2024年11月26日( 火 )

【熊本地震最前線レポート】(28)九州が南北に動き出した?~熊本地震はなぜ発生したか

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 4月16日午前1時25分に発生した熊本地方を中心とする地震について、気象庁は一連の地震の「本震」であると発表した。14日午後9時26分に発生した平成28(2016)年熊本地震は「前震」、つまり16日の本震を起こすきっかけであったということになる。本震の発生後、それまで熊本地方に集中していた震央地域は阿蘇、大分と東に拡散している。九州の地下で何が起こっているのだろうか。

 地震は大きくプレート型と内陸型に分けられる。プレート型地震は海洋プレートが海溝に沈みこむ際、大陸プレートを引きずり込み、そのひずみが元に戻ろうとして起こる。このため日本では太平洋沿岸でしか発生せず、震源は海底の地下深くに現れる。巨大地震になることが多い。多くの地震で津波を伴うのが特徴。代表的なのは関東大震災や東日本大震災。世界的には東南アジアの島嶼国家、ネパールなどでもひんぱんに見られる。

地震被害の様子(15日撮影) 地震被害の様子(15日撮影)

 内陸型は地下の断層が動くことによって起こると考えられている。断層とは、地下の地層もしくは岩盤に力が加わって割れ、割れた面に沿ってずれ動いて食い違いが生じた状態のこと。震源はプレート型よりも浅く、都市の直下になることもあるため、被害が拡大しやすい傾向にある。津波が発生することはまれ。代表的なのは阪神・淡路大震災、新潟中越地震、福岡西方沖地震。熊本地震をはじめとする今回の一連の地震も内陸型に分類される。

 「前震」の熊本地震は布田川断層帯と日奈久断層帯で起こったとみられている。布田川断層帯は熊本県南阿蘇村から益城町木山付近を経て、宇土半島の先端まで至る断層帯。おおむね東北東から西南西方向に延び、全体の長さは64キロとみられている。阿蘇村から木山付近まで約29キロの布田川区間、木山区間から宇土市中心部まで約20キロの宇土区間、宇土市住吉町から宇土半島北岸に沿って半島先端まで約27キロの宇土半島北岸区間からなる。

 日奈久断層帯は益城町木山付近から芦北町を経て、八代海南部に至る断層帯。おおむね北東から南西方向に延びる全長約81キロと考えられている。益城町木山付近から宇城市豊野町山崎付近まで約16キロの高野―白旗区間、宇城市豊野町山崎から芦北町の御立岬付近に分布する約40キロの日奈久区間、御立岬付近から八代海南部まで約30キロの八代区間からなる。

 14日の「前震」や16日の「本震」など、震央地域が熊本地方と発表されている地震は、布田川断層帯と日奈久断層帯に沿って震源が集中。これらの地震は断層が横にずれることで発生したとみられている。断層が伸びている地域をみれば、既に報道されている被災地ばかりだということが分かるだろう。布田川、日奈久いずれの断層帯にも過去に活動した形跡があり、2~3メートルのずれが生じたと考えられている。その場合はマグニチュード6後半から7半ばの地震が発生するとされ、それは今回の地震にもあてはまっており、もともと想定の範囲内にあったというべきだろう。

 16日の本震発生以降、それまで熊本地方に集中していた震央が阿蘇や大分県中部、西部まで広がった。これらの地域は布田川断層帯、日奈久断層帯に沿っていない。3時3分発生のマグニチュード5.8、最大震度5強、同55分発生のマグニチュード5.8、最大震度5強の震央はいずれも阿蘇地方。7時11分発生のマグニチュード5.3、最大震度5弱をはじめとする大分県中部、西部を震央とする地震は、別府―万年山断層帯沿いで起こっている。 別府-万年山断層帯とは、大分県東部の豊予海峡付近から別府湾内、大分平野を経て熊本県境付近まで、ほぼ東西方向に分布する断層帯。つまり地震活動は八代海から別府湾の方に向け、九州を斜め上に横切るように移動しているのだ。

sakaya 地震被害の様子(15日撮影)

 地震活動が移動すること自体はそれほど珍しいわけでもない。問題なのはこの移動しているエリアだ。九州には別府湾から久住、阿蘇山を経て、島原半島に達する別府―島原地溝帯があり、南北を分断している。地表に達した断層がずれによって崖をつくり、この崖がほぼ平行に走る間にできるくぼみを地溝といい、その大規模なものが地溝帯。付近に火山がない別府や湯布院などで温泉が湧くのは別府―島原地溝帯にあるためで、阿蘇山や雲仙火山、普賢岳などもこの地溝帯沿いに分布する。九州の自然に大きな影響を与えているのだが、1年に数センチずつ南北に分かれているといわれ、遠い将来には九州を真っ二つにしてしまうという。非常に大きなエネルギーを持つ地溝帯であり、今回の一連の地震にも影響を与えているのは間違いない。

 布田川断層帯・日奈久断層帯にたまったひずみが横ずれでそのエネルギーを放出したのが熊本地震の発生原因とみられるが、阿蘇山は2014年8月30日に噴火し翌15年9月14日には入山規制されるなど活発な活動を続けている。4月16日午前8時30分ごろ、再び阿蘇山の中岳第一火口が小規模な噴火を起こした。気象庁は一連の地震との関係性は不明としているが、十分に疑うことはできる。阿蘇地方を震源とする地震も多発しており、それが地下のマグマを刺激した可能性は高い。とはいえ、すべては地下でのできごと。専門家も見たわけではなく、たとえば重力異常などの測定から断層の位置を割り出すなど、ほとんどは推定でしかないのだ。地面の下は宇宙よりも遠い世界。ただ自然の脅威は常にすぐそばにあることを忘れてならないと、今回の地震はあらためて教えてくれた。

 
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