を向ける。そうした効果を評価し、建築主や利用者へ伝える循環を目指している。木材を使う理由を示し、使える設計をつくり、必要な費用を積み上げ、施工までつなぐ。(一社)として再出発した木促協は、3者の連携を土台に、身近な非住宅建築から木材利用の実践を広げようとしている。
【若松大生】










