2024年11月27日( 水 )

米朝の緊張感は表面的なもの?韓国の立ち位置は?

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日韓ビジネスコンサルタント 劉明鎬(在日経歴20年)

 米国は世界最高の軍事力を持っている。世界上位27カ国の海軍力を合わせても、アメリカの海軍力には及ばないという。オバマ前大統領は世界に展開されている米海軍の経費が負担になるため、軍艦を260隻に減らすと決めたことがある。海外で使うコストをカットして、国内にそのコストを回すことが、もっとアメリカの繁栄につながるという政策だ。しかし、ドナルド・トランプ大統領は軍艦を再び350隻に増やす計画に転換した。米軍の軍事力を強化することが、最終的には米国の利益になると考えたからだろう。

 アメリカの軍事力は最強であるが、もう1つの強みはドルが世界の基軸通貨であることだ。ドルがアメリカを支えている。アジアの国々は一所懸命にものをつくって、アメリカに売り、ドルを手に入れているが、アメリカはそのドルを簡単に刷ることで手に入れることができる。それに他の国では為替変動のリスクが付きまとうが、アメリカ人には為替変動のリスクもない。軍事力とドルはアメリカ繁栄の両輪である。アメリカはこのような地位を決して手放したくはないだろう。従って、アメリカの覇権に脅威になるような存在を米国は座視しない。

 最強アメリカの脅威になる存在が最近アジアに出現した。それは中国である。中国の出現により、アメリカもアジアへの回帰という政策に転じている。中国の台頭を防ぐため、今後、アジアでアメリカと中国の激しい衝突が予想される。

 中国ほどではないが、安保と外交において北朝鮮はアメリカの脅威になりつつある。北朝鮮は7月28日午後11時過ぎに2回目の大陸間弾道ミサイルを発射した。大陸間弾道ミサイルに核弾頭を積載するためには、核弾頭の小型化と軽量化が必要で、ミサイルは長距離化と軽量化が必要である。ミサイルの発射に成功したとしても、完成度などを考えると、大陸間弾道ミサイルに核弾頭を積載するまでには3,4年はかかるだろうと専門家は予想していた。

 しかし、予想を大きく上回るスピードで開発が進んだ。度重なる実験で北朝鮮は大陸間弾道ミサイルをほぼ完成させ、射程距離はアメリカの東部まで入っていると分析されている。これはアメリカにとっては大きな安保上の脅威である。

 このような軍事力への挑戦だけでなく、北朝鮮はアメリカ覇権の別の軸であるドルに対してもよろしくないことをしている。それは偽ドル札づくりである。北朝鮮は世界でもっとも精巧な偽ドル札の印刷をしているわけだ。それに、北朝鮮はテロ国家に核技術と麻薬を輸出するなどしているので、アメリカにとって厄介な存在である。

 北朝鮮の一連の行動の狙いは何だろうか。一言でいうと、体制維持である。北朝鮮はアメリカに朝鮮半島における正当性のある国家として認められ、アメリカと結んだ停戦協定を平和協定に変えることを望んでいる。それを実現する一番効率的な手段として北朝鮮は核開発を選んでいるだけなのだ。

 それでは、アメリカの北朝鮮に対する戦略は何だろうか。1つ目は、制裁などで北朝鮮の体制を圧迫する戦略である。経済制裁などで資金源を断つことで、北朝鮮の体制を崩壊させようとしている。特に、中国の協力を得て、米国は石油禁輸なども試みている。
 それだけではない。アメリカは2隻の航空母艦を韓国周辺に数カ月前から送り込んでいる。そこからはB2爆撃機が出撃し、地下にあるコンクリートを50メートルまでぶち抜ける爆弾を投下できる。

 2つ目は、中国を利用して北朝鮮の問題を解決するという方法である。この方法はもう諦めている。3つ目に、金正恩暗殺計画である。アメリカではこれをSurgical Strikeと表現する。韓国の群山空軍基地にグレーイーグルという無人偵察機が配備されている。名称は偵察機になっているが、これは最高時速280キロで飛行でき、8キロほど離れた敵の戦車を攻撃できるミサイルを4発も積んでいる。密かに金正恩だけを暗殺することによって、被害を最小限に抑えたいというアメリカ政府の秘密兵器だ。しかし、どちらかが先制攻撃をすると、反撃され、被害が大きくなる可能性があるため、先制攻撃は簡単ではない。反撃を受ければ多くの人命が失われるからだ。

 最近、米トランプ大統領は、北朝鮮からの脅威に対し「世界が見たこともない炎と激怒で対抗する」と公言しているし、一方の北朝鮮は、米領グアムに向けてミサイルを発射すると脅している。両側の言葉だけを聞いていると、米国と北朝鮮は戦争寸前の状態のようだ。北朝鮮は以前から韓国に対して挑発的な脅しを繰り返し、ソウルを「火の海に」すると何度か脅してきた。しかし、今回は韓国だけでなく、アメリカも相手にしている点が違うだけだ。

 強い言葉が並んでいるが、戦争になる確率は非常に低いと考えられる。どの国も戦争を望んでいないからだ。中国の政府は北朝鮮と血盟関係ではない。朝鮮半島で戦争が起こることで、アメリカ軍が北朝鮮に駐屯するようになることを望んでなどいないのだ。中国にとっては現状維持がもっとも得策なのだ。

 それに、北朝鮮を攻撃するためには、いくつかの前提条件が必要になる。アメリカは韓国に在留している米軍兵士の家族を含めて約14万人を帰国させる必要がある。戦争が起きて米国の国民が犠牲になれば後で大きな責任問題になるからだ。今はまだそのような動きがない。お互いに相手を脅すためにトランプ大統領も金正恩も激しい口調で応酬しているだけだ。

 表向きは一触即発の状況のように見えても、水面下でアメリカと北朝鮮は秘密交渉をするだろう。北朝鮮はこのように危険な存在だとアピールすることで、アメリカが直接交渉する必要があるという名分をつくっているかもしれない。その交渉が成功すれば公式に協商を開始することを発表することになるだろう。その時期は今年の年末ごろではなかろうか。

 そうなるまでには表向きの激しい対立は先鋭化していくだろう。ただし、今の韓国政府は北朝鮮に対して強行策よりも太陽政策を取りたいという立場なので、アメリカ政府とはスタンスが多少違う。さらに、韓国が米国と中国の間で曖昧な態度をとっている点もある。韓国は残念ながら米国と北朝鮮の交渉に直接影響を及ぼすことはできないかも知れない。

 

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