2024年12月29日( 日 )

流通からみる「働き方改革」 100年に一度の環境変化にどう対応すべきか(中)

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ドイツという構造

 ヨーロッパのなかでもドイツは何かと我が国と似ているとされる国である。そんなドイツの勤労者の年間休日は150日を超える。しかし、その労働生産性は我が国の1.5倍である。労働分配率を高くするには生産額を高くして労働時間を短くすれば良い。単に労働時間を短くするだけでは生産性は上がらない。

 先述したように、日本人は「二宮金次郎的に頑張る民族」だ。その評価は生産性より“頑張り”の方に向けられがちだ。人の2倍の時間をかけ仕事をして、1.5倍の成果を上げれば「良く頑張った」と評価される。加えて、それにかけた時間給が人並なら(サービス残業がまさにこれに当たる)ドイツでは逆にそれは評価されないというこれはもう絶対の評価だ。

 休日も休まず、朝早くから夜遅くまで働く。そこには時間をかけても仕上げれば評価されるという油断が生じる。この雰囲気が職場に充満すれば、生産性は上がらない。結果として、我が国の時間あたりの労働生産性はG7のなかで最低、OECD加盟35カ国で見てもランクは20位(2017年)、生産性はアメリカの3分の2でしかない。

 「時間のあるなし」というのは人間の行動に大きな影響を与える。たとえば、電車の時間に間に合わないという時には走る。時間がなければないほど速く走る。逆に十分に時間的余裕がある場合はゆっくり歩く。ゆっくりは時間の無駄遣いでもあるが、とくに仕事の場合は何の意味ももたないとドイツ人は考える。“無駄な時間”は仕事以外に振り向ける。それは人生の“余裕時間”としていろいろな価値を人生にもたらすからである。

 このようなドイツ人にとって休日は絶対的価値をもつ。1日の労働時間が最長10時間と決められているのに加えて、年間休日150日である。であるからドイツでは仕事のやり方を十分考えて組み立てなければ思うような成果が得られない。

 ドイツ人が物事に対して極めて厳格で徹底した態度で取り組む気質をもつのはご存じの通りだ。決めたことは守る。「ま、いいか…」のファジー・曖昧で済ます大和民族との違いがここにある。いつぞやドイツで暮らした知人が象徴的なことを言っていた。日本人は工作対象物に合わない工具でも器用に使いながら作業するが、ドイツ人は工具をそれに合うように改善して作業にかかる。手先の器用さに頼ることなく、徹底して仕事の効率を追求するということだ。マイスターの国と職人の国という一見に通ったイメージの両国だが、その中身は思うより大きい。

 ドイツ人は日本人と同じように整理整頓が大好きだ。コンピューターが登場する前のドイツのオフィスは規格化された事務、文具で書類が見事に保管管理されていたと聞く。そうしていれば誰でもいつでも自分の仕事だけでなく、他人がつくった関連資料にもアクセスできる。仕事とデータが個人にそれぞれのやり方でストックされていた我が国と大きな違いだ。このやり方は現在も基本的には変わらないはずだ。そんな無駄の省略と物事の徹底管理が我が国の1.5倍の労働生産性を生んでいるのだろう。

 加えて国家的システムといういわばがんじがらめの管理体制だ。個人、(労組)、関連組織、政府といったコントロール機能が企業活動全体に張りめぐらされている。EUのなかで異質の経済安定を手にしているのは先の大戦後、社会全体が一貫して個人の権利に目を向けた働き方改革を続けた結果なのだろう。

 その反面、サービスという付加価値?に関して彼らは無頓着だ。たとえばドイツでは大部分の小売業が日曜日には営業しない。レストランの接客も日本とは質が違う。彼らにサービスというフリルは必要ないのだ。スーパーのアルディやリドルはその典型だ。何よりも合理的に「安さ第一」が売りだ。売り場の写真撮影を例にとると以前は結構厳しかったアメリカの小売店だが、今ではSNSの影響もあって各社そんなに厳しくない。しかし、アメリカのアルディでは店内撮影をしようとすると厳しく制止される。客でないなら出て行けともいう。こんなアメリカ人社員の対応も極めてドイツ式だ。海外でも自国のやり方をまったく変えない。それがドイツだ。良し悪しは別として、その徹底度は半端ではない。

働き者が評価される国にも押し寄せる変革

 2019年4月から、5日間の有給休暇の取得が義務づけられた我が国だが、世界最大の旅行予約サイトのエクスペディア日本語サイトの(エクスペディア・ジャパン)によるとこの3年間の有給休暇取得率は、調査19カ国のなかで最下位だという。ちなみにドイツやスペイン、フランス、ブラジル、タイは100%。長時間労働で有名な韓国でも有給休暇取得率は日本より高い。我が国では今でも給与付きで休むことは権利ではなく、恥ずべきことなのかもしれない。しかし、それとは別に人手不足が休みを取りにくくしている例も少なくない。

 変化に対してはどちらかというと待ちの姿勢が強い我が国の国民性だが、“背に腹はかえられなくなる”と一斉に同じ行動をとるという特徴も併せもつ。石油がなければ松根油、兵器がなければ人間をそれに代える。切羽詰まれば何でもありだ。その切羽詰まる状況がすでに訪れている。

 08年の1億2,808万人をピークに我が国の人口は減少に転じた。国立社会保障・人口問題研究所の推計では30年後には1億人を割り込む。さらに人口減少だけでなく、高齢化と少子化が同時に進む【グラフ】。

 完全失業率は7年連続で低下し続けて2.8%、有効求人倍率は1.5倍である。今は高齢者雇用や定年の変更などで何とか対応しているがそれでも採用枠が満たせないため、設備投資を手控える製造業や休業日を増やす小売業などが相次いでいる。このような状況を踏まえてか先の国会で外国人受け入れに関する法律 出入国管理および難民認定法が改正された。今後5年間で34万5.000人の受け入れを見込む。まさにこれはタブー破りだ。今後、我が国はドイツやアメリカが抱えるような移民問題に遭遇することになる。しかし、それがわかっていても法律を変えてでも現実対応しなければならない状況まできてしまっているということだ。

【神戸 彲】

(つづく)

<プロフィール>
神戸 彲(かんべ・みずち)

1947年、宮崎県生まれ。74年寿屋入社、えじまや社長、ハロー専務などを経て、2003年ハローデイに入社。取締役、常務を経て、09年に同社を退社。10年1月に(株)ハイマートの顧問に就任し、同5月に代表取締役社長に就任。流通コンサルタント業「スーパーマーケットプランニング未来」の代表を経て、現在は流通アナリスト。

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