2024年11月21日( 木 )

創造的破壊という積極対応(2)

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規模拡大は止まらない

 今、業種に関係なく続いているのが「規模拡大」競争だ。化学、薬品、金融、情報・通信と世界中のあらゆる企業が自己拡大とM&Aによる規模拡大の歩みを止めない。もちろん、小売業も例外ではない。そして今、業態の枠を超えた規模拡大も始まっている。年間売上高50兆円を超える世界最大の小売企業ウォルマートも、その牙城を狙うアマゾンも小売の枠を超えた物流やシステムの拡充のためのM&Aを積極的に行い、小売との相乗で新しいかたちの企業への道を歩んでいる。彼らの成長過程で家電大手のラジオシャックや書籍のボーダーズ、近いところではトイザラスやシアーズ・ホールディングスなど多くの同業小売が姿を消している。

 我が国でもイオンが同じような成長の過程で多くの同業を飲み込んだ。さらに小売に加えてデベロッパーや金融、小売以外のサービスに食指を伸ばしながらM&Aと併せて、東南アジアへのシフトを図って久しい。欧米ではすでに限られた小売業の寡占が進んでしまっている。

 現在、我が国の大手5社の食品市場シェアは30%だが、アメリカでは45%、英仏のそれは70%前後にも達している。我が国の小売業界は少子、高齢化、人口減に加えてEコマースの伸長もあり、過当競争がますます加速する。その結果、欧米並みの大手シェアの伸長が予測される。

 この10年のアメリカ無店舗小売業(ノンストア)の年間売上は毎年、2ケタの伸びで、今や全米小売業の10%ほどを占めるところまできた。我が国のEコマースも2007~17年の間に16兆円と当初の2倍に拡大している。

 【表】はチェーンストア協会と百貨店協会の資料を基にした1987年と2017年の我が国小売業の売上比較である。企業規模の拡大だけでなく、総合小売業に代って大きく売上を伸ばした専門業態が顔を出している。環境を味方にした業態は急激にシェアを伸ばし、環境に対応できなかった業態はその姿を消した。

【表】1987年と2017年の我が国小売業の売上比較

喫緊の課題

 我が国の人口はすでに08年の1億2,808万人をピークに減少を始めた。昨年の推計は1億2,680万人。この10年足らずで1%の減少である。国立社会保障・人口問題研究所の予測では今後30年で2,000万人以上の人口減に見舞われるという。高齢化も急伸し、遠くない将来、人口の半分を65歳以上が占める県も出てくる。現在の2倍の高齢化率である。人口減少が市場の縮小につながるのはいうまでもないが、高齢化も食品小売業にとって大きな問題である。

 現在では夫婦と子ども2人という政府が示す標準世帯はもはや標準ではなくなった。5,333万世帯中、その35%が単身世帯だからだ。その単身世帯はどちらかというと家庭で調理をしない傾向が強い。“手間ひま”とコストを考えると外部依存をした方が効率的だからだ。高齢化が進む夫婦2人世帯も同じだ。スーパーマーケット(SM)で食材を調達するとしても、今後はメニュー材料を買いそろえるより、ミールキットなどの簡便性の高い商品を選ぶようになるはずだ。そんな市場縮小のなか、今でも過剰感のあるSMはさらにそれが顕著になる。過剰な店舗数は坪あたりの売上の低下を招き、それは高い経費率にもつながる。高い経費率を補うには高い粗利益が必要だ。早い話が安く売れなくなる。

(つづく)

【神戸 彲】

<プロフィール>
神戸 彲(かんべ・みずち)

1947年、宮崎県生まれ。74年寿屋入社、えじまや社長、ハロー専務などを経て、2003年ハローデイに入社。取締役、常務を経て、09年に同社を退社。10年1月に(株)ハイマートの顧問に就任し、同5月に代表取締役社長に就任。流通コンサルタント業「スーパーマーケットプランニング未来」の代表を経て、現在は流通アナリスト。

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