2024年11月17日( 日 )

地方スーパーの生き残り策(6)

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さらにこれから起こる大きな問題がある

 多店舗に起因する競合の激化が坪あたりの売上を減少させ、店舗の体力を奪っていることは前項で述べたが、これからの小売業にはさらなる厳しさが待ち受けている
 かつては生鮮、とくに鮮魚の善し悪しで店を選ぶという主婦が多かった。しかし、これからの主客であるミレニアム世代にそんな基準はない。食事の材料が、そのままセットになってレシピ付きで提供されるミールキットといった合理性に加えて、鮮魚を中心とした生鮮にあまりこだわらないという傾向の進行である。
 こうした傾向は、通常型のスーパーマーケットにさらなる自壊作用をもたらす。鮮魚を中心とした付加価値に顧客が代価を払わないとなると生鮮の売り場は、さらなるコストダウンを強いられる。そうなると生鮮の加工食品化が発生する。いわゆる外部生産によるプリパッケージ化である。
 このことは食品取り扱いを始めたドラッグストアに商品力で差を詰められるということにつながる。
 事実、菓子や加工食品から始まったドラッグストアのスーパーマーケット化は日配品を経て、最近では精肉青果などへ拡がり始めている。従来の品ぞろえに生鮮がつけば、ドラッグストアはスーパーマーケットそのものになる。それは顧客にとってのワンストップ性を高めることにつながり、スーパーマーケットにいかなくてもドラッグストアで日常の食材の調達が間に合う。
 インストア加工で人手がかかり、加えて販売期間の短い生鮮食品は、売上が低下するほどその収益性は悪化する。ドラッグストアと競合することで売上に影響を受けるスーパーマーケットの生鮮はさらに弱体化するということである。

 同じスーパーマーケットでも高質をうたう店舗は取り扱いアイテムや生鮮のレベルでドラッグストアとは別次元であるが、かといって、その支持顧客を考えるとやみくもに多店舗を出すことはできない。高い坪あたりの売上を必要とする高質スーパーマーケットは無理な出店をすると先に述べたホールフーズのパターンに陥りかねないからだ。まさにスーパーマーケット受難の時代ということになる。

限界値

 よく勘違いされることに、大きくなれば仕入れ原価が大きく低下するということがある。しかしながら、これは正しくない。メーカーにしても卸業者にしても一般に思われているような利益は手にしていない。とくに問屋は大手といえどもそれこそ1%の利益を出すのにあくせくしている。そんな利益構造のなかで大量の商品を安く出せるわけがない。つまり大量仕入れによる原価低減は、あくまで例外的なのである。
 もう1つの問題に小売企業の自社ブランドであるPBがある。コストコのKIRKLANDや販売商品の80%以上がPBのトレーダージョーといった海外小売業は特徴ある自社ブランドを作って顧客にその価値を認められているものやウォルマートのグレートバリューのように圧倒的な販売力で、それなりの認知を得ているものも少なくないが、我が国のPBはどちらかというと影が薄い。
 その理由ははっきりしている。PBの目的が顧客主義ではないからである。大手小売業はPB製造に際して、たいてい30%以上の粗利率をメーカーに要求する。30%の利益を乗せて、しかもナショナルブランドより明らかに安く売れる商品をつくれというのである。商品に材料原価と製造コストをともなうモノづくりにとって、それは逆立ちをしてコップの水を飲めということと同義である。それで顧客が満足する商品ができるわけがない。ただでさえナショナルブランドが強い我が国で、そんなPBが認知されるはずがない。
 日本最大のスーパーマーケットチェーンにしたところで、その商品販売利益は100円売って2円に満たないという構造を改革するのは容易ではないのである。利益が薄いということは店舗や人やシステムに思い切って投資ができないということでもある。
 そうしてみると従来型のスーパーマーケットはその経営を根本から考えるべきところに来ている。そしてそれは技術やシステムといったハードではなく、もっとソフトな部分にしか解決の糸口がないような気がする。

(つづく)

<プロフィール>
101104_kanbe神戸 彲(かんべ・みずち)
1947年生まれ、宮崎県出身。74年寿屋入社、えじまや社長、ハロー専務などを経て、2003年ハローデイに入社。取締役、常務を経て、09年に同社を退社。10年1月に(株)ハイマートの顧問に就任し、同5月に代表取締役社長に就任。流通コンサルタント業「スーパーマーケットプランニング未来」の代表を経て、現在は流通アナリスト。

 
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