2024年11月23日( 土 )

海難死亡事故の裁判中に経営トップ2人が円満退職?(後)~博多湾環境整備(株)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

係争中の円満退職

 実は当初、亡くなった社員の遺族に対して、同社側は事故における会社の責任を認めていた。“責任者処分”として、事故発生時の代表取締役社長であった木内俊弘氏が3カ月間の30%減給処分、取締役会長であった泉勝彦氏(2代目代表取締役社長)が昨年8月21日に退任したのである。

▲問題未解決のなか経営トップが退任(法人登記簿より。着色は編集部)

 この2人は、事故発生時の経営責任者であり、その責任もさることながら、事故後の対応で遺族の不信感を募らせ、問題を拡大した責任もある。遺族によると、葬儀の際には、同社関係者による事故に関する説明は一切なく、昨年1月10日に謝罪のため、遺族のもとを訪れた泉・木内両氏からは、事故報告書など文書や資料の提示はなく、口頭による説明に終始。遺族側の要求に応えるかたちで報告書が作成・提出される流れとなった。

 さらに昨年4月、証拠保全のために行われた福岡地裁による検証では、事故が発生した作業船に、船員法などで作成や掲示が定められた航海日誌、海員名簿、船内記録簿、通常配置表は作成されておらず、存在しないことが判明。この点について、同社は、「船員法の適用を受ける船舶だと認識していなかった」などと苦しい言い訳をしている。亡くなった社員が、過去の海中転落事故による身体の不調を訴えていたことも含めて、遺族が「起こるべくして起こった事故」と考えるのは当然のことだ。

 同社の事業について全責任を負ってきた泉・木内両氏は、その状況をつくり出した“張本人”と見なされる。ところが前出の通り、両氏は、事故の責任から逃れるように相次いで退任した。泉氏が退任したのは遺族が提訴する直前のこと、木内氏は裁判が本格化する真っただ中での退任である。

 しかも、同社の規定に従った退職金をもらっての退職であった。内情に詳しい関係者は、「規定によれば、代表取締役の基準月額は50万円、これに役職別の基準率2.8と在任年数12.0を掛け合わせて1,680万円が代表取締役としての木内氏の退職金となる。このほか社長就任前の役員としての退職慰労金や関連会社の分も合わせれば3千万円はくだらない」と語る。なお、同社は18年6月期、営業利益の42.9%を占める2,900万円を退職引当金として繰り入れた。

 泉氏が昨年8月に受け取った取締役会長としての退職慰労金は300万円弱と考えられるが、11年6月、代表取締役を辞した際に約6,000万円の退職金を同社から受け取っている。一方、同社が、亡くなった社員の遺族に対して昨年1月、提示していた和解金は3,000万円。保険金を除く同社負担分は1,600万円という。事故の記憶が冷めやらぬなか、事故で亡くなった社員へ支払う金額と、同等かそれ以上の退職金を手にすることについて少しも罪悪感を覚えなかったのだろうか。

失われていた大義名分

▲転落事故が発生した東浜ふ頭

 17年11月に発生した海難死亡事故と、その責任をめぐる同社の一連の対応は、“漁業権補償”という大義名分で発足した企業の「社会の公器」としての存在意義が喪失した実態を浮き彫りにした。事故と訴訟トラブルの責任は後進に押し付け、全社員の労働の結晶ともいえる利益の大半ともいえる金額をもち去る経営トップ。この事実だけでも、同社が私物化されていたといえるのではないだろうか。

 事故で亡くなったのは同社設立の発起人でもある初代社長の長男。漁業から転業し、同社設立時から一社員として港湾土木の現場で作業員として貢献してきた。「漁業権補償」という大義名分で発足した「社会の公器」である以上、初代社長は創業者一族による私物化を嫌い、代表権を2代目・泉氏に託したのである。

 ところが、年月が経つにつれ、設立時の目的は薄れていった。福岡市漁協はすでに株主ではなく、同社株式は、すべて同社および同社関係者、従業員持株会で所有している。今回、退任した3代目社長の木内氏は、もともと漁業者ではなく、人材補強のため、ほかのマリコンから高給で迎え入れられた人物と聞く。当然ながら、時間が経つに連れて漁業出身の社員の高齢化も進んでいる。18年6月30日現在の同社従業員72名の平均年齢は55.5歳。若い人材を補強すれば、加速的に設立時の性格は薄まっていくだろう。

 福岡地場マリコンとして、今後も公共工事を手がけていくのであれば、民間企業として然るべきコンプライアンスを備え、作業環境はもちろん社員の待遇面でも改善すべき余地が大いにあるのではないだろうか。「逃げ得は許さない」。亡くなった社員から株式を相続した同社株主でもある遺族は、泉・木内の両氏が同社に損害を与えたとしてその賠償を求める株主代表訴訟を視野に入れている。

(了)
【山下 康太】

<COMPANY INFORMATION>
代 表:犬丸 謙一(2018年8月就任)
所在地:福岡市博多区沖浜町12-1
設 立:1983年2月
資本金:2,940万円
業 種:港湾土木・浚渫工事ほか
売上高:(18/6)13億530万円

(前)

関連キーワード

関連記事