三越伊勢丹HD社長の解任、百貨店のお家騒動史(前)
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百貨店恒例の「お家騒動」である。(株)三越伊勢丹ホールディングス(HD)は3月7日、大西洋社長(61)が31日付で社長職から降り、杉江俊彦専務(56)が社長に昇格すると発表した。石塚邦雄会長(67)は6月の株主総会で退任する。旧三越出身の石塚会長が、旧伊勢丹出身の大西社長の追い落としを仕掛けたクーデター劇だ。
百貨店業界では、円満なトップ交代は意外と少ない。百貨店業界の「お家騒動史」を振り返ってみよう。三越出身会長による伊勢丹社長との“刺し違え”
日本経済新聞(3月8日付朝刊)は、クーデター劇をこう報じている。
〈事態が動き出したのは4日午後。「現場がもうもたない。構造改革による混乱の責任をとりやめてもらいたい」。三越HD本社の一室で石塚氏は大西氏にこう切り出し辞表を差し出した。〉
大西氏は収益の柱を増やそうと、多くの新規事業を進めてきた。これに現場が反発して、労働組合が辞任を要求。労組関係者から泣きつかれた石塚氏が、「自分も辞めるから、あなたも辞めろ」と迫る“刺し違え”の行動に出たというわけだ。
三越伊勢丹HDは2008年に発足した。主導したのは銀行。(株)三越の業績不振にしびれを切らしたメーンバンクの(株)三井住友銀行が、三越に対して「伊勢丹と組んで再生を果たすべきだ」と迫った。三越は「伊勢丹とは社風があまりにも違いすぎる」と難色を示したが、三井住友銀行が押し切った。(株)三菱東京UFJ銀行がメーンバンクの(株)伊勢丹に三越は実質的に売却された。両社の肌が合うわけがなく、経営統合はうまくいっていなかった。
今回の大西社長の解任劇は、メーンバンクの意向と受け取られた。指名報酬委員会の中心メンバーである社外取締役の永易克典氏は、三菱東京UFJ銀行頭取、(株)三菱UFJフィナンシャル・グループ社長を務めた三菱の重鎮だ。
大西氏が手書きの辞表を出したのは、メーンバンクが大西氏の経営力を問題視していることを感じとっていたからだろう。指名報酬委員会の答申通りに取締役会はトップ人事を正式に決定した。これまでも、三越と伊勢丹のお家騒動劇の演出・監督は常に銀行だった。「なぜだ!」が流行語になった三越岡田社長の解任
1982年9月22日、三越の取締役会で、ワンマン経営者、岡田茂社長の解任劇が起きた。取締役会は、東京・日本橋の本店で17人の取締役全員が出席して開かれた。事務的な事項である「その他」の議案は、岡田社長に代わって、岡田氏の“忠犬”とまで言われた杉田忠義専務が報告するのは、いつもの手順だった。起立した杉田専務は発言した。
「岡田社長の社長と代表取締役の解任を提案します。賛成の方はご起立してください」。14人の取締役が一斉に立ち上がった。岡田派の2人の取締役は座っていた。それを見て、社外取締役の小山五郎・(株)三井銀行相談役(当時)が一喝した。「君たち、何をしているのか!」。
2人は渋々立ち上がった。「お前までもか」。岡田氏はにらみつけた。「君はもう社長ではない」。小山氏が切り返した。「なぜだ!!」。岡田氏はうなった。16対0。10年間、三越を支配してきたワンマン社長の岡田氏が解任された瞬間だ。岡田氏が発したとされる「なぜだ!」は、その年の流行語となった。
岡田社長解任劇の主役は、メーンバンク三井銀行(現・三井住友銀行)の長老小山五郎氏だ。岡田氏の乱脈経営の極めつきは、三越の「女帝」と呼ばれた竹久みち氏との公私混同だった。三井グループの発祥企業である三越のスキャンダルに、三井グループの総意として小山氏が岡田社長の解任に動いたのである。
(つづく)
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