空売りファンドが日本に上陸。最初の標的は伊藤忠商事(前)
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“ショート・セラー”と呼ばれる空売り専門のファンド、米グラウカス・リサーチ・グループ(以下、グラウカス)の来襲に、株式市場が揺れている。粉飾決算など企業の不正を調べて空売りを仕掛け、その企業を徹底的に叩くリポートを配信。株価が下がったところで買い戻して利益を出す。日本での最初の標的になったのは、伊藤忠商事(株)だった。
伊藤忠の株価が急落
7月27日、グラウカスは株式市場が開く前に、伊藤忠株を「強い売り推奨」するリポートを公表。目標株価を631円とした。リポートが出る前の7月26日の株価は1,262円だったから、伊藤忠株は半値に暴落するという衝撃的な内容だ。
このリポートを受けて伊藤忠株は大きく売られた。27日には一時、前日比126円50銭(10%)安の1,135円50銭に急落。短期筋の売りが膨らみ、出来高は前日比6.6倍の4,162万株、売買代金は489億円。データが残る1997年以降で、最高額となった。
グラウカスがリポートで疑義を示したのは3点。1つ目は、2015年3月期にコロンビア石炭事業で1,531億円相当の減損認識をせず、持ち分法適用から損失を切り離したこと。
2つ目は、16年3月期に伊藤忠がタイ財閥のCPグループと共同で1.2兆円を投じた中国中信集団(CITIC)は中国の国営企業であり、伊藤忠は経営に対する重要な影響力を持たず、持ち分法は適用できないこと。
3つ目は、持ち分法適用会社である中国の頂新ホールディングスについて、伊藤忠が15年3月期に連結対象から外した会計処理。この結果、600億円の再評価益を計上した。この会計処理に対する疑問だ。
「伊藤忠の記録的な利益は、幻影にすぎない」とまで言い切った。伊藤忠は同日、指摘された3点について、いずれも「会計処理は適切」と反論し、監査法人トーマツから適正との意見を得ていると説明した。
不正会計のリポートで、極端の売り推奨
グラウカスのホームページによると、名前は、小さいながらも強い海洋生物グラウカス・アトランティカス(アオミノウミウシ)にちなんで名付けられた。グラウカスは、自身より大きく、より強力な毒を持つカツオノエボシ(クラゲの一種)を食べてしまう。
同社は2011年に米カリフォルニア州で創業。ロイター通信(16年6月23日付)によると、〈グラウカスは、利益の水増しや資金の流用などによって業績が本来の数字より大きく開示され、株式や債券が本来の価値から不当に高く評価されている銘柄を抽出し、空売りすることで知られる。主に、富裕層から資金を集め、投資している。
これまで米国、香港、インドなどの計22銘柄に投資をし、うち5社の経営者は証券詐欺で告訴された〉という。グラウカスが行っている「空売り」とは、証券会社から株を借りて売り、株価が下がったところで買い戻して儲ける手法。たとえば、株価が1,000円のとき株式を借りて、それを売り、株価が700円になったときに株式を買い戻して、それを返せば、300円の利益を得ることができる。
企業が会計不正を行った場合も、その企業の株価は下がる。会計不正と空売りを組み合わせたのが、グラウカスの手法だ。まず、会計不正を行っている企業を探す。不正を見つけると、その企業の株式の空売りを行った後、不正会計のリポートを公表。極端な売り推奨で、その企業の株価を急落させることによってガッポリ稼ぐというマネーゲームである。
(つづく)
【森村 和男】
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