2024年11月26日( 火 )

今イタリアで何が起きているのか?(後)

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日伊経済連合会 会長             
ディサント(株) 代表取締役 ディサント・ダニエレ 氏

大統領への失望と暫定政権

 現時点では、この事態に対し、政治勢力(「五つ星運動」「同盟」のほか、この事態を問題視したほかの政党)からの強い反発が起きており、「五つ星運動」と「同盟」は、イタリアを混沌に陥れ、国家権力間で紛争を巻き起こそうとするマッタレッラ大統領の弾劾手続きについても言及している。
 実際問題、この危機は、欧州連合における各国の連帯が限界だということの象徴ともいえる。欧州連合の政策は一部の国の人々を苦境にさらしてきた。
 Brexit(英国のEU離脱)や、EUのいくつかの国でのナショナリズムの高まりもそうだが、イタリアで起きたこの政治的バイオレンス(幸いにも今のところ言論上のものにとどまっているが)からも、欧州連合の存在により国家主義が制限されていることを実感せざるを得ない。

 マッタレッラ大統領は、新しい首相候補として、カルロ・コッタレッリ氏を指名した。コッタレッリ氏は国際通貨基金(IMF)においてイタリアや英国、ハンガリー、トルコなど多くの代表事務所の局長クラスを経験し、2013年にはイタリアのレッタ政権でイタリア版「事業仕分け」において公的支出削減で成果を残し“Mr. Forbici”(イタリア語でForbiciはハサミを意味する)と呼ばれた人物。

 これはつまりテクノクラート政権誕生の可能性をはらんでおり、マッタレッラ大統領は暫定政権の投票を野党勢力へ働きかけると見られるが、選挙で勝利した2政党が過半数を占める議会から暫定政権が信任を受ける可能性は極めて低く、8月以降、おそらく9月頃をめどに再選挙が行われると予想される。
 そうなると、次の選挙では「五つ星運動」と「同盟」がさらに結束を強めることが予想され、国民の支持を拡大する可能性が大きい。

イタリアの政治情勢への国内外での反応

 イタリアの主要日刊紙の1つである“Il Fatto Quotidiano”誌編集長のマルコ・トラヴァリオ氏は、この事態に対して「選挙に勝った者に政権を断念させるなんて、馬鹿げている」とし、「政府と与党に対して個人の政治的立場を押し付けるのは不当な主張だ」と述べたほか、セルジオ・マッタレッラ大統領を個人の政治的主張を押し付ける「セルジオ王」と厳しく批判した。

 欧州委員のドイツ出身、財務担当委員のギュンター・エッティンガー氏は、この状況について、「マーケットの反応が、イタリア人に最善の投票方法を教える結果になる」「マーケットの拒否反応がイタリア国民にポピュリズム政権に再投票してはならないと導くだろう」とDwnewsで話した。
 「五つ星運動」とともに連立政権を発足させるはずであった「同盟」書記長のマッテオ・サルヴィーニ氏は欧州委員のエッティンガー氏の発言を「イタリアへの脅し」だと問題視しており#primagliitaliani(まずはイタリア国民のために)というハッシュタグで「私は恐れない」と応戦し、発言への訂正を求める事態に発展した。

 同じく欧州委員であるフランス出身のピエール・モスコヴィッシ氏は「イタリア人は民主主義のルールにのっとり、国民が自国の運命を選ぶ必要がある。そのなかで欧州各国にとって有益な共通の取り決めや、ユーロ経済にとどまる必要があるというだけで、イタリアの国政がどのような状況であっても、イタリア政府とともに解決策を見出すことができる知性と調和、信頼をもって仕事を続けるだけだ」とした。

 日本でも今、イタリアで起こっていることの報道が一部されているが、マッタレッラ大統領と政治的ポジションの近いイタリア大手の某通信社などを情報源としているのではないかという印象を受ける。イタリア国民の怒りや混乱している状況が伝えられていないのだ。

万が一、おなじことが日本で起きていたら?

 選挙で勝利した政党が、組閣をあきらめざるを得ない状況に陥ったとしたら…。

 民主主義の根本を揺るがす事態がイタリアで今起きているということを、ぜひ日本の皆さまにも意識していただいたうえで、イタリア情勢に関するニュースを読んでいただければ、もっと面白いのではと考えている。

(了)

<プロフィール>
Daniele Di Santo(ディサント・ダニエレ)
1979年10月、イタリア・ローマ出身。2010年3月にディサント(株)を設立し、代表取締役に就任。13年から「西日本国際ビジネスフォーラム」を毎年開催しているほか、15年1月には、イタリアと日本の経済交流の活性化を目指し、相互の経済・文化などの関係や交流を強化・促進するために「日伊経済連合会」を立ち上げ、会長に就任した。

 
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