2024年11月20日( 水 )

自社の存在価値は「地域貢献」にあり 高い利益還元意識も変わる事業環境(前)

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(株)ふくや

 海千山千の明太子業界では、売上高やブランド力だけでは抜きん出た評価を受けられない。(株)ふくやが財界で特段の存在感を放つのは「地域貢献」に資金と人材の投入を惜しまないからだ。創業3代目になってもその思想はぶれないが、市場縮小や競合増加など事業環境は大きな変化を遂げており、これまでと同様の還元を継続することのハードルは年々高くなっている。

 

納税額2億円を自社に課す

 創業者・川原俊夫氏は、終生「ふくや」の個人事業を貫いた。戦時中、俊夫氏は激戦地だった沖縄で戦死を逃れた経験から、残りの人生を納税を通じて社会貢献に費やすと決意。最晩年の1979年、(株)ふくやの売上高が25億円の時、俊夫氏の納税額は福岡市トップの約2億円だった。
 法人化は俊夫氏が死去した翌80年に成された。俊夫氏の2人の息子はいずれも福岡相互銀行を経てふくやに入社するが、先に入社していた次男・正孝氏(現・会長)が、財務のプロである兄・健氏に相談し、2倍の増収で従来通りの納税が可能と見立て、母・千鶴子氏を説き伏せた。以降、同社の事業計画は2億円の納税額から逆算して立てられていた時期がある。
 同社では納税とは別に地域貢献へ直接的な資金投入も行っている。「博多祇園山笠」への寄付を始めとする地域のイベントへの協賛だ。依頼件数は年間200件ともいわれ、対応のために96年に専門部署「網の目コミュニケーション室」を発足させ、一元管理している。金額の目安は利益の2割。営業利益率5%と見積もれば約7億円、その2割だと約1億5,000万円が地域貢献に投入されることになる。

経営理念『強い会社 良い会社』とは

 ふくや本店

 同社の経営理念は「強い会社 良い会社」。「強い」は利益を出す能力、「良い」は利益を地域のために使うことである。業界や財界関係者が口をそろえて同情するのは、利益の多少に関わらず地域貢献を期待されるからだ。地域貢献には人的貢献も含まれる。山笠の集会やPTA活動、スポーツ少年団指導などへの参加は出勤扱いになるだけでなく手当が支給される。辛いのは利益捻出のために安易なコスト削減に走れないことだ。業界関係者は今日においても最高級の原料を用いていることに感嘆している。あらゆる面で高コスト体制を余儀なくされるなかで収益力のある「強い会社」であることを求められる。創業者が設備投資に限界がある個人事業にこだわったことで一時売上高は業界3位に転落した時期がある。法人化後、兄弟が結束して店舗展開と通販進出に乗り出すことで首位を奪還。品質と売上を両立させた。

不動産資産への担保設定が示すもの

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 こうしたなか、2008年同社の所有する不動産約60筆に金融機関から75億円の担保設定が成された。この時期を境に同社の決算書は非公開となる。マスコミ露出が減少し、一時同社の存在感は低下した。突然の巨額な資金調達が表面化したことで、それまでの堅実な企業イメージとのギャップに財界が驚愕した。だが、一見相反するイメージと実像だが、地域に還元する原資は利益しかない。振り返れば創業者・俊夫氏も還元するために利益追求に強烈な執念を燃やした。同社がリーマン・ショック発生前のミニバブル期に、収益が見込める事業か投資に食指を伸ばしても不思議ではない。この一件は「利益」と「還元」が同社の両輪であることを示し、限られた条件下で高い収益性を求められることを示したのではないか。

(つづく)
【鹿島 譲二】

<COMPANY INFORMATION>
代 表:川原 武浩
所在地:福岡市博多区中洲2-6-10
登記上:福岡市中央区天神3-3-3
創 業:1948年10月
設 立:1980年8月
資本金:3,000万円
売上高:(17/3)148億円

(中)

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