2024年12月23日( 月 )

築地市場移転、小池都知事の「アウフヘーベン」の害悪(4・終)

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都民に害をおよぼす行政と大手のなれ合い

築地と同等の機能性・利便性は新市場にあるのか

 3つの問題点について、データ・マックスは、設計者の(株)日建設計に対して質問を行ったが「市場PTで確認済み」との返答がなされ、具体的な回答は得られなかった。

 日建設計の根拠は、東京都のお墨付き(検査済証)だ。市場問題PTの議事録を引用すると、「2016年12月28日付で、東京都建築主事より、豊洲市場の全街区について『建築物およびその敷地が建築基準関連規定に適合している』(建築基準法第7条5項)ことを証明する文書である『検査済証』が交付され、建築基準法に基づく構造安全性が確認されました。これらのことより、豊洲市場の建物は合法で適正な設計がなされていると認識しています」とある。

 しかし、仲盛氏は、「無責任としかいいようがない。日建設計のいう『検査済証』は、設計図面と施工状況が一致しているかを検査し、証明するものであり、構造計算の適否を検査するものではない」と明確に反論する。さらに仲盛氏は、水産仲卸売場棟の構造設計問題の背景に、東京都と多くの公共建築物を手がける日建設計との慣れ合いの関係があることを指摘する。

 「建築確認業務は、民間の建築確認機関にも開放されている。行政と民間、いずれの建築確認機関に建築確認を申請するかは、申請者の自由。民間のほうが商売上、審査期間が短く、申請数が多く、審査員も勉強している。競争原理が働き、いい加減な審査はできない。一方、競争原理がない行政では、プロ意識のない職員がダラダラと審査に時間をかけるため、申請者が困るケースが多い。豊洲市場の場合は、発注者が東京都で、日建設計が設計した計画を、東京都の建築審査課で審査した。いわば、身内の馴れ合いのなかでダブルチェックどころか、ダブルミスを犯した」(仲盛氏)。

 実際に設備を使用する市場関係者からは新市場の設計そのものへの不満の声があがっている。「店舗が狭く、荷物が置けず、商品を出せない」「発砲スチロールの箱をおくところがない」「日建設計は、築地を見ないで設計したのか」など。安全性の保証もなく、機能性が悪いとされる豊洲市場。本来なら、その施設を運用する市場関係者のチェックを受けるべきであったはずだ。

日本全国に波及する中央卸売市場の危機

 仲盛氏は、技術アドバイザーを務めている福岡県久留米市の欠陥マンション裁判で培った経験を基に、半年後の移転を止めるための方策について提言も行った。司法(東京地裁)から「直接的な被害を受けることが予想される者ではない」と判断された仲盛氏だが、地震などの災害により、人口約1,375万人の首都・東京が市場機能を喪失すれば、間接的とはいえ、日本国民全体が食糧問題で多大な影響を受ける。首都圏直下型地震や東海地震の発生が現実味を帯びるなか、危険地帯にある安全性が保証されていない建物に、市場を移転することは日本の危機といえるのではないだろうか。

 市場移転に「待った」をかける方策としては、裁判所に移転差し止めの仮処分を申請することが考えられる。「時間が限られている以上、争点をイエスかノーで答えられるようなシンプルなものに絞るべき」と仲盛氏はいう。仲盛氏が原告の技術アドバイザーを務めている福岡県久留米市の欠陥マンション裁判(参照記事)では、あまりにも施工の瑕疵が多く、それぞれの是非が問われるため、長期化もやむを得ない。

 市場移転に関して数々の疑問・不満が残るなか、被告となる東京都に対し、すべてを表に出して不条理を訴えたいところであるが、争点が増えると同時に、その分、相手方に反論(時間稼ぎ)の余地を与えてしまうことになる。移転に踏み切り、既成事実で固めてしまいたい東京都が裁判において時間稼ぎの手段に出ることは火を見るよりも明らかだ。

災害から東京都民の『食』を守るという観点

築地移転阻止へ気勢をあげる

 4月14日行われた仲盛氏の講演には、築地市場の仲卸業者を始め、移転に疑問を抱く都民ら約200名が参加。10月11日に予定されている豊洲市場への移転を阻止すべく、問題認識の共有が図られた。
参加した仲卸業者は「(築地市場は)80年営業を続けた、汚染されていない『食の聖地』。この伝統を壊したくはない」と移転反対の決意を語る。移転差止の仮処分申請も含めて東京都に対する訴訟を検討するという。

 市場の場所として築地が選ばれた理由には、大地震を経験した東京ならではの「東京都民の食の安全を守る」という観点があった。「関東地方も大きな地震が襲った東日本大震災で発砲スチロールの箱すら落ちなかった」「地名に『地』がつく通り、地盤が丈夫なところ。『洲』がつくように地盤が脆いのが豊洲」と市場関係者は訴える。

 「ほぼすべての建築士は、商売を続けるために、行政や大手企業、業界団体に文句をいえない。提訴の際には、私が全力でサポートする」という仲盛氏。耐震性が危ぶまれる豊洲新市場。いつ起こるかわからない大地震がひと度発生すれば取り返しのつかないことになるかもしれない。移転予定日まで残り半年を切った。築地の人たちの戦いに注目が集まる。

(了)
【山下 康太】

 
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