2024年12月21日( 土 )

なぜ、文科省は自発的「植民地化」に邁進するのか!(5)

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国際教育総合文化研究所 所長 寺島 隆吉 氏
朝日大学経営学部 教授 寺島美紀子 氏

入れても溜まらない「ザルみず効果」の英語教育

 寺島 では英語力=国際力という点ではどうでしょうか。「英語は今や国際語だから、英語さえできれば世界中どこでも旅行できる」とか、「英語は国際語だから、英語さえ知っていれば世界中のあらゆることを知ることができる」という話が引き合いによく出されます。このことは、半分は真実で、半分はウソです。

 海外旅行で高額の一流ホテルに泊まるのであれば英語が通じますが、一般人は海外旅行すると言ってもガイド付きのパック旅行をする人がほとんどですから、英語は必要ありません。他方、個人旅行で安いホテルに泊まろうとすれば、その国の母語が優先的に使われていますから、ほとんど英語は通じません。

 また、世界中の出来事を英語で知るためには、英字新聞などを読めないといけません。これは、まさに文法を重視した読解力、「学習言語としての英語」の習得なしには不可能です。ところが、いま政府・文科省が進める「英会話中心」の教育政策は、「生活言語としての英語」を目指しています。日本のような環境では、英語は「生活言語」ではありません。一般庶民は日常的に英語を使う必要に迫られません。そして使う機会の少ない言語は、憶えてもすぐ忘れてしまいます。私はこれを「ザルみず効果」と名付けています。ザルにどれだけ水を入れても溜まらないからです。

 ですから、今の文科省の目指す「生活言語」としての英語政策は、生徒の英語力を高めるどころか、低下または停滞させる効果しかありません。文科省が行っている英語力調査そのものが、このことを証明しています。これは政府にとっても生徒・教師にとっても時間と精力とお金の壮大な無駄遣いです。

 私の教え子で今ブラジルに行っている女性教師(小学校)がいます。青年海外協力隊の一員としてアマゾン近くの日本人学校で日本人の子どもを教えているのですが、「必要な日常会話は現地に行けばできるようになる。しかし文法はそうはいかない」と言われ、派遣される前の3カ月研修ではポルトガル語の文法をみっちり仕込まれたそうです。日本人学校では、日常生活として必要なのは「生活言語」としてのポルトガル語だけなのに、日本語で特訓を受けたのはポルトガル語の文法でした。

(つづく)
【聞き手・文・構成:金木 亮憲】

<プロフィール>
寺島 隆吉 (てらしま・たかよし)

国際教育総合文化研究所所長。元岐阜大学教育学部教授。1944年生まれ。東京大学教養学部教養学科を卒業。石川県公立高校の英語教諭を経て岐阜大学教養部および教育学部に奉職。岐阜大学在職中にコロンビア大学、カリフォルニア大学バークリー校などの客員研究員。すべての英語学習者をアクティブにする驚異の「寺島メソッド」考案者。英語学、英語教授法などに関する専門書は数十冊におよぶ。また美紀子氏との共訳『アメリカンドリームの終わり―富と権力を集中させる10の原理』『衝突を超えて―9.11後の世界秩序』(日本図書館協会選定図書2003年度)をはじめとして多数の翻訳書がある。

<プロフィール>
寺島 美紀子 (てらしま・みきこ)

朝日大学経営学部教授。津田塾大学学芸学部国際関係論学科卒業。東京大学客員研究員、イーロンカレッジ客員研究員(アメリカ、ノースカロライナ州)を歴任。著書として『ロックで読むアメリカ‐翻訳ロック歌詞はこのままでよいか?』(近代文芸社)『Story Of  Songの授業』、『英語学力への挑戦‐走り出したら止まらない生徒たち』、『英語授業への挑戦‐見えない学力・見える学力・人間の発達』(以上、三友社出版)『英語「直読理解」への挑戦』(あすなろ社)、ほかにノーム・チョムスキーに関する共訳書など、隆吉氏との共著が多数ある。

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