2024年12月23日( 月 )

千年の都・京都を彩る、さまざまな庭園の美

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 NetIB-NEWSを運営する(株)データ・マックスは、3月、インバウンドも含めて観光ビジネスで、さらなる賑わいを見せる京都へ視察旅行を実施しました。九州・福岡の経済ニュースを発信する記者の視点から見た観光都市「京都」の実像とは――。複数回のレポートでお伝えいたします。

 京都といえば、誰もがまず思い浮かべるのが、寺社仏閣の数々だろう。さすが“千年の都”といわれるだけあって、至るところに著名な寺社仏閣が点在している。市内だけでも2,000以上あるといわれ、京都を代表する清水寺や金閣寺、銀閣寺などを始め、京都の夏の風物詩・祇園祭の中心地となる八坂神社、1,000体の仏像が安置される三十三間堂、近年は“千本鳥居”でとくに海外客の人気を集める伏見稲荷大社、そのほかにも、貴船神社、東本願寺と西本願寺、仁和寺、上賀茂神社、下鴨神社…など、列挙しようとしてもキリがないほど。
 それら寺社仏閣は、世界遺産や国の重要文化財に指定される建造物のほうが、とかくフューチャーされがちだ。しかし、そうした荘厳な建造物を引き立たせる役目をもつ、忘れてはならない“バイプレーヤー”がいる。それが、それぞれに趣向を凝らされた美しき日本庭園である。今回、すばらしき名園をいくつか視察したので、ここで紹介してみよう。

渉成園

 京都市下京区にある「渉成園(しょうせいえん)」は、真宗大谷派の本山である「東本願寺」の飛地境内地であり、東本願寺から東に約150mに位置する名勝だ。周囲に枳殻(カラタチ)が植えてあったことから、「枳殻邸(きこくてい)」とも称される。大小2つの池と数棟の茶室に加え、園林堂(持仏堂)と書院群で構成され、約1万600坪の広大な敷地をもつ。
 JR京都駅から徒歩10分という距離にありながら、園内に入ると、しばし都会の喧騒を離れて穏やかな時の流れを感じられるほど、自然に溢れた優美な庭園だ。見る角度によっては、借景として「京都タワー」もお目見えするのはご愛嬌。園内には随所に見どころがあるうえ、駅からも近いので、帰りの新幹線を待つ間など、ちょっとした空き時間に訪れるには最適だ。

東本願寺の飛地境内地である「渉成園」

龍安寺・方丈庭園

 京都市右京区にある臨済宗妙心寺派の寺院「龍安寺(りょうあんじ)」は、寺院そのものよりも、むしろ「石庭」として知られる枯山水の「方丈庭園」が有名だ。白砂が敷き詰められた東西25m、南北10mの空間に大小15個の石が配されたこの石庭は、室町末期に優れた禅僧によって作庭されたと伝えられている。
 “禅問答”で知られる臨済宗の教えを具現化したかのような、極端なまでに象徴化されたこの石庭のもつ意味は謎に包まれており、見る人それぞれの自由な解釈に委ねられている。枯山水の代表的な庭園だけあって訪れる観光客の数も多い。石庭の前では皆が一様に足を止め、それぞれが庭を眺めながら思案に耽っている様子が印象的だった。

「石庭」として知られる枯山水の「龍安寺・方丈庭園」

相国寺・裏方丈庭園

 京都市上京区にある臨済宗相国寺派大本山の寺「相国寺(しょうこくじ)」。京都の寺社仏閣のなかでは全国的にややマイナーな印象を受けるが、足利将軍家などにゆかりがある禅寺であり、画僧として知られる雪舟は同寺の出身。しかも、実は京都の観光名所として著名な鹿苑寺(金閣寺)や慈照寺(銀閣寺)は、この相国寺の山外塔頭(さんがいたっちゅう)にあたるというから驚きだ。
 その相国寺には、表と裏の2つの方丈庭園があり、禅の境地“無”を表しているといわれる白砂のシンプルさが特徴的な「表方丈庭園」に対し、「裏方丈庭園」のほうは深山幽谷を表現したダイナミックなもの。とくに裏方丈庭園は、水を使わない枯山水風の庭でありながら、流れが大きく掘り込んであるという、ほかに見られない様式の庭園であり、見るものを圧倒する力強さが感じられた。

深山幽谷を表した枯山水庭園「相国寺・裏方丈庭園」

平安神宮神苑

 京都市左京区にある「平安神宮」は、“平安遷都1100年”を記念して1895(明治28)年に創建された、京都のなかでは比較的歴史の浅い神社。だが、当時の京都は幕末の動乱期を経て市街地が荒廃し、明治維新によって事実上の首都が東京に遷ったことで、その衰退ぶりは目を覆わんばかりの状況だった。その状況下で、千年以上も栄え続けた雅やかな京都を後世に伝えるため、“四海平安”の祈りを込めて創建されたのが平安神宮である。
 その平安神宮内にある「平安神宮神苑」は、明治時代の代表的な日本庭園として広く内外に知られ、社殿を取り囲むように東・中・西・南の4つの庭から構成される、総面積約1万坪にも及ぶ広大な池泉回遊式庭園。京都御所から移築された「尚美館」や「泰平閣」、豊臣秀吉が造営した三条大橋と五条大橋の橋脚の石材を再利用した「臥龍橋」など、古い歴史を受け継ごうという意図が感じられ、京都千年の歴史に思いを馳せずにはいられなかった。

広大な池泉回遊式庭園の「平安神宮神苑」

伏見稲荷大社・松の下屋庭園

 京都市伏見区深草にある「伏見稲荷大社(ふしみいなりたいしゃ)」は、全国に約3万社あるといわれる稲荷神社の総本社。商売繁盛のご利益があるとして古くから信仰を集め、初詣では近畿地方の社寺のなかで最多の参拝者を集めるといわれる。また近年は、トンネルのように連なる真紅の「千本鳥居」が“インスタ映え”するとして、とくに外国人観光客を中心に人気があり、京都の観光スポットとして長年1位の座に君臨してきた清水寺から、その座を奪わんとしている。
 そうした派手な伏見稲荷大社の本殿や神楽殿、千本鳥居とは対照的に、一見地味な印象を受けるのが、すぐ横に位置する「松の下屋」と「お茶屋」、そして「松の下屋庭園」である。そのうち松の下屋庭園は、稲荷山を借景とした緑豊かな回遊式庭園で、格調高い落ち着いた雰囲気を漂わせている。観光客で賑わう伏見稲荷の表の顔とは一線を画し、静けさと“わび・さび”を感じさせる、何とも味わい深い庭園だった。

緑豊かな回遊式庭園の「伏見稲荷大社・松の下屋庭園」

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 今回の京都視察で拝見したすばらしい庭園をいくつか紹介してみた。どの庭からも、それぞれの寺社仏閣にふさわしい荘厳さや神聖性、自然の美しさ、そして何よりも京都千年の歴史の重みが感じられた。京都観光というと、やはり一般的には派手で目立つ建築物のほうに目が行きがちではあるが、その建築物の存在を陰で支えて引き立たせる庭園のほうに目を向けてみるのも、ときには悪くない。

【坂田 憲治】

 

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