米国による米国企業のための日本国家戦略特区!(1)
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立教大学経済学部教授 郭 洋春 氏
「特区」構想が日本国内に浮上したのは、2002年10月に米国が送ってきた「対日年次改革要望書」(注1)による。当時の要望書では、「特区で成功した事項は可及的速やかに全国レベルに拡大する」ことを要求している。特区を突破口として、日本の社会構造を破壊しようとするのが米国の目的である。この要求の究極の狙いは、新自由主義の考え方に基づき、「外国企業などのために、『不要な規制』を外すこと」と「企業が最も儲かる社会をつくる」ことである。
そして、2013年12月に、「特定秘密保護法」の採決を巡って国会が紛糾していた陰で、密かに、その実行推進の根拠となる「国家戦略特別区域法」が成立した。このことは、日本国民にとって、どのような意味を持つのだろうか。
話題の近刊、『国家戦略特区の正体』(集英社新書)の著者である、立教大学経済学部教授、郭洋春氏に聞いた。
特別経済区は途上国で真価を発揮する開発の手段――話題の近著を拝読させて頂きました。先ずはこの本を著された動機からお聞かせ頂けますか。
郭洋春氏(以下、郭) ご存じの通り、安倍政権は成長戦略の1つの大きな柱としてTPPを全面的に押し出しています。(安倍総理は3月8日の朝の閣議で「TPPはアベノミクスの成長戦略の切り札だ」と発言)一方、約2年前の「国家戦略特別区域法」の成立時には「国家戦略特区をアベノミクスの成長戦略の大きな柱にする」という発言をされています。この一連の発言に違和感を覚えたことが本書を書いた大きな動機です。
私は開発経済学が専門ですが、そもそも「国家戦略特区」のような特別経済区(Special Economic Zone、以下SEZ)というのは、「開発途上国が工業化に向けた開発を行う際に重要な手段」として使用するものです。現在、世界に3,500以上存在するSEZは、ほとんど全てと言っていいほど(注2)、開発途上国に設けられています。開発途上国では、お金や、技術が不足しています。そこで、SEZをつくり法人税や、所得税の減免などを行うことによって、外資の進出を促し、自国労働者の雇用促進などにつなげるわけです。つまり、SEZというのは途上国で真価を発揮する経済政策なのです。
ところが、日本はGDPベースで、米国、中国に次ぐ、世界第3位の経済大国です。私のこれまでの研究に照らし合わせて考えても「いったい、何のために?」という疑問を感じざるを得なかったのです。大げさに言えば、日本という経済的に成熟の域に達しているはずの国家で、SEZが成功すれば、「世界史上初の快挙」ということになります。
因みに、1972年に沖縄に設置された「自由貿易地域」以降、小泉政権下の「構造改革特区」、菅政権下の「総合特区」を含めて、日本に設置されたSEZで成功の例はありません。TPPと絡めて、「国家戦略特区」を考えてみると
次に、安倍政権の「国家戦略特区」の内容を精査すればするほど、「なぜ、これだけ多くの『規制緩和』に関する項目が散りばめられているのだろうか」という疑問が湧いてきました。
ではなぜ、誰でもちょっと考えればこのような疑問が出てくる「国家戦略特区」を敢えて、安倍政権はアベノミクスの成長戦略の大きな柱にしたのか。もしかしたら、この経済政策の背景には、何か別の目的が隠れているのではないかと考えるようになりました。私は、先に『TPPすぐそこに迫る亡国の罠』(三交社刊)という本を書いているのですが、そのTPPと絡めて今回の「国家戦略特区」を考えてみると、色々な疑問が解けてきたのです。
TPPは昨年10月に大筋合意しました。現在は、米国大統領選の影響で、その進行は後れていますが、TPPが発効されれば、当然のように米国資本が日本に入ってきます。しかし、その時点では、日本には多くの規制や非関税障壁が残っています。当然、ISDS条項を含めて米国の多国籍企業から大きな圧力がかかります。その時に、安倍政権は「東京、関西圏など日本の主要都市の国家戦略特区においては、皆さんのご希望通りのことが何でもできるように開放してあります」と言うつもりではないのか。つまり、TPPにおける、米国多国籍企業に対する“エクスキューズ(言い訳)”や“露払い”として「国家戦略特区」を使おうとしているのではないかと思えてきたのです。
国家戦略特区は、かつてアヘン戦争敗北後の中国に存在した「租界」や、日本でも幕末から明治にかけて、欧米列強と不平等条約を結んでいた時代に存在していた「居留地」のような「治外法権区域」に他なりません。
(つづく)
【金木 亮憲】(注1)対日年次改革要望書
1994年頃から日本に米国から突きつけられた「日本政府に対する勧告書」。実体は勧告書というよりも強い要求・命令である。2009年に自民党から民主党へと政権交代した後、鳩山内閣時代に廃止した。1994年から続いた「対日年次改革要望書」によって、(1)建築基準法の改定、(2)商法の改定、(3)金融の自由化、(4)郵政公社の民営化、(5)医療支出の削減と混合診療の認可要求、(6)時価会計の導入、(7)司法制度改革、(8)大店法の改定、(9)労働基準法の改定など、すでに多くのことが“カイカク”させられている。
(注2)米国には、230ヶ所以上の、いわゆるSEZの範疇に入る外国貿易地域(Foreign Trade Zone)と400カ所のサブゾーンが存在する。しかし、そのほとんどは対外貿易をする上での税関手続きを簡素化するなど自由貿易港としての性格を有するに留まるものである。外資の誘致という目的、外国籍企業への優遇措置を充たしていない点で、本来のSEZとは切り離して考えることが一般的である。<プロフィール>
郭 洋春(カク・ヤンチュン)
1959年7月生まれ、立教大学経済学部教授。専門は、開発経済学、アジア経済論、平和経済学。著書として、『韓国経済の実相─IMF支配と新世界経済秩序』(柘植書房新社)
『アジア経済論』(中央経済社)、『現代アジア経済論』(法律文化社)、『開発経済学―平和のための経済学』(法律文化社)、『TPPすぐそこに迫る亡国の罠』(三交社)、『国家戦略特区の正体』(集英社新書)。共著として『環境平和学』(法律文化社)、『グローバリゼ―ションと東アジア資本主義』(日本経済評論社)、『中国市場と日中台ビジネスアライアンス』(文眞堂)、その他多数。関連キーワード
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