石原都政の負の遺産と小池都知事の戦い(中)
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副島国家戦略研究所(SNSI) 中田 安彦 氏
豊洲だけではない 山積する都政の課題
このように、小池知事には「豊洲移転検証」の問題と同時進行で行われているオリンピック競技場の見直し問題、さらには最近一部のメディアで報道されている、都立広尾病院の移転問題がのしかかってくる。小池知事は青島都知事より、小泉首相より、鳩山首相よりも大きな困難を背負い込んだ。こんなに背負い込んで大丈夫なのかと正直不安になる。
小池知事は、10月上旬に多忙の中出演したフジテレビのバラエティ番組で、「3カ月で今後につながる種まきをしたい。あまり時間はない」と発言している。知事には若干の焦りも感じられてきた。それはマスコミがちやほやするのも、いわゆる「ハネムーン期間」だけだ、と考えているのだろう。アメリカ大統領の場合は初当選から100日の間がハネムーン期間に当たる。その期間は新政権に対する攻撃を野党もマスコミも控えるというものである。日本の都知事や政権の場合は、アメリカ大統領と違って当選から職務開始までの時間が事実上ゼロ。となるともう少しハネムーン期間は長いと計算できるが、いずれにせよ小池都知事はハネムーン期間終了までに権力基盤を固めなければならない。小池知事は、都庁の内と外に自らの味方を作っておき、都政改革が思うに任せなかった場合にも、マスコミから袋叩きにされないようにするつもりだろう。豊洲問題も五輪問題も喫緊に迫った期限がある問題であり、小池知事は自らの足元を固めないといけない。
小池都知事は就任後すぐに自民党の党本部や安倍政権との関係を修復し、さらに都連との関係もひとまず修復した。また自らの知事選出馬のために補選が行われる東京10区には、党内で唯一選挙戦で自分を支えた元東京地検検事の若狭勝衆議院議員(比例代表)を後継候補として擁立した。同時に大阪維新の会にならったと思われる「政治塾」を立ち上げ、来年の都議選への候補発掘を手がけていくようだ。選挙運動を手伝った旧みんなの党系都議7人も、小池知事の支持勢力として活動している。中央政界では、折り合いの良くなかった安倍首相を選挙戦での圧勝で反論もできない状態に追い込み、さらには野党時代をともにした仲である二階俊博幹事長との連絡は密に取り続ける。東京の選挙以外では、衆院福岡6区の補選(鳩山邦夫元総務大臣の死去に伴う後継者選び)の応援に駆けつけ、邦夫氏との関係を強調しつつ、鳩山二郎(邦夫氏の次男、前大川市長)氏を支援する二階氏との関係性をしっかり強調する。都庁の伏魔殿を制するために自民党本部との関係を良好にし、同時にいざというときには「新党」の可能性も残した政治塾で手兵を育てるという、なかなか一筋縄ではいかないやり方だ。さすがはいくつもの政党を渡り歩いてきた政治家だけのことはある。
ブレーンを失った石原都政 制御失い迷走・失速
どちらも保守系の政治家で思想的には「右」に位置づけられる小池知事と石原元知事だが、2人の政治手法には大きな違いがある。すでに述べたように、小池知事は抵抗勢力の存在を演出し、同時に落とし穴に落ちないように外部からの援軍を確保したうえで自身対抵抗勢力という図式を構築している。一方、石原都知事は、2期目までは東京都の会計制度に複式簿記を導入したり、自動車から排出されるディーゼル車規制に挑戦したりするなど評価できる点もあったが、当選を重ねるにつれて、2003年に設立された「新銀行東京」が巨額の累積赤字を抱えるなど負の遺産も多い。石原都政は迷走状態に陥る。この背景には、1999年から特別秘書を務めてきた石原知事のブレーン・浜渦武生副知事が05年に辞任したことが大きいといわれている。石原知事がブレーンを失ったことで、内田氏の率いる自民都連が力をつけ始めた。しかも、慎太郎氏の長男・伸晃氏を最年少の都連会長に据えて人質に取った。これで慎太郎は知事を辞めた後も内田氏に頭が上がらなくなったという(週刊ポスト16年8月12日号)。
また、石原都政の特徴とも言える、会計制度改革、ディーゼル規制、新銀行、保守的な方向への都の教育改革、そしてまったく実現せずに終わった、米軍横田基地の官民共用問題といった諸問題は、「石原氏の肝いり」として政策課題として取り上げられたものであり、小池知事が直面しているような五輪費用・会場や豊洲移転問題のように、小池知事が「抱え込まされることになった問題」ではない。その意味では石原氏は自分のやりたいことをやりさえすれば、他は「よきにはからえ」であったと言えるだろう。
報じられているように、石原都知事が週3回しか登庁しなかったことにより、知事の目が届かないままの伏魔殿を作り上げる結果になった。石原都政時代の知事交際費や巨額の海外出張という問題が今になって批判されるようになったが、これは伸晃氏を人質にとり、自民党都連が石原都知事を飼いならしていたことがよく現れている。そして、石原都知事の人気を支えていたのは、1期目と2期目の新鮮さと「裕次郎の弟」としての知名度と、今で言えばドナルド・トランプ米大統領候補のような、時に「しきたり」を無視して直言する歯に衣を着せぬ論客としての人気であったろう。そして、国政においても、ポスト小泉の「石原新党」に対する期待感を煽り続けたことも慎太郎の賞味期限を延長したと言える。だから、残りの後半の2期(12年まで)はその惰性だけで、単に他に有名な候補者も出てこなかったということで続いていたに過ぎない。
どんな優れた政治家であったとしても、長期政権は腐敗するということでもある。その意味では清新なグリーンをイメージにした小池知事が登場したことは当然の成り行きだった。しかし小池知事も、仮に1期目が良くても当選を重ねれば石原慎太郎と同じ運命をたどる。賢い彼女はそこを理解していると思う。
(つづく)
<プロフィール>
中田 安彦(なかた やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。関連キーワード
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