検察の冒険「日産ゴーン事件」(13)
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青沼隆郎の法律講座 第20回
水面下で進む「敗戦処理」
検察の世界法基準への挑戦は世界を相手に無謀な戦争を敢行した日本軍部政権の第二次世界大戦を彷彿とさせる。しかし、今回の世界大戦には冷静に対応する有能な金融行政のエキスパートの金融官僚群がいる。彼らは決して検察の有価証券報告書重要事項虚偽記載との主張に追随することはなく完全に無視している。幸い、日本の官庁御用達報道機関である大手メディアは金融行政監督官庁の最大の義務である有価証券報告書虚偽記載の是正命令処分について何も知らないから報道もしない。従って「だんまり」を決め込むことが可能である。
しかし、一方で金融行政監督官庁は近い将来の大変な事態についてすでに「敗戦処理」を考えていることはたしかである。何が大変な事態なのか。
ゴーンの反撃~つまり大株主のルノーの法的反撃手段(1)
ルノーはゴーンの会長職を解任していない。それは表向き、ルノーは日産から事件の詳細事情の説明・資料の交付を受けておらず、無罪推定の論理により会長職の解任ができないという。従って、ルノーが大株主としてさまざまな株主としての権利を行使する場合、それはゴーンの意向を大きく反映することを意味する。日本の金融官僚が心配するのは、このルノーの大株主としての権利行使である。
【株主代表訴訟】株主が取締役の不正行為を会社に糾弾させる訴訟類型である。重要なことは、訴訟費用が会社負担であるから、少数株主でも安心して提起できる。この訴訟のなかで本件事件の真実が争われることになる。ゴーンの不正行為の有無のみならず、不逮捕取締役の違法行為の有無などが、刑事裁判とは無関係に審理されることになる。
この場合、監督官庁として有価証券報告書の重要な事項に虚偽記載があると見ているかどうかが証拠調べされる。直ちに検察と歩調を併せなかった理由、とくに提訴までに是正処分命令がされていなければ、その理由も究明される。
【適正意見を付した公認会計士への懲戒処分請求(行政事件)と損害賠償請求(民事事件)の提起】有価証券報告書に虚偽記載はないとして、適正意見を付した公認会計士は全員、今回の検察の見解の法的正当性について言及せざるを得ず、自己の業務が適正であることを主張するためにも、今回の検察の逮捕論理が企業会計上、成立しないことを主張することになる。虚偽記載を見落としたものであれば、最低でも過失責任は免れない。もはや関係公認会計士に逃げ場はない。
(つづく)
<プロフィール>
青沼 隆郎(あおぬま・たかお)
福岡県大牟田市出身。東京大学法学士。長年、医療機関で法務責任者を務め、数多くの医療訴訟を経験。医療関連の法務業務を受託する小六研究所の代表を務める。関連記事
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