2024年11月29日( 金 )

もう1つの資金調達の手段となった「ICO」(前)

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日韓ビジネスコンサルタント 劉 明鎬 氏

 仮想通貨が私たちの日常生活にどのような影響を与えているか、皆さまは実感しているだろうか。仮想通貨には何となく投機のようなイメージが付きまとっていて、胡散臭いと思っている方も多いのではなかろうか。しかし、一方では、仮想通貨が一般の人たちにも広く知られるようになったのも事実である。

 日本では2017年4月に「改正資金決済法」が施行され、仮想通貨がモノやサービスの決済手段として認められた。その結果、支払いに仮想通貨が利用されている店舗も増えつつある。昨年はまさに仮想通貨元年と言ってよい年だった。仮想通貨の代表格であるビットコインは、17年の秋口から価格が急ピッチで上昇し、12月に一時年初の約20倍、それから3年前の価格に比べ、100倍も高騰していた。しかし、価格急落は突然起きた。17年12月17日に最高値の1万9738ドルをつけていたビットコインは、それ以降価格の調整局面に突入することとなる。とくに17年12月第三週目の下落幅は5,000ドルとなり、過去最大を記録した。価格下落は18年1月に入ってからも続いた。1月17日夜、ビットコインの価格は最高値の半値にまで下がっていた。日本ではそんな状況に追い打ちをかけるように18年1月26日に仮想通貨交換会社「コインチェック」のコインが盗まれるという事件が発生する。何と580億円分の仮想通貨「NEM(ネム)」が不正アクセスによって盗まれたのだ。

 仮想通貨では、このように取引所のセキュリティ問題、価格高騰による手数料の高騰、処理スピードの遅延など、いろいろな問題点が露呈しているが、それでも、仮想通貨の取引量は増加しているし、仮想通貨を発行して事業資金を調達しようとする新たな試みが世界各国で行われている。今回は新しい資金調達の手段である「ICO(Initial Coin Offering)」について取り上げてみよう。

 ICOとは、資金を募集する企業が独自の通貨であるトークンを発行し、今後推進予定の事業に必要な資金を集めることを指す。事業の内容に賛同した投資家はビットコインやイーサリアムのような流動性の高い既存の仮想通貨で払い込み、企業側は受け取った仮想通貨を換金して事業資金に充てる。ICOの募集資金は株や債権と違い、配当や金利を支払う必要もないし、既存のIPOとも違って、証券会社や監査法人を選定して1、2年間上場準備をする必要もないので、コスト負担も少ない。それに資金募集の時間短縮もできるので、設立間もない会社の資金調達の新たな方法として活用されている。

 2017年はまさに仮想通過のICOが盛んな年だった。2017年年初は世界的にベンチャー企業への投資のなかで、ICOが占める割合が投資金全体の10分1程度だったが、 2017年年末のICOの金額はほかの投資金額の10倍を上回るほどに急成長した。最近シリコンバレーの投資家はICO以外には、あまり関心を示さなくなったという。 

 ICOではネット上に事業計画書を公開し、資金を集めることになるが、既存のIPOのような厳しい審査が存在するわけではないので、簡単に資金が集められる反面、約束した製品やサービスが提供できないケースもよくあるらしい。また事業に実態がなくても、トークンが値上がりすると思ったら投資が実行されるので、投資とともに投機の様相も呈している。それで、中国では17年9月にICOが全面禁止になったし、韓国でも禁止となっている。

(つづく)

(後)

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