2024年11月21日( 木 )

品質の信用失墜のキューサイ、新体制で巻き返しなるか(後)

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 九州通販のパイオニア、またコカ・コーラボトラーズジャパン(株)のグループ企業として、青汁をはじめ、化粧品の通販事業で知られるキューサイ(株)。その子会社の日本サプリメント(株)での、特定保健用食品(トクホ)の許可取り消しや景品表示法違反を背景に、2017年2月16日付で現会長の藤野孝氏以外の全取締役が辞任した。前執行役員通販統括部担当兼通販統括部長の神戸聡氏が新社長に就任する新体制を敷いている。新体制で品質面を含めた信用回復となるかが注目される。

減給処分からわずか数日で役員辞任

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 今回の日本サプリメントについては品質管理を怠ったことが要因だが、同社でも過去、青汁原料にキャベツを混入していたことで大きな騒ぎを起こしている。

 今から18年前の1999年、青汁で増収増益を続け、売上高は約200億円に迫り、東証二部上場と破竹の勢いだった同年9月、台風18号が熊本県に上陸。九州全域に広がり、主原料のケール畑が甚大な被害を受けたことで、深刻なケール原料不足となった。同社は原料確保に向け、熊本県八代郡にある農事組合法人とケール2,000tを2億円で購入する契約を結んだものの、収穫量が確保できず、販促用の無料サンプルを製造中止。それでも足りなかったが、農事組合法人が同社に伝えず、ケールの近緑種にあたるキャベツ(計215t)を加えていた。同社はその後、この農事組合法人の事務局長を務めていた男性を詐欺の疑いで熊本地検に告訴。農事組合法人側も男性を解雇し、横領の疑いで告訴している。

 同社が「ケール100%」を謳いながら原料にキャベツを使っていたこがわかったのは、翌2000年6月。7月には、すでに混入した青汁は約650t以上製造されていたといい、40万以上の世帯に販売されていたことが明らかになったとマスコミ各社に報じられた。同社は農事組合法人が独自で行った行為だとして、混入を一切知らなかったと発表したが、公正取引委員会は同社に不当表示として排除命令を下している。

 同社は顧客に対し、謝罪するとともに対策として、契約農家と在庫量を増やしたことをはじめ、品質においてはケールとキャベツが正確に見分けられるよう検査員を倍増、執行役員制度の導入や、外部から重役レベルの人材を招聘、大学と共同で、DNA鑑定による原材料管理システムを導入した。しかし、消費者への信用失墜で同年から業績は落ち込み、顧客のお詫び広告の費用などがかさんだため、2000年8月の中間決算の時点で2億4,000万円の当期損失を計上。01年2月期決算は175億円と上場後、初の減収を計上。また業績減に加え、販売会社から、「約5億6,000万円の売上があったのに、キャベツ混入問題が発覚した後の02年には約3億3,000万円に急落。売上が激減した」として、損害賠償を求める訴訟を起こされた。同社も、「損害賠償請求の債権と相殺される」と反論し、販売会社が代金の一部を支払っていないとして1,394万円を求める訴訟を起こしている。

 このキャベツ混入騒動は、同社としては取引業者に騙されたかたちだったが、品質管理についての杜撰さが浮き彫りとなった出来事であり、今回の景表法違反につながっていくことになる。

 日本サプリメントによれば、行政処分を受けた対象商品の発売から16年1月1日までの販売累計数は、『ペプチドエース』シリーズが約850万袋、『豆鼓エキス』シリーズが約650万袋に上る。業績については非公開だが、業界内では「最盛期で売上高は70億円以上あったとみられるが、主力商品が対象なので、売上は急激に落ち込んでいるだろう」という声もある。

 子会社のトクホ許可取り消しや景表法違反で、品質管理の脆さやコンプライアンスの問題が露呈された同社。実は、景表法に基づく措置命令が発表される前の2月10日、同社社員向けに「トクホ許可取消に関する役員処分通知」が通達されている。通知の内容は、同社役員7人のほか、日本サプリメント代表取締役の増田毅氏の減給、日本サプリメントの役員2人が譴責処分。「消費者庁へ調査依頼と販売終了する旨を報告したところ、消費者庁からは弁明の機会を与えられず、トクホ表示許可の取消処分がなされた」「許可取り消しで約10億円の特別損失、トクホ事業の減損損失で約70億円を計上する」と伝えている。

 しかし、その1週間後の2月16日付で、藤野会長以外の全役員が辞任し、新社長を含む新たな体制を敷いた。措置命令については事前に消費者庁から通知が来るのが通例であり、過去に景表法の措置命令を受けた企業に聞くと、通知は1週間から10日前ごろに来るという。

新社長の手腕に注目

 新社長に就任した神戸聡氏は愛知県出身で、南山大学卒業後、1992年に(株)大広に入社した後、2002年に(株)ドクターシーラボへ入社。取締役、販売事業部長、情報システム担当などの要職を歴任し、15年11月キューサイに入社、今年2月までは執行役員通販統括部担当兼通販統括部長に就いていた。また、取締役で副社長に就任した佐々木剛司氏は元西日本シティ銀行の出身。前社長の藤野取締役会長、同社と日本サプリメントと両方の監査役である大野美智雄氏を含めた体制となる。

 今回の役員人事で特徴的なのは、親会社のコカ・コーラ社出身の役員が1人も選出されていないことと、本来ならば、日本サプリメントの行政処分について大きな責任を負うはずである藤野氏が会長職として留まっていること。藤野氏は社長就任前、同社開発部の本部長だったといい、冷凍青汁原料などの一般食品関連の製造・流通に精通した人物。業界内では「創業者の長谷川常雄氏は青汁のほか、『ヒアルロン酸コラーゲン(現・ひざサポートコラーゲン)』、化粧品の『コラリッチ』など、ヒット商品を次々生み出してきた。しかし藤野氏は社長就任後、そうした商品を生み出せていない。もともと健康食品や化粧品に通じた人ではないからという見方をする人もいる」「結果的に院政的な体制になるのでは。歴史がある通販企業だし、大きく変わるとは考えにくい」という声も聞かれる。その一方で、「キューサイで一番伸長している化粧品通販で、どのように手腕を発揮するのか注目したい」という声もある。

 品質偽装とも取られかねない行政への報告の遅れや、優良誤認による表示など、同社の品質への信頼を著しく低下させたことで、既存客への影響が業績として表れる可能性もあり、新体制ではまず、消費者の信頼を取り戻すための施策が重要な課題に上るとみられる。新社長の神戸氏は「まず社員が幸せでないと、消費者は幸せにならない」と話しているという。まずは社内のコンプライアンスの強化が急務かもしれない。

(了)
【小山 仁】

<COMPANY INFORMATION>
キューサイ(株)
代 表:神戸 聡
所在地:福岡市中央区草香江1-7-16
設 立:1965年10月
資本金:3億4,900万円
売上高:(16/12)270億円

(前)

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