川崎老人ホーム転落殺人事件(8)~介護職員の光と影
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第8回 サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)の問題点と介護職プア
殺人事件を起こした「Sアミーユ川崎幸町」を運営する「積和サポート」は、ワンランク下の「Cアミーユ」という「サービス付き高齢者向け住宅」(以下「サ高住」)も運営している。月額の支払いが安い(「Cアミーユ」の場合、諸経費込みで約20万円)。一方で、「サ高住」にはいくつかの問題点も指摘されている。
基本的に「サ高住」は介護施設ではない。だから、看護師や介護士を常駐しておくことを求められてはいない。職員が常駐する賃貸のアパートと考えていい。必要に応じて、室内の掃除、洗濯、病院への送り迎え、入浴やトイレ、おしめ交換などの介助は有料となるオプション付きの施設である。有料老人ホームや特養は、介護施設として介護保険内での規則が義務づけられているが、「サ高住」ではそれがない。外出、食事、就寝時間も基本的に自由である。独居者にとっても、家族にとっても便利な施設である。職員の目が行き届いているため、不測の事態に対応可能だからだ。入所費用が安いため、特養に入所するまでの受け皿として人気も高い。確かに、民間のアパートに職員がいると考えれば、安心で便利な施設だと思う。しかし、ここに問題の根が潜んでいる。
「ライフアップ」(NHK、5月3日再放送)で「サ高住」についての報道を見た。とくに高齢者にとって、環境の変化は認知症を誘発しやすくする。入院、入所は場所を自宅から病院や施設への移動となるため、不安を抱える高齢者は多い。呆けるということは、そうした不安を解消させる人間的な防御反応だという医学者もいる。悪徳事業者はそのことを悪用する。
夜間のトイレ介助、入浴、食事介助から室内掃除、買い物など、多くのオプションを利用したことにして請求する。サービスを受ける本人が認知症の症状を現しているのだから、オプションを受けたという記憶がない。支払いを求められた家族は不審に思っても支払う。悪徳業者の仕掛けは実に巧妙で、オプションの金額を少しずつ増やしていく。少々の増額だから請求された家族も不審に思うことが少ない。気がつくと、オプション代だけで月10万円を越している。請求内容を問いただしても、「間違いなく利用した」といわれれば支払いに応じるしかない。かつてその施設で働いていた元職員の女性が、「利用していないサービスを利用したように見せかけるよう施設長に強要されていた」と取材者に答えている。
介護事業者の収入は介護報酬に頼らざるを得ないのが実情だ。利益を確保するには、利用者の数を増やすことと、人件費を削るしかない。介護職員の報酬が低いのはそこにある。その介護職員の質も、介護素人の参入で低下の一途をたどる。今井隼人容疑者のような人物が出てくるのも不思議ではない。
(つづく)
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