トランプ新大統領がワシントン政治をひっくり返す!(中)
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副島国家戦略研究所・中田安彦(2016年11月9日)
今回の大統領選挙で全くあてにならないとわかったのは、大手メディアの世論調査だった。これまで定評のあったネイト・シルバーという選挙統計学者も、全く予測を外してしまった。後付けで「インターネット調査ではトランプの支持率が高く出ていたので、こちらが電話でトランプ支持とは表立って言えない人を含めた真の数字だった」という解説も出回っているが、どうだろうか。私もある程度、世論調査をみて情勢を分析していたので、すっかり騙されてしまった。トランプの支持者集会は、一日に多い日では5回以上やっていたにも関わらず、常に数千人から一万人の参加者で満員、ヒラリーは一日に一回程度しか集会をやらないのに、その10分の1ということもあった。世論調査の数字よりもそういう「熱気」のほうが真実を伝えていたことになる。また、私の知り合いの金融マンが私に先月語ってくれたところでは、「オバマ政権の行き過ぎた金融規制」に対して嫌気がさしているウォール街にも「隠れトランプ」がいるということだった。ウォール街を敵視するポピュリスト戦術を取ったトランプを支持している人にはそういう人たちもいるのだ。
ヒラリーは、私的メールサーバー問題を捜査するFBIにも翻弄された。FBIはヒラリーのメール問題で6月に不起訴となっていたのが、大統領選挙投票日8日前になって「再捜査」となった。6月の不起訴に対して、司法省の対応に不満を持つFBIの現場捜査官からの突き上げがすごかったようだ。何しろ、6月の不起訴が決まる直前には、ビル・クリントン元大統領が日本の検事総長に相当するリンチ司法長官とアリゾナの空港で密談をしていたのだから。リンチ司法長官は、もともとビルによって引き立てられた人物で、これを見て「クリントンが圧力をかけた」と思わないほうがおかしい。
再捜査の結果、結果的にはヒラリーに対する起訴できるような事実はない、ということになったものの、ウィキリークスなどではヒラリー・クリントンが理事を務めたクリントン財団の海外の献金者との癒着の疑いが報道されることになり、トランプの訴える「腐敗したクリントン」のメッセージに説得力を持たせた。
さらにオバマ政権の国内政策で「最大の功績」と言われた「オバマケア」もヒラリーの足を引っ張った。オバマケアは、アメリカ人が民間の保険会社と契約をすることを義務付ける、アメリカ版の国民皆保険制度だったが、この保険料が翌年から全州で平均25%もアップするという、まるでサブプライムローンの金利のような事態が起きることがあらかじめ決まっていたのだ。これは中間層にしてみれば増税と同じことであり、負担増を嫌がった有権者はかなりいただろう。そこで、トランプは遊説でこのオバマケアについて「disaster(災害)」とこき下ろし、「私はオバマケアとは違う、誰もが利用できる保険制度に置き換える」と宣言した。アメリカの保険会社は、日本に対する年次改革要望書でも知られるように米国でも強力なロビー組織を持っている。そのせいでアメリカではバーニー・サンダースが主張したような日本の国保や欧州の健康保険のような「シングルペイヤー」の国民皆保険が実現できていない。トランプがどのような制度を目指すのかはまだわからないのだが、おそらくはいま存在しているメディケアという低所得者向けの保険を改善するのではないか。トランプというのはこういうところでエリートではなく中間層のことをしっかり意識した選挙運動をしていた。
(つづく)
<プロフィール>
中田 安彦(なかた・やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。関連キーワード
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