2024年11月29日( 金 )

施工業者(鹿島建設)による施工ミス~久留米・欠陥マンション裁判レポート(3)

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 前回まで、久留米市による建築確認及び完了検査のずさんさ、木村建築研究所による構造計算の偽装の実態を伝えた。このマンションにおいては、設計における構造計算の偽装だけに留まらず、施工において、鹿島建設が、図面通りに施工をしていなかったことも判明している。

 構造計算の偽装は単純な偽装であり、構造図を見ただけで容易に判明するものであり、国内トップクラスの技術力を有する鹿島建設であれば、設計者及び工事監理者に指摘し、協議を行うべきであったが、鹿島建設はこれを怠った。設計上の問題点を指摘しなかったことについて鹿島建設は、裁判において、「図面通りに施工をしただけであり、耐震強度不足は設計者の責任」と主張した。しかし、鹿島建設が図面どおりに施工を行っていなかったことが判明したのである。

 図面通りに施工をしなかった理由が、「設計の問題点を解決するため」であれば、ゼネコンとしての良心が存在したと言えるが、鹿島建設の行為は全く逆で、「図面に明記された梁を施工していない」、「法令で規定され図面にも明記された鉄筋のかぶり厚さを確保できていない」など、建物の構造耐力を毀損する方向で施工の不具合を重ねていた。仮に図面通りに施工されていたとしても、耐震強度が35%であったのに、鹿島建設が図面通りに施工しなかったことにより、耐震強度はさらに低くなり、10%程度まで低下している。以下、鹿島建設による施工の不具合を挙げる。

1.設計図通りに施工が行われていない

 建築物は、建築確認を申請し、確認審査機関(このマンションの場合は久留米市)の審査により、建築関係法規に適合していることが確認され、建築確認済証が交付され、設計図通りに工事が進められる。途中で変更が生じないな限り、当然のことながら、完成された建物は設計図とおりの建物となっているはずであり、審査機関の完了検査により確認され検査済証が交付される。

 久留米市にあるこのマンションでは、「図面に記載されている梁が施工されていないこと」や、「図面よりも小さな断面で施工されていること」が判明している。

 図面に明記されていながら施工されていない梁は、外部避難階段と建物本体を接続する重要な役割を持つ梁である。この重要な梁が30カ所も施工されていなかったのである。外部避難階段は、外廊下の先端の薄い床(排水溝があるため実際の厚みは8cm程度)で接しており、1本の杭だけで立っている不安定な構造となっている。このため、外部階段と建物本体を接続する目的で、図面には、梁が明記されていたのである。

 このように重要な役割を持った梁が施工されなかったことにより、大地震が発生した際、不安定な構造である外部階段が壊れ、避難が不可能になる。このマンションの建物本体の耐震強度は35%しかないので、仮に、薄い床だけによって、外部階段の揺れを建物本体に持たせようとした場合、建物本体への水平力負担が増加し、倒壊の危険性を助長する結果となるのである。

 また、別の箇所で、図面よりも小さな断面で施工されていた梁に関して、鹿島建設は、「図面よりも断面が小さいが安全性に問題はない」と主張している。しかし、マンションを購入した区分所有者は、図面通りの性能のマンションを購入しているのである。施工業者の都合(コストダウン?)によって、構造耐力を毀損することなど許されないことである。ましてや、外部避難階段を繋ぐ梁の未施工は、建物にとって致命的な欠陥であり、簡単に補強できるものではないので、建て替え以外に解決方法はないのである。

2.法令違反

 鉄筋コンクリート造の建物では、鉄筋を保護するため、コンクリート外面から鉄筋までの距離を規定(建築基準法施行令第79条)しており、これを「鉄筋のかぶり厚さ」と言う。このマンションでは、法に定める鉄筋のかぶり厚さが確保されていないことが、鹿島建設自身の調査により判明している。
鉄筋を配筋する場合、スペーサーと呼ばれる部品を使用して、鉄筋のかぶり厚を確保する。代表的なものは円形のプラスチック製で中心に鉄筋を通し、プラスチック部分の外側が型枠に接することにより、円の半径分のかぶりを確保するものなどがあり、よほど乱暴な施工をしない限り、スペーサーにより強制的に鉄筋のかぶり厚は確保されるので、本件マンションにおける鉄筋のかぶり厚不足という状態は、異常としか言いようがない。「鉄筋のかぶり厚」は、地味な言葉であるが、建物の強度を大きく左右する重要なものである。

3.鹿島は下請業者に損害賠償を請求していたという事実

 このマンションの建設工事において、鹿島建設は下請けとして地元の栗木工務店に発注していた。施工の不具合が多数発生したことについて、鹿島建設は、マンションの区分所有者への責任を果たすどころか、下請工事業者の栗木工務店に対して損害賠償を提訴したのである。鹿島建設が下請工事業者の栗木工務店との裁判の中で自ら指摘した施工の不具合は、主に下記の内容である。

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 コンクリート躯体の中への異物混入が判明した箇所の一部の写真を掲載する。

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※クリックで拡大

 鉄筋のかぶり厚さの不足に関して、鹿島建設は次のように、栗木工務店の施工ミスを追及している。

 「鉄筋のかぶり厚さが極端に不足しており、かぶり厚さがゼロ(鉄筋が露出)という箇所も数多くある」

 「(鉄筋の)かぶり厚の著しい不足(建築基準法施行令79条の著しい違反)・・・請負業者として当然に要求される注意を払えば容易に防げたはずの瑕疵であり、これが被告の重過失に基づくことは明らかである」

 また、当時、鹿島建設建築工事部統括部長であった木村洋介氏の平成18(06)年1月26日の発言として、「写真を見てもわかるように非常に品質が悪く、設計図どおりの工事が行われていない」と記述している。

 鹿島と栗木の裁判における鹿島建設の主張の通り、鉄筋のかぶり厚不足は「著しい」ものであり、「請負業者として当然に要求される注意を払えば容易に防げたはずの瑕疵」であり、「重過失」であり、「非常に品質が悪く、設計図どおりの工事が行われていない」と、鹿島建設自らが断定しているのである。

 鹿島建設は、「図面通りに施工しているので、問題があるのは設計だけである」という主旨の主張を繰り返しているが、鹿島建設が下請業者の栗木工務店の施工ミスをいくつも挙げているように、これは、そのまま、栗木工務店の元請けである鹿島建設自らに対して、その責任と瑕疵があることを認め、述べていることに他ならないのである。

4.他の事例における鹿島建設の対応との違い

 日本建設業連合会(日建連)の会長を務めている鹿島建設の中村満義会長は、横浜のマンションにおける杭打ち工事データ改ざん問題などに関して、日建連会長の立場で以下のようにコメントしている。(05年10月22日および11月20日 記者会見)

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 鹿島建設の中村会長は、「元請ゼネコンに全責任があり、当事者意識を持って積極的に対応すべき」であるとコメントしているが、久留米の新生マンション花畑西に関しては、中村会長のコメントとは正反対の対応となっている。

 また、鹿島建設は、東京 南青山で施工したマンション(施主は三菱地所)の地中梁スリーブの瑕疵(鉄筋切断)については、建て替えという方針を迅速に表明した。一方、久留米の欠陥マンションにおける施工の瑕疵は、南青山の事例と比較できないほど深刻な瑕疵である。なぜ、鹿島建設は、東京のマンションと久留米の本件マンションでは対応に大きな差があるのであろうか? これでは、販売価格と比例した対応と言われても仕方がないのである。横浜や東京のマンション住民と、久留米のマンション住民の命の価値に差があるというのであれば言語道断である。

5.耐震診断(第3次診断)の結果に対する鹿島建設の反応

 この久留米の欠陥マンションの裁判において、鹿島建設は、「耐震診断、それも第3次診断によって構造検証をすべき」と主張していた。これに対し、原告は、第3次耐震診断を行い、「Is値=0.116(耐震強度換算=24%)」という結果を裁判所に提出した。この結果に対して鹿島建設は、何一つ合理的な反論や回答をしていない。

 第3次耐震診断により、耐震強度が目標値の24%しかないことが判明しても、鹿島建設は時間稼ぎだけに終始している。客観的に見ても、鹿島建設の責任は明らかである。いつまでも鹿島建設が時間ばかり費やしている間、原告の住民たちは疲弊しきっているのである。鹿島建設は、自らの利益を最優先し、このマンションの住民を見捨てたと言われても仕方がないのである。マンション住民を見捨てた、鹿島建設の姿勢は「建て逃げ」と非難されても仕方ないと言える。

 下の写真は、梁のコンクリートが剝落した驚愕の写真である。

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 これ程のコンクリート片が剝落すれば、その部分をモルタルで補修しても表面上の補修に留まり、構造体としては、断面を大きく欠損した状態であり、設計通りの耐力が毀損しており、非常に危険な状態である。

 この写真で分かるように非常に脆い躯体であり、もし大地震が発生し、このマンションが倒壊した場合、近隣の建物や中にいる人、通行人まで巻き込む事態となる。このような事態になった場合、このマンションの区分所有者は「加害者」という立場になってしまう。「耐震強度が基準を満たしていないマンションを、建て替えることなく放置した」ということで、近隣住民から、責任を追及される可能性もあり得る。このような事態を防ぐためには、建て替え以外に方法はないのである。

【伊藤 鉄三郎】

 
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