9月3日に予定される天安門広場での軍事パレード:日本に突き付けられた難題
NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。
今回は、8月8日付の記事を紹介する。
このところ、中国では習近平国家主席の健康不安説や交代の可能性がウワサされているようです。そんな中、「物言う外交官」と異名を取った垂秀夫前駐中国大使の発言が注目を集めています。曰く「習近平国家主席は盧溝橋事件記念日の7月7日、ブラジルでのBRICSサミットに参加せず、山西省を訪問し、日中戦争時の「百団大戦」の記念地にて献花し、国民に団結を呼びかけました。抗日戦争勝利を共産党の正当性の拠り所にするという意思表示と思われます」。
更に、「今夏、中国では対日戦争に関する映画が3本、公開されます。旧日本軍の731部隊を扱った『731』。南京大虐殺の証拠写真をテーマにした『南京写真館』。そして、日中戦争当時、東シナ海に面した東極島の沖合で日本軍の輸送船がアメリカの潜水艦に撃沈された際、乗っていた多数のイギリス人捕虜を同島の中国人漁民が救出したエピソードを扱った『東極島』で、反日映画のオンパレードです」。
そうした中国国内の動きを紹介しながら、垂氏は国家基本問題研究所理事長の櫻井よしこ女史らと「対中警戒論」に力を入れています。確かに、中国の国務院新聞弁公室が7月3日に発表したように、「終戦80周年を記念する」との名目で、一連の映画、舞台演劇、歌唱大会などの体裁を取った“抗日キャンペーン”が秋まで続く予定です。
しかも、8月31日と9月1日、中国が主導してきた「上海協力機構サミット」が天津で開催され、中国、ロシア、中央アジア4カ国、インド、パキスタン、イラン、ベラルーシの10か国の首脳が集結すると報道されています。サミット終了後、彼らは9月3日に北京の天安門広場で開催される大規模な軍事パレードに招待されるとのこと。
ロシアのプーチン大統領は既に参加の意向を明らかにしています。アメリカのトランプ大統領や韓国の李在明大統領や北朝鮮の金正恩総書記までもが招待されているとのことですが、今のところ中国政府は詳細を明らかにしていません。ただ、抗日戦勝利80周年を記念する9月3日の軍事パレードを軸に、着々と「日本包囲網」を構築しているようにも受け止められます。残念ながら、日本からは中国の動きをけん制するような働きかけは見られません。
現在、中国とロシアは日本海において、かつてない規模で軍事演習を展開中です。そのため、日本では垂氏をはじめ、台湾支持を掲げる評論家らが中国への警戒論や批判的な言説を加速中。先月の参議院選挙で議席を大幅に伸ばした参政党は選挙期間中から「台湾有事は日本有事に繋がる」と主張すると同時に、中国人による土地買収やインフラ投資に危機感を露にしていました。しかし、中国の行動を規制するような知恵や政策は聞かれません。
メディアでは、産経新聞でワシントンやシンガポールの支局長を歴任した湯浅博氏が「中国は9月3日の軍事パレードにプーチン大統領やトランプ大統領を招待し、派手な政治イベントを演出しようとしている。5月のモスクワでの対独戦勝利記念もそうだったが、ともに歴史カードを利用して現代を仕切ろうとする企みだ。表向きは追悼と和解のポーズだが、実際は日米欧に対する敵視と分断が狙いだろう」と論評。
同じく産経新聞で北京特派員を務めた矢板明夫氏曰く「習近平主席は9月3日の軍事パレードを通じて、軍の士気を高め、自らの求心力を高めようとしている。莫大な予算と長時間の訓練が必要とされ、現場からは不満の声も聞かれる。習氏が演説で台湾問題にどのように言及するかも重要だ」。これらは保守系のメディアの代表的な見方です。
一方、日本政府は静観の構えですが、9月1日前後には米中ロの首脳会談が開かれる可能性もゼロではないため、日本包囲網が強化される事態を避けるためにも、水面下での対米交渉が欠かせないはず。ところが、石破政権は関税交渉においてトランプ政権の意向を忖度するような言動を続けるばかりです。
9月5日から赤沢大臣は9回目となるワシントン訪問中ですが、果たして、どこまでトランプ大統領の胸に響くような交渉ができるのかは疑問です。対米交渉においても、中国との情報戦においても、守勢を余儀なくされている日本。「俺は日本から自由に使える80兆円を手に入れた」と豪語するトランプ大統領のこと。常軌を逸していることは間違いありません。
要は、常識をはるかに超えた言動を内外に示すことで、「エプスタイン問題」によって熱心な支持者からも愛想を尽かされてしまった状況を逆転させようとしているとしか思えません。であるからこそ、誰もが想像もしなかったように、9月3日、天安門の壇上で習近平国家主席、プーチン大統領と共にトランプ大統領が姿を見せることもあり得る話なのです。そうなれば、トランプ大統領は中国やロシアと手を組み、「オサラバ日本!」と世界に向かって宣言したに等しいことになります。幾多の予兆があったにもかかわらず、何ら効果的な予防策を打ち出せなかった石破政権の無為無策ぶりを象徴することになります。
著者:浜田和幸
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