2024年11月26日( 火 )

川崎老人ホーム転落殺人事件(7)~介護職員の光と影

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第7回 過酷な現場と低い介護報酬(2)

 介護職員が仕事を辞める原因のひとつが低い報酬である。「平成25年度介護従事者処遇状況等調査結果」(厚労省)をみると、月額に大きな差が生じている。看護師:37.3歳、勤務歴7.1年、32万6900円。福祉施設介護者:38.3歳、勤務歴5.5年、21万8,400円。ホームヘルパー:44.6歳、勤務歴5.1年、20万8,000円である。他業種の平均月額より約10万円安い。安倍首相が4月26日の「1億総活躍国民会議」の席上、「来年度から介護士に対して1万円増額」と明言した。原資をどこに求めるか以前に、月額1万円増で本当に離職から回避できるのだろうか、大いに疑問である。これが保育園の元保育士が現場復帰する場合には、キャリアにより数千円から数万円アップを口にしている。しかし、これが介護報酬となると話は別なのである。

kurumaisu それは保育士の場合のような”免許”や”特殊スキル”を求められないからである。せっかく介護専門学校を卒業して介護士の資格を得ても、現場は無資格者でも介護施設に就職可能なのだ。「社会福祉士」といった資格を有してもせいぜい1万円アップ止まり。「Sアミーユ川崎幸町」で3件の転落殺人事件を起こした今井隼人容疑者もまた、「救急救命士」という資格を生かすことなく、介護の職場を選択している(理由は不明)。介護職員を集めることができないために、空室になっている特養も多い。

 厚労省は「介護人材確保」のため、2012年度に「介護職員処遇改善加算」という制度を設け、介護保険サービスの利用料金の1~4パーセント程度に当たる金額を利用者に直接請求できると定めた。介護職員の給与に直接上乗せされるもので、施設のオーナーが手出しできない。でも、わずか数パーセントで改善可能といえるのだろうか。

 新潟市の社会福祉法人「心友会」では、介護施設で出す食事を作る会社も併営する。「社員らの給料は低く抑えられてきた。月に16万~17万円がほとんどで、高い人でも月に20万円台だったという。(中略)一方、元理事長は給食会社の社長も務めてきた。11年に社長を辞めたが、その後も給食会社の社員として残り、多いときで額面で月220万円の給料が出ていた」(「朝日新聞」14年10月13日)。県は心友会に対し、「給食会社との不適切な取引」を理由に行政処分を出す。県警も「水増し請求」などの疑いで給食会社と心友会を家宅捜索している。介護施設などを運営する親会社が利益を確保してから、余った分を給料に充てているのでは、という疑念も捨てきれない。

 事件のあった「Sアミーユ川崎幸町」(介護付き有料老人ホーム)を運営する「積和サポートシステム」は、老人ホームの大手「メッセージ」と「積水ハウス」が合弁で05年に設立した。「Sアミーユ」は首都圏に25カ所を数える。同施設は月額料金約22万円で、これにおむつ代、電気代、水道代などの諸経費を合わせると約30万円と高額となる。同時に、「Cアミーユ」と名が付いた「サービス付き高齢者向け住宅」も運営しており、首都圏に30カ所展開している。実は問題が多い施設なのである。月額料金が約20万と安いのは、あらゆるサービスがオプションのためだ。そのオプションがデタラメだとしたら…。

(つづく)

 
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