2024年12月22日( 日 )

地方スーパーの生き残り策(1)

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地域連合

 かつて食品スーパーの全国チェーンは存在しなかった。そして現在もマックスバリューなど全国に店舗展開するチェーンはあるが、その実態はあくまで地域スーパーである。東北、西日本、九州などその頭に地域名がついていることからもそれがわかる。北海道、東北に地域連合を形成するアークスなども、こと販売現場においては、それぞれの地域ニーズと食習慣を優先して店頭を構成している。

 地域連合の目指すものは、もちろん規模拡大によるスケールメリットということが中心になるのだろうが、実はそれだけでことを進めてはうまくいかない。組織それぞれの人間にそれぞれの思惑があるからだ。その思惑が表に出るとスケールメリットというかたちは生まれない。協業の一番のメリットは「衆知を集めて」経営に反映させるということである。近隣エリアにはそれなりに共通するものがある。それ加えて、他者の知恵を入れて少し工夫を加えれば大きなメリットが生まれる。もちろん、それは商品や売り場だけでなく、教育や後方部門にもおよぶはずである。
 それらの効果は思い切った行動やかたちの変化につながり、組織の活性化に大きく役立つはずである。地域連合抜きで中小小売企業が生き残るのは極めて厳しい。

小さな視点から行動を変える

 総務省の家計調査を見るとよくわかるが、カツオの支出を例に見ると全国最大の消費都市は高知市で年間消費量は4キロを超す。年間支出額は8,000円を超す。100gあたりの単価は210円。逆に最も少ない北九州市のそれはわずか340g、100gあたりの単価も160円であり、支出額は640円程度である。つまり、高知は北九州の10倍以上のカツオを消費する。しかもユニットプライスも高い。安いから大量消費というかたちではないのである。まさにこれは食習慣であり、地域文化でもあるのだ。
 このような実態を無視して、北九州でカツオ販売に力を入れたらどうなるか? おそらくその90%は無駄な努力という結果になるはずだ。しかし、それが必ずそうなるかどうかは分からない。このような部分を衆知を集めて研究するのである。
 魚だけでなく、肉や海藻、野菜にもそんな違いは数限りなくあるから同じことがいえる。食品スーパーは地域の自営でしかうまく運営できないといわれるが、この辺りをみんなで検討、改善すれば地方の強さにさらに磨きがかかるはずである。

 ちなみに、歴史が浅いアメリカでは食の慣習の分散と地域特性が生まれる時間がなかった。それぞれの移民先からの食習慣はあっただろうが、それらがそれぞれの地域で時間をかけて食文化的発酵をすることはなかったのである。結果として広大な国土にモノクローム的食が広がり、大チェーンが同じようなものを同じような売り場で展開するというかたちが出来上がったと考えられるが、それでも地域に愛されるきらりと光るスーパーマーケットがたくさんある。

 一方、我が国にはそれぞれに気候的特性と物産の生産事情があり、それにそれぞれ藩主という独立為政者が治める旧国というシステムも影響して独自性を深めていったことは想像に難くない。結果として地域によってそれこそ多様なニーズが生まれ、今に至ってもそれが存在している。この独自性に対応するには、それぞれを熟知した対応が必要ということになる。それが地域スーパーの強さの根源であり、いかに大手といえども地域中心の事情を無視しての店舗運営はできない。金太郎アメ的全国スーパーマーケットチェーンの運営が容易ではない理由がそこにある。加えて企業の経営者には、それぞれに価値観と思惑、主張の違いがあるということである。それも協業がスムーズに進まない原因の1つである。

(つづく)

<プロフィール>
101104_kanbe神戸 彲(かんべ・みずち)
1947年生まれ、宮崎県出身。74年寿屋入社、えじまや社長、ハロー専務などを経て、2003年ハローデイに入社。取締役、常務を経て、09年に同社を退社。10年1月に(株)ハイマートの顧問に就任し、同5月に代表取締役社長に就任。流通コンサルタント業「スーパーマーケットプランニング未来」の代表を経て、現在は流通アナリスト。

 
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