【注視せよ!山梨県知事選】自民総力戦で敗北した沖縄県知事選と酷似
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負けパターンでは? 問いかけに沈黙する菅官房長官
1月20日午後1時、JR中央線「山梨市駅」で降りて演説会場に向かおうとする菅義偉官房長官を直撃し、「菅さん、沖縄県知事選と同じパターンじゃないですか。負けるパターンに入っているのではないですか。(県知事選の構図が)『県民党』対『中央』で」と声をかけた。
しかし菅官房長官は無言のまま、ワゴン車に乗り込んだ。車外から「(沖縄県知事選と)同じパターンじゃないのですか、中央とのパイプを強調して」と叫んでも、菅官房長官は一言も発しないまま、スライド式のドアが閉まっていった。
「安倍政権の命運を握る」(自民党の堀内のり子衆院議員)という「山梨県知事選」(1月10日告示、1月27日投開票)が、自公推薦の佐喜真淳・前宜野湾市長が敗北した「沖縄県知事選」(2018年9月30日投開票)と酷似をしている。安倍晋三首相が自民党本部での仕事始めで「まず山梨で一勝」と幹部や職員に号令をかけたとされるが、実際に、菅官房長官や小泉進次郎氏、岸田文雄政調会長ら100人規模の与党国会議員が山梨入りしているのに、ラストサンデー(20日)を迎えても「横一線」と各紙が報道するなど、リードを奪い切れていない状態なのだ。
「中央」対「県民党」の構図で互角の闘い
政党の基礎票では、自公推薦候補の長崎幸太郎・元衆院議員(二階派)が、立憲民主党と国民民主党推薦の現職の後藤斎候補(元民主党衆院議員)を大差で上回るはずだが、「国(中央)対県民党(地方)」という構図になって保守層が分裂、ほぼ互角の勝負になっているというのだ。山梨県政ウォッチャーはこう話す。
「沖縄県知事選では、保革連携を呼びかけた翁長雄志前知事の支援組織『オール沖縄』が前面に出る一方、野党幹部が街宣車で候補と並ぶことは一度もない“ステルス作戦”に徹し、保守票の取り込み成功に貢献しました。同じように山梨県知事選で後藤陣営は野党第一党と第二党の幹部議員が現職候補と並ぶことは一度もなく、『県民党』『県民による県民のための政治』を掲げて『国家権力に負けるわけにはいかない』『山梨の良識を示そう』と訴えているのです」
「与野党激突」の構図なら自公推薦候補有利となるが、「国(中央)対県民党(地方)」の争いになっているので、安倍自民党が総力戦で臨んでも、ほぼ互角に渡り合えているというのだ。これを象徴する一例が、自民党県連相談役の宮島雅展・前甲府市長が代表発起人の「県政問題研究有志会」(保守系首長らを含む元市町村長43人が参加)の推薦を受けていることだ。「オール沖縄」と重なり合う「県民党」のキャッチフレーズが保革の壁を乗り越えた支持者結集につながっているのだ。
沖縄県知事選で3度も応援演説をした小泉氏も1月18日、甲府駅北口で街宣をしたが、その前には、非公開の創価学会婦人部向けの会合が設定されたという。頼りになる“実働部隊”への働き掛けをした小泉氏は、続いて街宣車の上でマイクを握り、右隣に立つ長崎氏を対立融和の象徴のように褒め称えたが、左隣には骨肉の争いを続けてきた堀内衆院議員が立っていた。両者の間を取り持つ仲介人のような役割を買って出ていたかたちなのだ。
国政選挙対策に反発する県民~土建政治に後戻りの懸念も
実は、郵政選挙(2005年)以来、郵政民営化賛成の“刺客”として送り込まれた長崎氏と、民営化反対(造反)の堀内光雄・元労働大臣が義父の堀内のり子氏は山梨2区で熾烈な戦いを続けてきた。小泉氏が街宣車上で両者の対立融和をアピールしたものの、地元紙に堀内派県議が長崎氏への投票は困難とのコメントが掲載されるなど、積年のシコリは完全に消え去っているとは言い難い。
二階幹事長が1月になって極秘に現地入りしたのも対立解消に程遠い“証”といえる。選対には現職衆院議員である堀内派地方議員が多く、二階氏の現地入りの日程調整をのらりくらりと遅らせたようなのだという。
これに加えて、参院選選挙対策という自民党の都合を山梨県知事選にもち込んだことへの反発もあるという。3年前の参院選山梨選挙区(1人区)では野党統一候補で参院議員の宮沢由佳候補(現・参院議員)が自民系候補に勝利した。また2014年と2017年の衆院選でも自民党は、コスタリカ候補の宮川典子衆議院議員と中谷真一衆議院議員が山梨1区で現中島克仁衆議院議員(後藤氏の選対本部長)に敗北している。そこで自民党県連は今夏の参院選での連敗を避けるために、「落選中の長崎氏が県知事ポストに横滑りすることで山梨2区での堀内氏と長崎氏の長年の戦いに終止符を打ち、両派が一枚岩になって参院選に勝利しよう」という選挙対策の意味合いも有しているのだ。
その結果、「山梨県のリーダーを決めるべき県知事選が、自民党の国政選挙対策として利用されているのではないか」という疑念や不信感が、中央から大挙して駆け付ける“与党国会議員群”と重なり合って、「国家権力には屈しない」「山梨の良識を示そう」と訴える後藤候補支持につながっているというのだ。また、「土建政治が横行した金丸信の時代に先祖返りするのか」という古い政治への反発も、巨大戦艦のような自公推薦候補と横一線で競い合う一因になっているという。
「二階幹事長をはじめとする自民党が山梨県知事選で総力戦を展開するのは、リニア中央新幹線や高速道路などの大規模事業ラッシュの土建利権を手にしようとする狙いがあるのは明らかです。それで、『金丸信時代の古き土建政治に逆戻りしてしまうのではないか』という懸念が生まれているようです。『国(中央)対県民党』の闘いでもあると同時に『国とのパイプを強調した利益誘導型の土建利権政治イエスかノーか』も争点になっている。実際、県内に事務所をもつゼネコンは、長崎候補支援者名簿集めに動いています」(山梨県政ウォッチャー)。
統一地方選や参院選の前哨戦~ネット上の選挙戦も過熱
20日の菅官房長官の演説会(山梨市と笛吹市)も、国と県の連携を訴える内容。安倍政権の実績として有効求人倍率増加や訪日外国人観光客増加などをアピールした後、後藤県政で企業誘致がほとんど進まなかったと批判した上、「リニア新幹線の駅が8年後には山梨に止まるようになった」ということを紹介、中央と山梨の連携こそ重要、そのためには長崎氏が適任と強調したのだ。会場内の聴衆はこの時、事前に配られていた「停滞から前進へ」と書かれた小旗を一斉に振って、菅官房長官の演説に呼応した。
しかし、菅官房長官は2つの集会場の最寄駅の「山梨市駅」と「石和温泉駅」(笛吹市)に特急あずさが停車しなくなる問題には触れなかった。特急停車本数減少は、石和温泉の観光客減を招くなど地元にとって死活問題だ。そのため、菅官房長官の2つの演説会場には「絶対反対」ののぼりが立っていた。それなのに菅官房長官は、安倍政権が巨額融資を決めたリニア中央新幹線の甲府駅設置を語るだけで、地域経済の緊急課題を無視したのだ。「安倍政権は地域重視だ。山梨県民の絶対反対の訴えを無視するJRに対しては、リニアへの巨額融資撤回も示唆しながら特急本数減少撤回について交渉する」といった演説を期待した山梨県民の予想は外れたのだ。
一方の後藤陣営は20日の大月での集会で、「500人宿泊の東横インの建設が決まった」と企業誘致実績を報告して長崎陣営の批判に対抗しながら、「『週刊新潮 長崎幸太郎』で検索すると長崎候補の女性観がわかる」と過去の週刊新潮の女性問題の記事を見ることを勧める一方、後藤県政下では初めて女性副知事が誕生するなど女性登用が進んで、かつ保育園問題も解決に向かっているという実績もアピールした。集会場に立てかけられた「継続は力」というのぼりと連動するものだった。
沖縄県知事選と同様、ネット上でも選挙戦は激しさを増している。後藤県政を批判する怪文書が多く出回り、週刊新潮の記事は事実無根と反論する書き込みも出てきた。終盤戦に入り両陣営のSNS発信も目立つようになってきたという。統一地方選や参院選の前哨戦とされる「山梨県知事選」の結果が注目される。
【横田 一/ジャーナリスト】
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