H.I.S澤田秀雄社長への提言~後継者はお決めになりましたか(後)
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ロボットホテルとエコロジービジネスの実験場
澤田氏が事業家として傑出している点は、ハウステンボスを新しい事業の種を育てる実験場にしたことだ。その代表がロボットホテルの「変なホテル」である。
HTB内のロボットホテルは大成功。その手応えを得たことから、「変なホテル」の全国チェーン展開に乗り出した。ロボットを活用することで、同規模のホテルの約4分の1の従業員で運営するローコストホテルだ。ホテル子会社のH.I.Sホールディングス(東京・新宿)を通じて東京都心に進出攻勢をかけた。
昨年12月に「変なホテル東京西葛西」を開業したことを皮切りに、東京に進出。今年2月、「変なホテル東京銀座」を開業。フロントには従来の恐竜型ではなく、女性の人型ロボットを配置した。今後、2018年度末までに関東で浜松町、浅草橋、赤坂、羽田、博多、大阪、それに京都に開業を予定している。メインターゲットは観光客で将来的には100店オープンさせる構想だという。HTBは今年3月、球体型の船を使った「水上ホテル」の実証実験を始めた。夜に乗り込み、目的地で朝を迎える。今夏にも一般向けの導入をめざす。球体型で、1艇が丸ごと個室の水上ホテルは世界初だ。
2艇をつなぎ、船で引っ張って運航する。HTBを出発して船内で一夜を過す。翌日、今年4月28日に恐竜の新アトラクションを始める無人島「ジュラシック アイランド」に到着しているという構想だ。「水上ホテル」を「変なホテル」に次ぐホテルブランドに育てる。HTBは、エコロジー技術の実験場でもある。オランダの雰囲気を醸し出す1基の風車には風力発電所の機能を備えている。7,000枚の太陽光パネルとともに、園内に電力を供給している。敷地内を走るカートは電動。ガスは排出していない。将来は園内の消費量よりも多く電力をつくりだし、電力会社のように外部に販売する。HTB電力にするアイデアだ。
ハウステンボスを城壁都市にする
それでは、澤田氏はハウステンボスの将来をどう構想しているのか。
日本経済新聞と日経BP社の共同情報サイト「NIKKEI STYLE」(18年3月17日付)のインタビューで、澤田氏は「ハウステンボスを城壁都市にする」と語っている。〈今度、ハウステンボスに城壁を造ろうと思っているんですよ。ハウステンボスをぐるりと囲って中を見えないようにしてしまうんです。欧州には、城壁の中にある都市が少なくありませんよね。それをハウステンボスでやるんです。
城壁は高さ10mぐらいにして、その中にロボットで動く工場や植物工場など最先端の生産拠点をいっぱいつくる。広大なオフィス空間やアウトレット店も設ける構想です。城壁はテーマパークの入場口のあたりに造っていきます。来客用の大型駐車場から、入場口まで50mほどあるから、建設にはぴったりです。
城壁の入り口、つまりテーマパークの入り口には、でっかい門をつくる。よく海外の映画に出てくるでしょう。門の重厚で大きな扉が「ギッギギィー」と鈍い音を立てて開く。内部に広がるテーマパークへの期待をさらにかき立てることでしょう。城壁の上は、テーマパークを一望できる遊歩道にして、散歩できるようにしたいですね。〉澤田氏のアイデアはこんこんと湧き出る泉のように尽きることはない。それでも、澤田氏は満足しない。1人旅に出かけるのは、アイデア力を充電するためだ。
西日本新聞(17年12月29日付朝刊)の取材に、〈「最近は自分の発想が豊かでなくなった。世界の変化から刺激を受けたい」と説明。学生時代にもバックパッカーとして50カ国以上、巡ったことがあるといい、今回は「原点回帰の旅」としている。〉
「旅」からヒントを得て、どんなアイデアが飛びだしてくるか。楽しみである。不在中は、若い経営陣のテスト期間である
ベンチャー三銃士と言われた澤田秀雄氏は、今年67歳になった。事業の後継者を決めなければならない年齢だ。
澤田氏は昨年12月4日、HTB内で記者会見し、初めて引退に言及した。〈「3年以内に(HTBの経営を)バトンタッチしたい。若い経営陣がぼくがいなくても(HTBを)発展させられる体制をつくるのが、次の仕事だ」と述べた。〉(時事通信17年12月4日付)
創業者にとって、誰を後継者にするのかは、最も頭を悩ます問題だ。
モーター大手、日本電産の永守重信会長兼社長は2月3日、社長を譲ると発表して、大きな話題になった。後任に車載事業を率いる吉本浩之副社長が就く。6月の株主総会を経て正式に就任する。永守氏はCEO(最高経営責任者)、吉本氏はCOO(最高執行責任者)に就く。創業から45年、永守氏は初めて社長の座を譲る。
これまで、永守氏は後継者を何人もスカウトしてきたが、お眼鏡が叶わず辞めていった。昨年、73歳の永守氏は「75歳で社長を辞める」と発言したが、誰もが半信半疑だった。それが、あっさり社長を退いた。業界人が驚いたのも無理はない。
なぜ、永守氏は社長を辞めるのか。永守氏は2018年3月に京都学園大学の理事長に就任。私財を投じて2020年に工学部を新設、次世代の技術者の育成にあたる。このような事情がないかぎり、創業者が社長を譲る決断をするのは難しい。それでは、澤田氏は、どうやって後継者を決めるのか。1人旅が重要な意味をもっている。
前出の西日本新聞(17年12月29日付朝刊)で、澤田氏は〈「私が長い間いなければ、これまで私の指示待ちだった部下が自分で考えて決めるようになり、人が育つ」〉と語る。
澤田氏が、3カ月から半年、1人旅をする最大の目的はここにあるだろう。これまでは、澤田氏が最終的に意思決定をしていた。澤田氏が不在の間、誰がリーダーシップをとって、決めていくか。誰がリーダーの器か。じっと観察する。これが主眼だ。澤田氏は、ディズニーランドを超えるレジャーランドにすることを目標に掲げる。ディズニーランドのような巨大な施設をつくるつもりはない。規模では逆立ちしても及ばない。勝負は、アイデアだ。次々と仕掛けていくユニークなアイデアが生命線だ。「変なホテル」や「城壁都市」のように奇抜なアイデアを実行していく行動力を、澤田氏は最も評価している。
澤田氏の1人旅は、後継社長を決める実地試験の期間に当たる。
澤田氏が「旅」から戻ってきた時、訊いてみたい質問がある。
「後継者は、もうお決めになりましたか」(了)
【森村 和男】関連キーワード
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