2024年11月24日( 日 )

安倍政権のサンゴ移植フェイク発言~怠慢司会者の罪「ボーっと仕事してんじゃねーよ!」

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ボーっと生きてんじゃねーよ!

 NHK人気バラエティー番組「チコちゃんに叱られる」の決め台詞で、「ボーっと生きてんじゃねーよ!」と一喝されそうなのが、1月6日放送のNHK日曜討論の司会者を務めた伊藤雅之・解説副委員長と牛田茉友アナだ。新年最初の日曜討論で安倍首相は辺野古問題について約2分半も話し続け、大嘘のサンゴ移植や絵空事の普天間基地危険性除去を並べ立てたのに、「事実誤認ではないか」といった質問さえしなかったのだ。

 安倍首相の嘘を交えた政治的宣伝(プロパガンダ)を聞き流した“官邸広報官”のような司会者2人の職務怠慢の結果、「報道は事実を曲げないですること」などを定めた放送法違反の安倍首相サンゴ移植フェイク発言(ニュース)が、公共の電波を使って全国の視聴者に発信されてしまった。

 まさに、7,000億円を超えるNHK受信料を支払う国民への背信行為ではないか。翁長雄志前知事が病床から指示した埋立承認撤回の最大の理由である「軟弱地盤問題」を安倍首相にぶつければ、普天間基地の危険性除去が実現困難であることに加え、環境保全(負荷抑制)姿勢との矛盾も明らかになったはずだ。それなのに事実に基づかない支離滅裂な一方的説明をそのままタレ流して事足り、国民に誤ったイメージを与える印象操作に加担してしまった。

取材成果を番組に反映しなかった『日曜討論』

玉城知事が訪米した際、
アメリカ政府との面談=沖縄県提供

 「皆さまのNHK」は、視聴者から集めた受信料で辺野古問題を取材してきたNHK沖縄放送局の成果を番組に反映せず、有効活用しなかったともいえる。

 翁長前知事から後継指名を受けて沖縄県知事選で圧勝した玉城デニー知事は昨年11月11日から訪米、アメリカ政府(国務省と国防総省)に対して埋立承認撤回の理由となった軟弱地盤問題について説明し、「辺野古が唯一という

限り、デッドロック(行き詰まり状態)になる」という警告を発したことを記者団に語っていた。

 訪米を総括するワシントンでの囲み取材では、NHK沖縄放送局のクルーも一緒に聞いていた。訪米同行取材をした記者なら、「世界一危険な普天間飛行場の危険性除去」を錦の御旗にする安倍首相に対して、玉城知事が強調した「軟弱地盤問題」をぶつけたに違いないのだ。つまり、こうだ。

 「米軍の使用に耐える代替施設完成で危険性除去をするには、新基地予定地の軟弱地盤の大規模な地盤改良工事が必要だが、周辺の貴重なサンゴ群落への悪影響が懸念され、玉城知事は認めない方針だ。この軟弱地盤問題をどうクリアするのか。土砂投入を正当化する『危険性除去』は、実現困難な絵空事ではないか。環境負荷が大きい地盤改良工事を行えば、総理が言う『環境負荷抑制』と矛盾するのではないか」

 もちろん、沖縄放送局の担当記者が番組に出演することが困難でも、事前に伊藤氏や牛田氏が担当記者の話を聞いたうえで安倍首相に質問することは

米政府と面談後の囲み取材では、
軟弱地盤問題を説明したと記者団に報告

可能だ。そうすれば、土砂投入エリアのサンゴ移植発言が事実誤認であることも、危険性除去が矛盾満載の絵空事であることも明らかにできたはずなのだ。

 しかし2人の司会者は、現地取材をしてきた記者なら当然する質問をしなかった。辺野古問題の基礎知識なしで収録に臨んだのか、あるいは安倍首相の大嘘や矛盾に気がつきながら疑問呈示しなかったのかは不明だが、どちらにしても報道機関の司会者として失格であるのは明らかだ。チコちゃんなら「ボーっと仕事してんじゃねーよ!」と怒鳴りつけたに違いない。

 また、事実歪曲の放送法違反番組をタレ流した責任も当然、問われることになるだろう。担当記者から得た基礎知識を基に質問をしていれば、安倍首相発言を聞いた時の視聴者の受け止め方が大きく違っていたのは確実であるからだ。

瓦解する「危険性除去」の錦の御旗――安倍首相の虚構を琉球新報編集局長が論破

 フェイクニュース検証に取り組む『琉球新報』の普久原均編集局長は、土砂投入についてこう話す。

投入土砂が陸揚げされている大浦湾の護
岸(桟橋)。埋立面積の3分の2を占める
大浦湾側で埋立工事は始まっていない。

 「今回、土砂投入を開始した埋め立てエリアの面積は全体の4%にすぎません。しかも工事が比較的容易な辺野古側から埋め立てを始めた。もう片方の大浦湾側は、マヨネーズにも例えられるほどの軟弱地盤なため大規模な地盤改良(強化)を行うことが不可欠で、知事が承認する設計変更が必要ですが、玉城知事は認めない考えです。したがって途中で工事が行き詰ることは目に見えている。難工事でない地区から土砂投入を始めて県民のあきらめを誘い、4年後の県知事選で設計変更を認める知事を誕生させるというのが前提なのです」

 新基地建設予定地は、米軍基地「キャンプ・シュワブ」が位置する岬を挟んで南側の「辺野古側」と北東側の「大浦湾側」にまたがり、両方を埋め立てないと普天間代替施設となる新基地は完成しない。しかし大浦湾側で軟弱地盤が見つかった。埋め立てには「ケーソン」と呼ばれるコンクリートの大きな箱を置いていき、その上に滑走路をつくることになるが、軟弱地盤の上には置くことができない。そのため、水深30mにある厚さ40mにもおよぶ軟弱地盤層を入れ替えて強固にする大規模な地盤改良工事なしには“欠陥基地”にしかならないのだ。

軟弱地盤の大規模な地盤改良で、死滅の危機が
迫るサンゴ群落を野党議員が視察(昨年12月)

 「安倍政権は『辺野古新基地完成には、設計変更を認める知事の誕生が不可欠』とわかっていたので、9月の沖縄県知事選で総力戦を展開しました。小泉進次郎氏を3回現地入りさせるなどして、何としても佐喜真淳・前宜野湾市長を当選させようとしたのです」(普久原氏)。

 『辺野古に基地はつくれない』(岩波書店)の共著者である元土木技術者の北上田毅氏も、新基地問題の集会(11月27日)で次のような説明をしていた。

 「工期の大幅な延長と巨額の費用をかけて地盤改良工事をすれば、技術的にはあるいはできるかも知れません。問題はその場所が貴重な自然が残っている大浦湾だということ。水深30mの海底から厚さ40mの軟弱地盤を地盤改良する。それこそ、ヘドロのように泥が周辺に拡散するわけですから、当初の環境影響評価の全面的なやり直しが必要と言わざるを得ない。技術的に可能かどうかだけではなくて、環境への影響が大きな問題なのです」

 いまやNHKは安倍首相のフェイク発言を受け売りし、放送法違反の政治的宣伝(プロパガンダ)による印象操作に加担する「官邸のNHK(現代版大本営)」に変貌したに等しい。自公政権は美しい辺野古の海をぶち壊す“国土破壊集団”と化し、その実態を粉飾する官邸とNHKが合作の「フェイクニュース」をタレ流し始めたとしか見えないのだ。

【横田 一/ジャーナリスト】

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