変容する中国・上海レポート(後)~フィンテック社会に大きく舵を切る中国!
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「フィンテック(Fintech)」とは、フィナンシャル・テクノロジーの略で「金融技術」のことである。米国発祥の技術であるが、今、中国はその米国を抜いて、フィンテック社会に大きく舵を切り始めた。
中国のモバイル決済は、飲食店やタクシー、航空券や高速鉄道のチケット、公共料金の支払い、共用自転車から街の焼き芋屋さんに至るまで、生活の隅々に浸透している。「現金を持たなくても、スマホは忘れるな!」
日本での居住経験が30年を超え、中国と日本を頻繁に行き来する新華僑のあるIT企業の社長は、「今、中国では『現金を持たなくても、スマホは忘れるな!』と言われます。利便性の観点から見た場合、これに優るものはありません。中国にしばらく滞在して、このような環境に慣れてしまうと、日本では不便に感じることさえあります」と語る。
上海市中心部の黄浦区にある上海随一の観光エリア「外灘(ワイタン)」に通じる南京東路の食料品店やデパートなどのほとんどのお店で、市民の多くがモバイル決済をしていた。
現地の駐在歴が長い、大手ベンチャーキャピタルの若いコンサルタントは「最近、喫茶店ではモバイル決済をしない人の方が珍しくなりました。また老若男女、地位を問わず、都会でも農村でも、自分のスマホに『支付宝(アリペイ)』か『微信支付(ウィーチャットペイ)』が入っていない人を探すのが難しくなっています」と語る。
スターバックスでは、すでに中国国内約2,200カ所の店でモバイル決済に対応している。
モバイル決済利用金額、16年は500兆円
実際に、どの程度まで拡大しているのか――。
中国最大手の調査会社アイリサーチによれば、モバイル決済の利用金額は、2015年には10.2兆元(約173兆円、1元17円換算)だったが、16年は1~6月までで15.6兆元(約265兆円)、年間では日本円にして500兆円を超えると言われている。驚くべきは、その成長の速度である。14年1月の同じくアイリサーチの調査報告書によれば、13年の中国モバイル決済市場規模は1.2兆元(約20兆円)であり、その時点での15年予測は5.3兆元、16年は8.5兆元になっていた。つまり、このときの予測から15年は約2倍、16年は3倍を超えることが確実になっている。
利便性で、モバイル決済に軍配が上がる
なぜ、このように急拡大したのか――。その理由は大きく3つ考えられる。
1つ目はスマートフォンの普及拡大である。2つ目はモバイルECが成長したことである。そして3つ目の理由は、先の2つより重要である。消費者の小口決済や外国人労働者の海外送金、学生向けの融資など、これまで銀行などの金融機関がないがしろにしてきた顧客が動き始めたのである。このような金融弱者がこぞって「アリペイ」(アリババグループ提供)と「ウィーチャットペイ」(テンセント提供)へなだれ込んだと言える。
実際には、どのように使われているのか。その方法は、すごく簡単だ。モバイル決済では、事前に銀行口座からアプリに設定したアカウント(口座)に人民元をチャージ(入金)し、店頭でスマホ画面に表示されるQRコード(2次元コード)を店の専用機で読み取ってもらうだけである。アリペイもウィーチャットペイも機種を限定せず、手数料も取らない。中国には、中国人民銀行の設立した中国国内の銀行を結ぶ「銀聯決済ネットワーク」がある。しかし、今では誰でも、その利便性においてモバイル決済に軍配を上げる。
16年にアップルは「アップルペイ」(銀聯決済ネットワークと連携)で中国進出を果たした。しかし苦戦している。一方、三星(サムスン電子)は本来なら競合になるアリペイと、16年5月に早々と戦略的提携パートナーシップを結んでいる。
金融技術のデファクトスタンダードに
現在、アリペイには4億5,000万人を超えるアクティブユーザーがおり、市場の約70%を占める。その後をシェア20%のウィーチャットペイが急追している。
アリペイもウィーチャットペイも急速にグローバル化を促進。ミュンヘン、成田、オークランドなど10カ国を超える国際空港がすでにアリペイの導入を決めた。
一方のウィーチャットペイも、7億6,200万人いる「微信」(ウィーチャット:無料インスタントメッセンジャーアプリ)のユーザーをベースに、台湾、香港、韓国、タイ、オーストラリア、ニュージーランド、シンガポールなどの国、地域に進出した。両者――とくにウィーチャットペイは、微信(ウィーチャット)を通じて中国国内や先進国ばかりでなく、遠く南アフリカなどへの海外展開も積極的に行っている。これは、習近平主席の進める「一帯一路」(海と陸のシルクロード)構想と利害が一致する。すでに、約5億の市場を確立した中国のモバイル決済ネットワークは、銀行口座やカードは持っていないが、スマホは持っている「一帯一路」の新興国の多くで、金融技術のデファクトスタンダードになる可能性を秘めている。
浙江省・烏鎮がスマートシティに
上海から車で約3時間の距離にある、水郷都市として有名な浙江省「烏鎮(ウーヂェン)」。
烏鎮では14年から「世界インターネット大会」が開催されており、15年に開催された第2回大会には習近平主席が出席した。
16年開催の第3回大会では、習主席がビデオメッセージで重大談話を発表。世界5大陸120の国と地域から8カ国の首脳や約50人の大臣級官僚、さらに、インターネット企業のトップや有名人、専門家などがゲストとして招かれ、1,000人を超える参加者があった。また16年には、同大会の永久開催地の象徴として、巨大な「烏鎮インターネット国際会展センター」(会議センター、接待センター、展覧センターなど3大機能区で構成)が完成した。
現在、中国ネット市場を仕切る「BAT」(バイドゥ、アリババ、テンセント)は、この烏鎮をスマートシティに変えようとしている。(了)
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