2024年11月26日( 火 )

東ヨーロッパには何があるのだろう(3)

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 信号待ちの車窓から見える駐車場とフェンスと大きな落書きを消した跡がある家、その向こうに見える教会の尖塔。歩道沿いの水着の女性とアルコールとか健康という文字のある看板とアンバランスが浮き立つ。そういえば、エストニア人はよく酒を飲む。この国を含む周辺の地域は年間のほぼ4分の1が平均気温0度以下の冬が長い気候のせいかもしれない。消費量が多いだけにそこから来る社会的問題も少なくないのだろう。命にかかわる事件も少なくないという。

風景にそぐわない立看板。そこにはある問題が横たわる?<

風景にそぐわない立看板。
そこにはある問題が横たわる?

ホテルの部屋からの夕ぐれ。午後10時前というのにまだ明るい<

ホテルの部屋からの夕ぐれ。
午後10時前というのにまだ明るい

 そんなリトアニアの面積は6.5万平方キロ、日本の9分の1だが人口は300万人足らずで40の1。人口密度は50人程度。これは我が国で一番人口密度が低い北海道よりさらに少ない。福岡県に比べれば20分の1である。さらに若者を中心にした人口の海外流出という問題にも直面しているのだという。当然高齢化も進んでいるがそれでも平均年齢は40歳余り、我が国の46歳に比べればまだ若い。

 旧市街の近くにあるホテルの窓から見る午後9時半の日没。気温は23度。ヘルシンキほど北ではないが北緯54度。樺太北部の緯度と同じである。そう考えるとこの日の気温は高い。ここでも常識が通らない。

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ホテルのすぐ横にある集合住宅。国民の60%が集合住宅に住むというリトアニアにはこんな住宅も少なくない

 北国特有の白夜、あたりはまだ明るい。8時間後の午前5時過ぎには陽が昇る。この国に来るとサマータイム採用の意味がよくわかる。

 人種をアングロサクソンの言葉で「race」という。いわゆる競争のレースである。たとえばアメリカの歴史も民族抗争の歴史でもある。1865年、4年の長きにわたる南北戦争の結果解放された黒人奴隷の問題だけでなく、WASPという言葉のもと、あらゆる非WASPに対する疎外の障壁が存在した。もちろん、それは異民族間だけでなく、同じ民族間でも「格差」という言葉で表されながら、世界中のいたるところに存在する。もちろん、この国も同じだ。しかし、日本的平均に慣れた目にはこの街の格差がある種の衝撃で飛び込んでくる。

ホテルのすぐそばにある聖十字教会

 ホテルから少し荒れた感じの集合住宅を挟んですぐの教会。大きな落書きのある住宅の壁の横を抜けて教会の門をくぐる。朝7時、凛とした朝の空気の中で老人たちが三々五々、祭壇前の長椅子に座り、祈りの始まりを待っている。午前7時、数人のシスターが入り口で手を合わせ祭壇に向かう。入口に立つ私たちを目にすると中に入っての祈りを笑顔で薦めてくる。

 リトアニアは国民の80%以上がローマカトリックだ。この教会はもともとイエスズ会が建てた教会で、第二次大戦中はソ連軍に接収され、軍事施設として利用されていたこともあるという。どんな祈りも戦争という理不尽の前には無力だ。

朝7時から始まる祈りの前に数人が静かに祈る元イエスズ会の教会<

朝7時から始まる祈りの前に数人が静かに祈る元イエスズ会の教会

教会の庭からの遠景も素晴らしい<

教会の庭からの遠景も素晴らしい

(つづく)

<プロフィール>
101104_kanbe神戸 彲(かんべ・みずち)
1947年生まれ、宮崎県出身。74年寿屋入社、えじまや社長、ハロー専務などを経て、2003年ハローデイに入社。取締役、常務を経て、09年に同社を退社。10年1月に(株)ハイマートの顧問に就任し、同5月に代表取締役社長に就任。流通コンサルタント業「スーパーマーケットプランニング未来」の代表を経て、現在は流通アナリスト。

 
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