2024年12月23日( 月 )

どうなる新耐震基準、地域係数の見直し必要~熊本地震、損壊住宅1万棟(中)

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耐震設計は、「強さ」よりも平面的立面的バランス

 ――体育館だけでなく、ホテルや旅館などでも耐震化工事が進んでいます、耐震化工事とはそもそも何でしょうか。
 仲盛 まず耐震基準という時、建築基準法に基づく現行の耐震基準は、1981年6月1日に導入され、新耐震基準と呼ばれています。それ以前が、いわゆる旧耐震基準です。阪神・淡路大震災で、旧耐震基準で建築された建物に大きな被害があったため、国が耐震改修を促進することになったのです。2013年11月からは、不特定多数の人が利用する建築物などに耐震診断の実施と報告が義務付けられました。またすべての建築物に耐震診断と必要な耐震改修の努力義務が課せられました。

 ――全壊・倒壊した建物は、新耐震基準前の建物だという声もありますが、壊れたのは旧耐震基準だからと切って捨てられるのでしょうか。新耐震ならまったく問題ないといえるのでしょうか。
masiki10 仲盛 旧耐震の建物でも、平面的、立面的にバランスのいい建物は被害を受けていないものがみられます。新耐震でも、バランスの悪い設計の建築物は、大きな被害を受けたものがありました。典型的なのは、新潟中部地震で、基礎ごとゴロンと倒壊した建築物です。地震の揺れを建物や部材が変形することによって抑え込むのが耐震設計ですが、耐震設計の出来の良し悪しは、ただ単に構造計算の結果が強ければ強いほどいいわけではありません。バランスが悪い構造設計は、建物の特定の箇所に力やたわみが集中し、そこにだけ大きな変形が生じるからです。

免震構造は有効だったが、免震ゴム交換が不可欠

 仲盛 今回の熊本地震では、免震設計の建築物はなんともなく、効果が実証されました。免震設計は、地震で加わった力を吸収する構造だからです。免震ゴムの偽装の問題で騒がれましたが、免震設計そのものの有効性は確かです。ただし、1回受けたら、1メートル揺れるわけで、免震ゴムが制限いっぱいのストレスをため込み、次の震度6強~7の地震の力を吸収することができない恐れがありますので、ゴムを交換する必要があります。だから、もともとゴムの交換を想定して、建築物全体をジャッキアップできるように造っているのです。
 免震構造の建物の上部構造は、構造計算上の地震力を小さく設計できるため、一般の耐震構造の建物の50%以下の強度しか有していません。仮に、震度6強~7の地震を受けた免震建物の免震ゴムやダンパーを交換せずに、そのまま使用した場合、これらの免震装置が有効に働かないため、地震に対して、非常に危険な状態となっています。


震度6強以上の連続によるダメージ

 ――基準では、震度6強~7の揺れでも建物が倒壊しないと言われます。連続して短期間に震度6強以上の地震を受けた今回の被害の事態を、専門家としてどう考えますか。
 仲盛 倒壊しなかった建物といえども、繰り返し震度6を受けた場合、倒壊しないとは言い切れません。和田章東工大名誉教授が「何度も揺れを受けるとダメージは蓄積していく」と語っています。同じ構造の専門家として、同じ意見です。同じ建物に震度5は、何回もくることを想定していますが、震度6以上は1回しか想定していません。
 構造上安全かどうかということと、建物をそのまま使用続けられるかは別問題なのです。また、建物が構造上まったく無事で、部材も損傷を受けていなくても、電気器具などの設備・配線・配管が、揺れによる変動に耐えられず、損傷するケースがあります。原因は一概に言えませんが、設計の配慮の不足を指摘しておきたいと思います。いくら建物自体が構造上持つとしても、本来は、そこまで柱や床などをたまわせてはいけません。単なる構造計算上の安全性ではなく、ユーザー、オーナーあっての構造設計ですから。

(つづく)
【山本 弘之】

 
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