なぜ、文科省は自発的「植民地化」に邁進するのか!(6)
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国際教育総合文化研究所 所長 寺島 隆吉 氏
朝日大学経営学部 教授 寺島美紀子 氏英語教育に素人同然の先生から、英語を習う
寺島 文科省の英語政策は「英語と母語とは同じ習得過程をたどる」という間違った言語観に基づいています。だから小学校の早い時期から英語をやれば日本人の英語力は高くなるということになります。しかし「母語と外国語では習得順序・習得方向がまったく逆ベクトルである」「外国語の習得は母語の発達とは正反対の道をたどって進む」ことは、著名な心理言語学者ヴィゴツキーが80年以上も前から喝破していることです。
小学校英語についてはもう1つ大きな問題があります。それは教員養成の問題です。今までは、英語と言っても教科ではなかったので、中学校から借りてきた先生で足りました。しかし、今度は教科になるので、中学校から借りてくることはできません。その結果、英語について何もわからない子どもが、英語教育に素人同然の先生から習うことになります。まったくのナンセンスとしか言いようがありません。
私は小学校で母語(日本語)をしっかり教えたうえで、中学校で英語を習うべきと考えています。このように段階を踏まないと、どちらの言語も中途半端になってしまうからです。小学校に英語教育がもち込まれた分だけ国語や算数の時間が削られますから、これは素人が英語を教えるという問題以上の大きな打撃を小学校にもたらすことになります。今でも試験問題の日本語を理解できない子どもたちが大きな話題を呼びました(新井紀子『AI(人工知能)vs 教科書が読めない子どもたち』東洋経済新報社/2018年)。このまま進行すれば日本の将来は深刻な事態に陥ることになるでしょう。「一億総白痴化」といってもよいかも知れません。
美紀子 難しい単語に日本語のヒントを付けたプリントで授業をしているのですが、「目下の急務」を「めしたの~」と読んだりします。「堅固な城壁」の「けんごな~」も読めないのです。このような傾向は年を追うごとにひどくなっています。こんな状態では発音記号を教えても学生の負担が重くなるので、単語の読み方をカタカナで書いてやることにしています。「寺島メソッド」で「リズムよみ」を教えるとカナ読みでも英語らしい発音になるのですが、最近はカタカナも読めない学生すら出てきています。これが英語教育「改革」の実態です。
その一方で、「英会話学校」や「英語教材会社」からの売り込み競争が激化しています。もう10年以上も前ですが、東京の知人から相談を受けました。2歳にもならない子どもに英語教材の売り込みがあったからです。価格は約70~100万円だったそうです。不安を煽られると、親心で買ってしまう人も多いと聞きます。それどころか最近は「生まれてからでは遅すぎる、胎教だ」というので、主人の教え子が結婚して妊娠したところへ早速売り込みがあったという話も聞きました。これが小学校英語の「経済効果」です。
最近は私が住んでいる地区近辺でも、英語塾や英会話学校の看板が溢れています。幼児から社会人まで多種多様です。英語が小学校に導入されてから、少子化にもかかわらず、ひと昔前とは比較にならないほど「英会話学校」「英語教材会社」の市場は巨大化しました。アメリカやイギリスにとっては、「英語という言語」と「英語母語話者」すなわち「米語人」「英語人」は「輸出商品」の1つにさえなっています。
(つづく)
【聞き手・文・構成:金木 亮憲】<プロフィール>
寺島 隆吉 (てらしま・たかよし)
国際教育総合文化研究所所長。元岐阜大学教育学部教授。1944年生まれ。東京大学教養学部教養学科を卒業。石川県公立高校の英語教諭を経て岐阜大学教養部および教育学部に奉職。岐阜大学在職中にコロンビア大学、カリフォルニア大学バークリー校などの客員研究員。すべての英語学習者をアクティブにする驚異の「寺島メソッド」考案者。英語学、英語教授法などに関する専門書は数十冊におよぶ。また美紀子氏との共訳『アメリカンドリームの終わり―富と権力を集中させる10の原理』『衝突を超えて―9.11後の世界秩序』(日本図書館協会選定図書2003年度)をはじめとして多数の翻訳書がある。<プロフィール>
寺島 美紀子 (てらしま・みきこ)
朝日大学経営学部教授。津田塾大学学芸学部国際関係論学科卒業。東京大学客員研究員、イーロンカレッジ客員研究員(アメリカ、ノースカロライナ州)を歴任。著書として『ロックで読むアメリカ‐翻訳ロック歌詞はこのままでよいか?』(近代文芸社)『Story Of Songの授業』、『英語学力への挑戦‐走り出したら止まらない生徒たち』、『英語授業への挑戦‐見えない学力・見える学力・人間の発達』(以上、三友社出版)『英語「直読理解」への挑戦』(あすなろ社)、ほかにノーム・チョムスキーに関する共訳書など、隆吉氏との共著が多数ある。関連記事
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