2024年11月26日( 火 )

日本インターネット報道協会、講演会にマーティン・ファクラー氏を招聘

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講演するマーティン・ファクラー氏<

講演するマーティン・ファクラー氏

 (一社)日本インターネット報道協会(代表理事:元木昌彦)は19日、協会加盟社を対象にした講演会を外国特派員協会(東京都千代田区)で開催した。講師には、元ニューヨーク・タイムズ東京支局長で、(一財)日本再建イニシアティブ(東京都港区)の研究員を務めるマーティン・ファクラー氏を招聘した。著書に、「『本当のこと』を伝えない日本の新聞」「安倍政権にひれ伏す日本のメディア」などがあり、同氏らによる東日本大震災をめぐる報道は2012年のピューリッツァ賞にノミネートされた。

 同氏は講演のなかで、当局の言いなりになってしまったような大手新聞社を批判した。アイデンティティを失ってしまい、ジャーナリズムとして機能しなくなった大手新聞社に対し、「新しいジャーナリズムを読者に提供すれば、既存メディアとの選別ができる」とし、新たなジャーナリズムを読者に提供することのできる「ネットメディアの出番が来た」とネットメディアに対して期待を寄せた。

 同氏が大手新聞社の報道に違和感を感じるきっかけとなったのは、09年の西松建設をめぐる政治献金問題。
 「東京地検がニュースの方向はあっちだと決めると、大手の新聞はそっちの方向に(一斉に)走っていた感じだった」と当時を振り返った。
 また、3・11東日本大震災にともなう福島原発事故の後、南相馬市の市長を取材した際には、大手新聞社に対する不審がさらに募ったとしている。市長に案内された記者クラブはもぬけの殻で、逃げ出した当の記者たちが「(南相馬市は)安全だ」と報道している始末だった。「全国紙はだいたい同じ調子で安全だとか、パニックになるな」などと書いていたと、読者に伝えている言葉と自らの行動が180度違う新聞記者たちに大きな怒りを感じたと話した。同氏は、「危険だと思うなら、そのことを読者に伝えたほうがいい」と、当時のメディアの報道のあり方を非難した。

 このような原因の1つに、日本特有の組織構造や配達制度の存在を挙げた。日本のジャーナリストは、中学・高校と懸命に勉強し、大手新聞社に就職して高いステータスを得ている。一方、米国のジャーナリストは専門の学校で学んでジャーナリストとして共通のアイデンティティを持っている。米国人のように、高名な新聞社を辞めてネットメディアに移るようなことは日本人記者にはできないだろうと分析した。

 国境なき記者団が付けた報道の自由度ランキングで、日本は10年の11位から16年には72位に転落した。このように、「世界でも日本メディアへの不信感が増した」と指摘した。さらに、「記者クラブは当局や権力者の都合のいい組織」とこき下ろした。こうした大手新聞社が新たな調査報道を試みても成功しないし、試みることさえできないと見る同氏は、「単独で新たなメディアを目指す話もあるが、小さくてできないというのならば、パナマ文書の報道にならって中小の報道機関が協力・提携する手もある」と将来への道筋を示した。

【田代 宏】

 

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