検察の冒険「日産ゴーン事件」(16)
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青沼隆郎の法律講座 第20回
「たられば」の話
記者が少しでも金商法の条文に触れたならば、金商法の中核ともいうべき監督官庁による金融商品取引の管理監督、つまり、監督官庁による有価証券報告書の重要な事項の虚偽記載についての是正命令処分の存在を知ったであろう。
そして、金融取引の専門的管理監督集団が誰1人として日産の有価証券報告書には多年にわたり、検察の主張するような虚偽記載は存在しないとしてきた決定的に重要な「客観的事実」との重大矛盾を知ったであろう。有価証券報告書に記載されなければならない役員報酬
日産の平成28年度の有価証券報告書36頁には役員報酬は取締役会議長と代表取締役が決定すると記載されている。具体的には逮捕された2名と西川代表取締役の合計3名である。この3名により決定された取締役報酬が最終的に有価証券報告書に記載される。
取締役報酬に限らず、同一の事業年度にかかる一切の収入支出が記載されるのが有価証券報告書である。その手続は事業年度の期首の予算の取締役会による承認と、期末の決算の取締役会の承認を経て、それが有価証券報告書に記載される。内部監査役も外部監査法人も監督官庁も有価証券報告書の記載に虚偽があるかないかはこれの照合によって判断している。多年にわたり多数の監査にかかる公認会計士らが虚偽記載はないとした判断のプロセスは実に簡明な中学生にでも理解できるプロセスである。改めて要約すれば、第1の要件はゴーンら3名による決定であること、第2に、期首に予算として取締役会の承認と得ていることおよび期末に決算として取締役会の承認を得ていることである。とくに第2の要件のうち期末の決算承認は極めて重要である。それは仮にその時点で現実の支払いがない場合、それは将来の未払い役員報酬、つまり会社債務として計上され、会計処理されなければならないからである。
以上の観点から、検察の主張する各事業年度に発生した巨額のゴーンだけの役員報酬について発生したとされる「確定した将来の役員報酬」なるものが、有価証券報告書に記載されなければならない役員報酬といえるかどうかである。取締役会も知らないどころか、決定権者の1人でもある西川代表取締役も知らなかった役員報酬など、この世に存在しないことは、これまた中学生にでも理解できることである。
ゴーンら2名の被疑事実は役員報酬に関する同罪であり、しかも全取締役の報酬に関する虚偽記載ではなく、ゴーン1人の役員報酬についての虚偽記載である。
令状主義の形骸化―法治主義の不存在
捜査機関が被疑者を身柄拘束するためには裁判官の発布した逮捕状が必要である。この裁判官の発布した令状の存在を理由に検察は逮捕の正当性を主張する。しかし、ゴーンらの逮捕には上述のように中学生にでも理解できる重大な法的瑕疵がある。
今回の事件の法的手続きには裁判官や検察官を同期の桜・法曹仲間の先輩後輩として忖度する必要のない外国弁護士も参加する。検察官や裁判官が従来通りの国内事件として対応すれば、日本の法治主義の後進性が世界中に知れ渡り、国民の恥となるだろう。
(つづく)
<プロフィール>
青沼 隆郎(あおぬま・たかお)
福岡県大牟田市出身。東京大学法学士。長年、医療機関で法務責任者を務め、数多くの医療訴訟を経験。医療関連の法務業務を受託する小六研究所の代表を務める。関連記事
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