ユーザー・エクスペリエンスを究極まで高めるAmazon!(後)
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立教大学ビジネススクール教授 田中 道昭 氏
「ビッグデータ×AI」という手段でUXを高める
――アマゾンといえば、ユーザー・エクスペリエンス(UX・顧客の経験価値)という言葉と切り離すことができません。
田中 アマゾンの競争優位性は、顧客第一主義の徹底に宿っています。アマゾンはUXを高める目的で「ビッグデータ×AI」という手段を採用し、その結果、高い競争優位性を実現していると私は考えています。UXとは、平たくいえば、「使いやすい」「楽しい」「わかりやすい」など、さまざまな要素があります。どれだけ高機能なサービスでも、それが使っていて心地良くなければ、そこまで高機能でなくても使いやすく心地良いサービスにユーザーは流れていくかもしれません。テクノロジーが発達するにともない、サービスに期待されるUXは極限まで高まっています。
最も重視される「セルフリーダーシップ」概念
――アマゾンの「リーダーシップ14カ条」は有名です。この点についても触れていただけますか。
田中 まず、ベゾフ自身のリーダーシップの特徴の1つは「ビジョナリー・リーダーシップ」です。ビジョンの創造と実現が第一の要件であり、人がワクワクするような、自分もそこに参画してみたくなるような将来像を描き、メンバーに提示する。これができれば、仮に「人間としては付き合いづらい」まるで火星人のような経営者であったとしても、人を惹きつけ、ビジョンの実現に向けて人を動かすことができる、というわけです。
一方でアマゾンという組織全体の「リーダーシップ14カ条」で最も重視されているのは、「セルフリーダーシップ」という概念です。アマゾンでは、社員1人ひとりがリーダーであり、自分自身にリーダーシップを発揮することがリーダーシップの最も重要な定義とされています。セルフリーダーシップとは、自分自身をリードする方法です。自分をその気にさせ奮い立たせてある目標に近づけていく、導いていくというのがセルフリーダーシップです。そのため、上位のリーダーには、チームのメンバー1人ひとりが自分に対してリーダーシップを発揮できるように後押しするという役目が期待されています。
海外からは取り残されるというガラパゴス化の現象
――読者の明日にメッセージをいただけますか。
田中 今の日本は閉塞感が強く、いろいろなものが出遅れてしまったという問題意識、危機感を私はもっています。未来を考えていくうえで、いま世界で起きていることをじっくりと見つめることが必要です。
日本市場や日本企業は、国内では「安泰」である一方で、海外からは取り残されるというガラパゴス化の現象が起きています。このことについて、スイスのビジネススクールIMDの学長であるドミニク・テュルパン氏はその著作で「海外企業のグローバル戦略のなかで、日本市場の優先順位はもう高くない。成功が難しく、かつ、縮小する市場と見られているのです。(中略)大半の海外企業がわざわざ成長余力の小さい日本市場に挑戦するよりも、アジアの他国や他地域で勝負したほうがチャンスも大きいと考えているのです。日本にいると、世界の様子が見えてこないという傾向は、こうしてさらに強まっていきます」(『なぜ日本企業は「グローバル化」でつまずくのか』日本経済新聞出版社)と警鐘を鳴らしています。
(了)
【聞き手・文・構成:金木 亮憲】関連記事
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