リペア社会へのシナリオ(中編)~幸せな消費に転化できるか~(2)

    平和な国には「平和な国の苦しみ」がある。どこまでも理想を追い求めることができる環境にいるから、「理想からの引き算」でモノを見ることになる。もっと良い成績、もっと良い暮らし、もっと良い評価、もっと良いポジション―「もっと、もっと…」という心の飢餓とともにある。それが「自分の思い」ではなく「他人目線」に依存しているから、なお苦しい。頑張っても、自己充足がなされ得ない。

いよいよ5Rへ

いよいよ5Rへ pixabay
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    自分で修理する・誰かに依頼するに関わらず、修理という道を選んだ瞬間、“自分の意志で動いた”という感覚に陥る。この包丁を研ぐ、穴を塞いでキズを直す、動かなくなった時計を修理してもらう──修理されたものを引き取るとき、処分や買い替えを選択しなかった道は、他者や社会通念に従っていただけの自分とは違う、何か子どもを育てているような感覚。それは、“無意識に選ばされる消費”から“自己意識ある消費”へ転化された瞬間かもしれない。「この人生は本当に自分が望んだものだったのか」そこまでは大げさだけれど、“自分の人生の主導権を取り戻す”といえないだろうか。密度を上げていけば、このくらい修理という選択は新たな視野を見せてくれるかもしれない。

 過剰な消費を避け、身の回りのものを大切にするという「5R(ファイブアール)」という5つの行動指針がある。ロスを減らすための行動としては「3R(スリーアール)」が有名だが、5Rは、3RのReduce(リデュース)・Reuse(リユース)・Recycle(リサイクル)に、Refuse(リフューズ)とRepair(リペア)の2つを加えたものだ。

<Reduce(リデュース):ゴミの発生を少なくする>

 モノを買い過ぎない、食品をつくり過ぎない、食べ残さない、トレンドに左右されず長く使えるものを選ぶ、丈夫な服を買って長く着回したり、必要な分だけ受注生産する、詰め替え用洗剤を使うことでゴミを減らす、などの取り組み。

<Reuse(リユース):ものを繰り返し使う>

 モノを長く使うことで、ゴミを減らすということ。フリーマーケットやリサイクルショップで中古品を買ったり、何度も使えるリターナブルびんを使ったりすることで、ゴミを減らすことができる。使い捨て商品を選ばないなど。

<Recycle(リサイクル):資源として再生利用する>

 ゴミを再び原材料に戻したり、エネルギーとして有効に活用したりすること。びんや紙、ペットボトルなどは、リサイクルしやすい材料として知られている。リサイクルするためには、ゴミが正しく分別されている必要があるため、日常生活でもリサイクルを意識し、きちんとしたゴミの分別を心がけたい。

<Refuse(リフューズ):断る>

 ゴミの元になるものを買ったりもらったりしないことで、ゴミを減らすという取り組み。エコバックを活用してレジ袋をもらわない、マイタンブラーを使用して使い捨て容器をもらわないなどの行動が該当する。過剰包装を断る、不要なものはもらわず断るなど。“便のときに併せてでいいよ~”といった、「配送を急がない」という選択もここに含まれるかもしれない。

<Repair(リペア):修理して使う>

 モノが壊れたときに、修理してできるだけ長く使うこと。ぬいぐるみ、服、革靴などは、修理も簡単で、長く手元に置くことができる。また、古くなったり壊れたりした家具をリメイクするなどの行動も、ゴミを減らすうえでは重要。壊れる前にメンテナンスして、すぐに捨てるのではなく、修理できるか調べる、洋服や家具などのリメイクを楽しむ、修理サービスを行っている店の商品を選ぶなど。

修理は贅沢ではならない

 2016年、モノの修理への減税を発表したスウェーデンをはじめ、北欧では「買って捨てる」消費に終止符を打つための取り組みが行われ始めている。「捨てる」を前提としない、新しいものづくりと消費のかたち。壊れたら直す。その選択肢が日常に溶け込んでいる社会が、ヨーロッパにはあるようだ。

 ヨーロッパではリペア文化を支える政策や取り組みを積極的に展開していて、その背景にはいくつかの重要な要因がある。まず「環境意識の高さ」。気候変動や資源の枯渇といった地球規模の課題に早くから取り組み、その一環として廃棄物削減と資源循環を促進する政策が数多く導入されている。リペアは、これらの目標を実現するための重要な手段と位置付けられているのだ。さらにヨーロッパでは、地域経済の活性化と雇用創出を目的として、修理業者を経済的に支援する政策が推進されている。地元の修理業者が活躍することで地域コミュニティが活性化し、経営自立が促進される。修理がもたらす最も明らかなメリットは、経済的利点と環境的利点だが、見過ごされがちな3番目のメリットは、自分の所有物を診断して修理するとき、私たちは周囲の世界との相互作用を再構築していることだろう。同時にモノの理解を深め、新しいスキルを身につけて、コミュニティのなかで社会的結びつきを強めている。

 修理を考えて設計された製品とは、どのようなものだろうか。理想的な世界では「Fairphone」のようなものだ。2013年、バス・ヴァン・アベルがアムステルダムに設立したフェアフォン(Fairphone)は、その名前をつけた4種類のスマートフォンを市場に投入した。Fairphoneはアフリカの紛争鉱物危機に対応して設立され、耐久性と修理に重点を置いた製品設計に取り組んでいる。デバイス本体は、標準のドライバーを使用して簡単に分解でき、専門的な知識がなくてもバッテリーやディスプレイを自分の手で交換することが可能。ヴァン・アベルはこう説明する。

Fairphone 公式HP
Fairphone 公式HP

 「スマートフォンを2倍長く使用すると、製造数は半分で済みます。…そこで商品を簡単に交換できるようなスマートフォンを設計しました。たとえば、もし落として画面が割れてしまっても、自分で交換できます。時間とともに壊れる可能性のあるコンポーネントのすべてを、交換できるようにしています」。

 急成長中のスタートアップの1つとなったフェアフォンは、すでに数十万台の機器を販売し、すばらしい偉業を達成している。

エシカル消費とは

 修理を前提にした製品設計は容易ではなく、機能性、デザイン的な美しさ、耐久性、安全性、コスト、これらすべての制約を受ける。たとえ設計チームが体系的な設計プロセスを重ねて、最善の意図をもっていたとしても、修理機会は多くのプロセス段階で削ぎ落されていくことは多い。だから、モノの設計、ひいてはビジネスのサービス設計段階では、大きな世界観を組み立てておく必要がある。全体のサイクル―作って、使って、その後の終焉までのモノの一生―に対し、俯瞰視点で企画・開発に向かわなければならない。

エシカル消費とは 消費者庁HPより引用
エシカル消費とは 消費者庁HPより引用

 消費者側の動向として、「エシカル消費」「エシカル就活」「エシカル〇〇」という言葉も出てきている。エシカルとは、倫理的、道徳的な意味をもち、「エシカル消費」とは、人や社会、地域、環境に配慮した商品やサービスを選ぶ消費行動のこと。発祥は1980年代のイギリスである。“良いものだから買う”ではなく、“悪いものは買わない”、いわゆるボイコットは日本でも若い人を中心に増えてきている。これは、売上には上がってこない“見えない数字”として扱われ、企業の生命を脅かす可能性がある。「エシカル消費」は消費者の倫理が問われてくるが、実は「エシカル生産」も同時に非常に重要なテーマとして存在し、企業側の倫理、つくり手側の世界観は今後、選ばれる側として危機感をもたなければならない重要ファクターだ。消費の選択と労働の選択(企業を選ぶ)を重視する層は、確実にマジョリティになりつつあり、すでにその時代へ突入している。その商品、その企業の未来を決める視点は、徐々に変わりつつある。

 良い取り組みをしている企業には、ちょっとした感想でも、応援の声でも届けたい。「これは良かった」「これはいらない」(できればエシカルな視点でポジティブな声を)など、我々生活者がお金をもたずしてもできる「応援」だ。その後の企業の進む道を大きく変える一歩になるかもしれない。エシカル消費は、買うことよりも、その背景にある物語を誰かと話すことができる「つながりの代理」と言い換えることができる。大量生産では生まれにくいもので、消費者と生産者がつながれる仕組みの構築により、課題解決の方向へと歩みが進むはずだ。また、それがどんな良い影響を与えることになったのか、貢献の見える化(データなり、数値なり)は、最低でもセットとして提供するのが良い。根拠があることで購入の動機につながりやすいし、何より説得力が高い。

 しかし、本当に難しいのは、その数値があったからといって、消費者がそこに向かって行動に移せるかということ。情緒的なハードルを越えていくこともあるだろうし、何より「エシカル消費」を正しさの押し付けにしてはいけない。選択の自由は個人に託されるもので、あくまで「楽しさ」「共感」を以て、自分の考えのなかで選択の自由は果たされるべきだろう。

(つづく)


松岡 秀樹 氏<プロフィール>
松岡秀樹
(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。

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