2024年12月24日( 火 )

世界はITによる第3次産業革命のまっただ中!(前)

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 Skypeの発明やNATOサイバー防衛協力センター(首都タリンに設立)などで、電子国家エストニアの知名度が高まっている。エストニアは、旧ソ連から1991年に再独立したバルト3国の1つで、九州よりやや広い国土に、福岡市とほぼ同じ人数(約130万人)が住む小国である。しかし今、この小国に世界の国から、年間1,000組を超える政府関連使節団などが訪れる。同国の役所・会社の職員の机の上には、ほとんど1枚の書類もない。政府会議では、原則紙の資料は配布されない。
 近年は日本でも、省庁横断的にICT推進を進めるCIOを設置し、国民1人ひとりに番号を付与した「マイナンバー制度」が今年から開始されるなど、電子政府への動きが加速しつつある。

 東京・神宮前にあるエストニア大使館に、エストニア投資庁/エンタープライズ・エストニア(※)の山口功作・日本支局長を訪ねた。
 山口支局長は「今、世界はITによる第3次産業革命のまっただ中にあります。そして、あと4、5年でこの産業革命も終わります。日本もその波に乗り遅れるべきではない」と、デジタル社会のメリットを熱く語った。

ITは将来的に大きなキーポイントになる

 ――本日はお忙しいなか、お時間をいただきありがとうございます。電子国家エストニアは、今、世界の注目を集めています。本日は電子国家について、また日本の電子政府の将来についていろいろと教えていただきたいと思います。まず、日本とエストニアとは、今、どのような関係にあるのですか。

山口 功作 日本支局長<

山口 功作 日本支局長

 山口功作氏(以下、山口) エストニア政府にはアジア戦略というものがあって、その拠点は日本と中国です。とくに日本とは、サイバーセキュリティに関する協力の必要性に基づき、「日・エストニアサイバー協議」を開催しています。エストニアはこれまで大国との取り組みはすべて「バルト3国と大国」という枠組みのなかで行ってきました。2国間だけの協議は、日本が初めてになります。日本にとってもITというのは、将来的にはやはり大きなキーポイントになると思っています。日本が優れている点、エストニアが先行している点など、お互いに補完できれば好ましいと感じています。

 エストニアは、わずか130万人のマーケットです。その100倍の約1億3,000万人のマーケットである日本が目線を合わせていただくことは、とても重要であると考えています。これからは、好むと好まざるとにかかわらず、国家運営はもちろん、社会そのものがデジタル化していきます。その影響は、当然、現在はITに関わっていない既存のあらゆる産業にまでおよびます。自分の産業がデジタル化するとどのような変化が起こるのか、社会がデジタル化することによって、自分の産業はどのような影響を受けるのか。そこでの、取り組みや姿勢について、日本とエストニアが共同歩調をとれるということは、とても大きな意味を持ちます。

具体策に行く前段階の啓蒙がとても重要

 ――ITに関する政策で、日本とエストニアはどのような共同歩調をとることが可能ですか。

 山口 ITに関する政策を考える場合、2つの前提の理解が重要です。1つ目は具体策に行く前段階の啓蒙です。これからの社会が、デジタル化していくことはたしかだと思います。しかし、そうなっていくことへの充分な理解と、その概念の共通認識が必要です。
 その前提なくして、「こういった産業が協力できる分野です」と申し上げても、この目線が定まっていなければ、「技術的にはすごいが、ところでこれはどこで、どう使うの?」という話になってしまうからです。

自分に大きな権利が委譲されるという認識

 2つ目は、エストニアで言えば「eIDカード」、日本で言えばマイナンバーですが、これらの実施に関して、「何が便利になりますか」ではなく、「自分に1つ大きな権利が委譲される」という認識が持てるかどうかです。このことはとても重要です。

 多くの方はデジタル社会になって、情報が漏れることを危惧されていると思います。しかし、情報が漏れるときは、たとえば、開けてはいけないファイルを開いてウィルスが動き始めるなど、必ず人の手が介在しています。人の手の介在を減らしていくことによってリスクはどんどん少なくなっていくと、技術者目線では信じられています。私もデジタル化とは、自分のデータがどんどん安全になっていくことだと考えています。

 たとえば、年金機構の職員が有名人の情報を、興味本位で紙の台帳でのぞいた場合、のぞいたことを証明する手段は今ありません。ところが、すべてデジタル化されると、「誰が」「いつ」「どんな目的で」のぞいたかがわかるようになります。医療に関するデータなど、すべてのデータがそうなります。これは何を意味するのかと言いますと、自分のデータに関するコントロール権が、自分に移譲されたことを意味します。非常に大きな権利移譲と言えます。

 ちなみに、エストニアではこの約15年間、自分のeIDカードがハッキングされたとか、電子署名が偽造されたという人は、1人もいません。

(つづく)
【金木 亮憲】

※エストニア・エンタープライズ
 政府所有機関で、技術革新、研究開発、人材育成など各種助成金プログラムへの企業からの申請を評価し、助成金を交付して企業を財政的に支援。外国の事務所を通じて、海外に存在するエストニアの企業も支援。ロンドン、ヘルシンキ、ストックホルムなどのヨーロッパの都市他、上海、シリコンバレー、東京などに事務所がある。

 
(後)

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