生き残りのカギは海外進出にあり
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福岡大学 経済学部 教授 阿比留 正弘
沈みゆくタイタニックで踊り続ける企業
今、マーケットが縮小するなかで、中小企業が生き残り策を探っていますが、私はマーケットが縮小する日本とは反対に、マーケットが拡がっていく地域もあることに注目する必要があると思います。日本で白物家電が売れた1960年代、経済産業省は国民所得が50万円から150万円の層を「新中間層」と呼びました。この新中間層にあたる人々が、海外では2010年から2030年の20年間に約7億人、1年に換算すると約3,500万人増えると言われています。日本では年間約100万人の人口減でマーケットが縮小していくのに対し、ASEAN諸国を中心とした海外では約3,500万人のマーケットが生まれていくわけです。日本企業の海外進出は、生き残りの絶対条件と言っても過言ではありません。
海外進出企業は以前に比べ増えたのでは、という意見もありますが、むしろ遅れていると言えるでしょう。九州には約23万社の企業が存在していますが、海外進出しているのはなんと964社。全体の0.4%の企業しか海外に進出しておらず、海外へ出て行かないどころか、出て行こうとさえしていないのが現状です。沈みゆくタイタニックで呑気にダンスしている、としか言いようがありません。九州の、とくに福岡県の企業は、もっと積極的に海外進出を視野に入れるべきだと思います。
というのも、実は福岡県は留学生の数が東京に次いで2番目に多い県なのです。九州にいる1万7,000人の留学生のうち、九州に残って採用されたのは419人で2.5%にも満たないことがわかりました。もったいないことだと思いませんか。「海外進出しようとした日本の企業が、ビジネスパートナーの外国人に騙された」という話をよく聞きますが、外国人留学生と組めば、そのリスクは格段に減らすことが可能でしょう。故郷に錦を飾りたいという志を持った学生が多いですからね。
海外で新たなニーズを発掘するためには、その国のことや文化のこと、国民性の違いや優先順位など、さまざまなことを知る必要があります。外国人留学生のビジネスに関する知識は豊富とは言えませんが、意識づけを行うことは可能です。現在、私は九州の学生たちに地元の企業を訪ねさせ、訪問先企業の困っている問題を企業と学生が一緒になって解決するという取り組みを行っています。これを近い将来、台湾の学生には台湾の企業を、香港の学生には香港の企業を調べさせ、交換留学で渡った先でその情報を交換するとすれば、お互いに必要な情報を交換することができ、日本企業の海外進出を後押しできると考えています。
本物のビジネスは生きる意味を教えてくれる
困っている人がいたら、その人が抱えている問題を解決して助けてあげる。それが私にとってのビジネスの基本です。世の中には儲けることばかりを考えている人がいますが、自分ばかりが儲けようとしているうちは、困っている人を本当の意味で助けることはできないと思っています。「困っている人をどうにかしてあげたい」。そう思うことが、実は自分を生かすことにつながっているのではないでしょうか。私の使命は、そのような自分の考えを学生に伝えることです。
起業家育成に取り組んでいるのは、「起業」が誰かのために一生懸命になることや、「生きる」ということを含んだ行為だからなんですね。日本は発展途上国と比べると、困っていることがあまりありません。発展途上国をはじめとする海外で困っている人を助けることが、自分を生かすことにつながり、ひいては日本人が見失いがちな「生きることの意味」を教えてくれると信じています。
※記事内容は2015年8月31日時点のもの
<INFORMATION>
福岡大学
学 長:衛藤 卓也
所在地:福岡市城南区七隈8- 19-1
創 立:1934年4月
TEL:092-871-6631
URL:http://www.fukuoka-u.ac.jp/<プロフィール>
阿比留 正弘(あびる まさひろ)
1953年生まれ。77年、青山学院大学経済学部卒業。現在は、福岡大学経済学部経済学科教授。学生ベンチャーの立ち上げを目指す実践的な講義をいち早く開講したことで、注目を集めている。関連キーワード
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