2024年10月02日( 水 )

元「鉄人」衣笠氏が斬る!~選手たちの笑顔

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 野球の魅力の1つに、「喜怒哀楽」があるだろう。

baseball ある日の試合で、チャンスで凡打、守ればエラー…、そんな何をしてもうまくいかず、散々な目に遭い、悔しい思いをした選手が、翌日の試合では攻守ともに会心のプレーをして、笑顔でヒーローインタビューを受けている。そうした顔を見ていると、つくづく野球という競技がかわいく見えるし、人という動物が単純に見える。
 近代社会はますます複雑になり、人が本来持っている感情を表面に出すことが難しい場面が多くなってきている。そうした時代に、このように人の持っている純粋な面を見ることができると、安心するものだ。

 そんなことを考えるシーンが、30試合を過ぎたこの時期に、何人もの選手から感じることができた。そしてこのことは、野手の場合は1日でチャンスが来るのだが、先発投手の場合には早くて中4日の5日目、日本の場合は1週間に1度の登板が普通であるから、この間はチャンスはないということになる。その間の投手の心理は、投手にしかわからない不安と期待が交差する日々を送らなければならない。
 そんな苦しい不安な日々を乗り越えて、初勝利の喜びをつかんだ2人の投手を見てみた。

 1人は、ヤクルトの新人選手である原投手だ。
 彼は、オープン戦からしっかりとした投球を見せ、3月27日の開幕3戦目の巨人戦に登板した。この日は6回投げて、6安打1失点での投球にもかかわらず、勝敗なし。2回目が4月3日の中日戦で、7回まで投げて6安打3失点で敗戦。3度目の登板が4月10日のDeNA戦で、3度目の正直というわけではないが大いに期待されたが、2度の失敗で少し腕が縮んだか、慎重になりすぎたのか、本来のボールが投げられずに4回で7安打6失点と、この日は失敗に終わった。ここから、自分のボールを信じることができないのか、それとも考えすぎたのか、17日のDeNA戦では4回5安打3失点。24日の中日戦では、6回投げて4安打1失点という投球だったが、これに味方打線が応えられず、勝敗なし。
 こうしたかなり苦しい1カ月を経験して5月1日、6試合目にして初めて笑顔を見ることができた。この日は、今までの試合後のインタビューと違い、笑顔に包まれたスポーツマンらしい素晴らしい笑顔を見せてくれた。チームがちょうど30試合目ということもあり、良い区切りになっただろう。

 そしてもう1人、こちらはこの時期に初勝利ということではチームが困る、日本ハムの大谷投手だ。
 彼は、今年はもう一段上のレベルに挑戦しなくてはいけないという監督の期待に応えるべく、キャンプから調整をしてきたはずなのだが、開幕戦のロッテ戦では、ロッテ打線に対して7回まで投げて5安打3失点という成績で、周りの「勝利投手」という期待に応えることができなかった。相手の涌井投手が頑張り、同じ7回を0点で抑え込んで2対3というスコアで敗戦。続く2戦目は、「今度こそ」という意気込みで臨んだが、ソフトバンク打線に対して6回5安打1失点。投球数105球、三振が6個、四球3、死球2ということで、少し荒れた投球内容だったと思う。試合は延長戦で日本ハムが勝ったが、大谷投手は勝敗なしという結果で、まだ本当に開幕試合を迎えられていない。
 そして3試合目に臨むのだが、周りも少し心配してくる時期で、チームの顔とも言える投手に「1日でも早く勝ち星を」という雰囲気のなかでの投球だったはずだが、ここも野球の女神が微笑んでくれず、0-1での敗戦。投球自体は8回投げて106球6安打、8三振、1失点ということだから文句はないのだが、相手投手がこの日も好投を見せる一方で、味方打線が打てずに敗戦。チームのエースとして愚痴るわけにもいかず、荒れるわけにもいかず、苦しい時間を過ごしたことと思う。
 4月はもう2試合投げたのだが、結果が出ず、チームも本人も、今までのことを考えると不思議な感じがしたのではないだろうか。だが、なかなか噛み合わせがうまくいかず、4月では初めての経験だと思うが、勝ち星なしの2敗で終了した。
 その大谷投手も、5月に入り初めての試合。1日の千葉で行われたロッテ戦は自身6試合目で9回完投し、138球、4安打、4失点。何より大きな工夫が見られたのは、変化球を多投しての完投勝利ということではないだろうか。この日の投球から、何かをつかんだだろうか。どうしても160kmのスピードボールばかりが話題になり、「周りの期待に応えなくては」という気持ちが強いと思うが、「打者と対峙したときに何が大切か」――ここをこれからどれだけ習得できるかに、大谷投手の成長がかかっているように思う。
 彼もこの1勝で、精神的には随分と助けられたと思う。これから毎試合、どんな笑顔を見せてくれるか期待したい。

 もう1人、素晴らしい投球を見せてくれているのだが、なかなか勝利の女神が振り向いてくれなかった投手がいる。DeNAの新人である今永投手である。
 彼は、素晴らしいマウンドでのパフォーマンスを見せてくれている。ただ、味方打線が相手の投手を攻略できずにここまで来ているということになる。5月2日現在で、5試合に登板し防御率は2.45。この数字を見ると、すでに2勝や3勝していても不思議ではない数字である。だが現実は、0勝4敗という数字が彼の数字である。スポーツの厳しいところは、現在のその選手の評価は、数字がすべてを表すというところではないだろうか。
 ヤクルトの原投手や日本ハムの大谷投手、そしてオリックスの金子投手たちも、今年は出足で苦しんでいたが、みんな6試合目で脱出した。そして今永投手も、6試合目となる5月6日の広島戦で、ようやくプロ初勝利となった。7回6安打無失点で、9奪三振。この日は今まで苦しんだ分まで、会心の笑顔を見せてくれたように思う。

 スポーツマンの一番素敵なところは、笑顔ではないだろうか。その笑顔を1人でも多くの選手たちが見せてくれることを祈りたい。

 

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