福岡再開発動向2026 終盤戦を迎えた天神ビッグバン(後)

今後控える複数街区PJ

 以上が、天神BBBの期限である26年12月末までに竣工を迎えるとみられる大型プロジェクトだ。だが、複数街区にまたがる段階的および連鎖的な建替え計画の期限については個別に判断するとされており、現在、「(仮)天神二丁目南ブロック駅前東西街区プロジェクト」や「福岡中央郵便局およびイオンショッパーズ福岡の段階連鎖建替えプロジェクト」「天神一丁目15・16番街区」の3つのプロジェクトが公表されている。

 まず「(仮)天神二丁目南ブロック駅前東西街区プロジェクト」は、新天町商店街やパルコ、西鉄福岡駅ビルなどにまたがる約2.2haにおいて、パルコ本館・三井住友銀行、パルコ新館、新天町ビル、西鉄福岡駅ビル、新天町商店街の5つのビル・商店街を一体的に再開発するもの。事業主は新天町商店街商業協同組合および(株)新天町商店街公社、(株)パルコ、西日本鉄道(株)、(株)三井住友銀行の5者となっている。中央部を南北に貫くメルヘン通りを挟むかたちで、西街区共同ビルと東街区共同ビルの2棟の先進的なビルを建てる計画。現在の新天町商店街を建て替えるかたちの西街区では「新天町の歴史を継承した未来に向けた商店街」の実現を行うとしており、店舗や事務所、文化・情報発信などを主要用途としている。一方で、パルコ本館とパルコ新館、福岡駅ビル、新天町ビルの4棟を建て替えるかたちの東街区では「新たな文化芸術機能」の導入を行うとしており、店舗や事務所、文化・情報発信のほか、ホテルなどを主要用途としている。さらにメルヘン通りの地下には、明治通りからきらめき通りまでつながる約190mの新たな地下通路も整備される計画。開業は2030年度を目指している。

「(仮)天神二丁目南ブロック駅前東西街区プロジェクト」

 「福岡中央郵便局およびイオンショッパーズ福岡の段階連鎖建替えプロジェクト」は、文字通り福岡中央郵便局(1982年竣工)およびイオンショッパーズ福岡(71年竣工)を段階連鎖的に建て替えていくプロジェクトで、事業主は日本郵便(株)とイオン九州(株)。第一段階として福岡中央郵便局を、第二段階としてイオンショッパーズ福岡を段階連鎖的に建て替えていく方針で、福岡中央郵便局建替え(第一段階)は30年ごろの竣工を目標。続くイオンショッパーズ福岡建替え(第二段階)は30年代中ごろの竣工を目標としている。

「福岡中央郵便局およびイオンショッパーズ福岡の段階連鎖建替えプロジェクト」「天神一丁目15・16番街区」

 「天神一丁目15・16番街区」は、天神一丁目15・16番街区の地区内有志の地権者で構成される「天神一丁目15・16番街区再開発準備組合」(事業協力者:西鉄、日鉄興和不動産(株))によって進められる複数街区にまたがる段階的および連鎖的なプロジェクトで、区域面積は約2.5ha。福岡城の鬼門にあたる現在地にある水鏡天満宮を、方角を変えずに那珂川の水辺に近づけるほか、赤煉瓦文化館前の県道を天神通線へ付け替えて一体整備することで、那珂川に面した部分に水鏡天満宮や赤煉瓦文化館と一体となった緑・公園を創出。また、その西側部分に建物の高度利用と都市機能の更新や耐震性の向上、感染症対応、環境負荷低減などに資する建物計画を行うほか、低層・地上部には既存の特徴ある連続した店舗空間(横丁)等の継承を行っていく方針で、全体の完成は30年以降を目標としている。

後継PJ?グリーンボーナス

 25年7月、野村不動産(株)(東京都新宿区)と(株)竹中工務店(大阪市中央区)は共同で、「(仮称)福岡天神センタービル建替計画」を発表した。

 これは解体工事が進んでいた天神2丁目の「福岡天神センタービル」を建て替える計画で、昭和通りと明治通りに挟まれた4,863.19m2の敷地に、S、SRC、RC造の地上21階・地下3階建、延床面積約6万9,000m2のオフィス・商業ビルを建設するもの。地下2階~地上2階は商業フロアおよびオフィスラウンジなどになるほか、地上3~20階は賃貸オフィスフロアとなる予定で、地上21階には屋上テラスなども設けられる。

(仮称)福岡天神センタービル建替計画
(仮称)福岡天神センタービル建替計画

 同ビルの外観上の最大の特徴は、敷地内の広場空間や、低層部の壁面・テラスの緑化などによって、都心部に緑あふれる空間を創出する点だ。また、明治通り側ではセットバックによる歩行者道路を整備するほか、昭和通り側・明治通り側それぞれに、地域に開かれた地上広場と地下広場を設け、福岡市が推進する「Fukuoka Art Next」に貢献するパブリックアートなども設置される。「福岡天神センタービル」をはじめ、隣接する「安藤ビル」「野村不動産天神ビルⅠ」「野村不動産天神ビルⅡ」「伊藤ビル」の計5棟のビルの解体工事が一体的に行われた後、25年12月に新ビルの建築に着工。竣工は28年度の予定だ。

 ただし同ビルは、天神ビッグバンのエリア内でありながら、天神BBBの認定を受けていない。というのも、再三触れてきたように、天神BBBの竣工期限である26年12月末までには間に合わないからだ。その代わりに受けているのが、福岡市からの「グリーンボーナス」第一号認定だ。

 グリーンボーナスとは、25年4月からスタートした「グリーンビル促進事業」において設けられたインセンティブ制度の1つだ。グリーンボーナス認定制度は、緑化や環境に配慮したビル計画に対して、(1)「まちに潤いを与える木陰や花、目に映える立体的で豊富な緑化」、(2)「持続可能で未来につながる環境配慮」、(3)「周辺ビルや道路、公園等とのみどりのつながりを意識したデザイン性の高いビル」の3つの事項に適合する場合には、申請および市長の認定を得たうえで、都心部機能更新誘導方策に基づく容積率緩和のインセンティブを受けられるというもので、容積率緩和は最大50%。対象となるエリアは都心中心部エリアとされており、その範囲は天神交差点および博多駅から半径約500m、つまり天神ビッグバンおよび博多コネクティッドのそれぞれの対象エリアと同一のエリアだ。このグリーンボーナス制度の実施期間は、25年4月1日から35年3月末までとなっている。
 同一エリアかつ容積率緩和という同様のインセンティブが付与されたグリーンボーナスは、実質的に天神ビッグバンの後継プロジェクトという位置づけと考えられる。

ベスト電器本店も?

「ベスト電器みすず庵共同ビル」

 さらに天神ビッグバンエリア内での新たな動きとして、福岡市役所前に位置する商業ビルも、再開発が検討されている。

 94年7月に竣工した地上12階・地下3階建、延床面積約1万3,000m2の「ベスト電器みすず庵共同ビル」で、家電量販店「ベスト電器福岡本店」(1~7階)のほか、老舗そば店「みすゞ庵」(1階)が入居しており、ベスト電器とみすゞ庵の共同所有となっている。このうちみすゞ庵は、25年12月20日をもって閉店。残るベスト電器福岡本店も近く閉店となり、ビルは解体および再開発される見通しで、ホテルやオフィスが検討されているという。

 ただし、同ビルの再開発にあたっては、天神BBBの竣工期限には間に合わないうえ、複数街区にまたがる段階的および連鎖的なプロジェクトにも該当しない。そのため、天神BBBが適用される可能性はほぼなく、考えられるのは前述のグリーンボーナスの認定を受けての再開発となるだろう。

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 26年12月末の竣工期限を目前として、終盤戦に入った様相の天神ビッグバン。現在進んでいる2つのプロジェクト(天神1-7計画、天神ビジネスセンター2期計画)がそれぞれ竣工を迎えれば、今後は単体のビルの再開発から、複数街区にまたがる段階的および連鎖的なプロジェクトへとフェーズが移行していくと見られる。ただし、JR九州が博多コネクティッドのプロジェクトとして進めていた「博多駅空中都市プロジェクト」の中止を発表したように、今後は資材価格や人件費の高騰にともなう建設コスト増大の影響で、中止を余儀なくされるプロジェクトが発生してもおかしくはない。とくに複数街区にまたがる段階的および連鎖的なプロジェクトは規模が大きい分、事業費がさらに膨れ上がることが想定される。今回取り上げた3つのプロジェクトのどれも、今後中止に追いやられる可能性は十分考えられるだろう。

【坂田憲治】

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