【特別レポート】黒く塗りつぶされる島~逮捕者2人、死者1人を出したメガソーラー事業で揺れる宇久島(2)
-
佐世保市沖に浮かぶ小島、宇久島。壇ノ浦の闘いに敗れた平家盛(平清盛の弟)が落ち延びたという平家伝説の地に2014年6月、大規模な太陽光発電(メガソーラー)事業計画が発表された。しかし、いっこうに進まない計画をめぐって市議が贈賄事件で逮捕され、昨年は事業担当者が島で亡くなったうえに同僚が傷害致死罪で逮捕されるという異例の展開をみせている。さらに取材の過程でわかったのは、島をほとんど覆いつくすパネルの群れが生み出す「海上の黒い要塞」の異様さだ。島民もほとんど知らされていないというメガソーラー事業の全容に迫った。
既報(1)
パリ協定と固定価格買取制度
2016年ごろ、フォトボルト社を含め、米国や中国、スペインの企業が日本でのメガソーラー事業に参入する事例が相次いでいた。この背景には、国がエネルギー(電気)の買取価格を決める制度(固定価格買い取り制度/FIT)が2012年7月に始まったことがある。
2015年12月にフランスで開催された気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)において、地球温暖化防止の国際的枠組み「パリ協定」が採択され、国際社会は本格的に脱炭素社会へと舵を切った。パリ協定は、今世紀後半までに世界の温室効果ガス排出量を実質ゼロにすることを目指して各国に数値目標を課した取り決めで、各国のエネルギー政策に根本的な転換を迫る、本格的で実効的な内容だった。日本も同協定で2030年までに温室効果ガス排出量を26%削減(2013年比)することが求められており、国内の再生可能エネルギー事業へのテコ入れが急がれることとなった。
しかし、各地域の電力会社が発電設備や送電網などのインフラを独占する日本国内において、再生エネルギーへの転換は遅々として進まなかったため、国は2012年に固定買取制度を導入。電気の買取価格を諸外国と比べて高く設定したため、特に太陽光発電の伸びを著しく引き上げることとなり、その結果、買取期間の20年間は高い利益率が保証されることに目を付けた外資メガソーラーデベロッパーの参入が相次ぐ事態となったのだ。
もっとも、高額な買取価格に群がった外資の思惑ほど太陽光発電事業が順風満帆というわけでもない。太陽光発電は、シリコン半導体などに光が当たると電気が発生する現象を利用した発電システムで、太陽の光エネルギーを直接、電気エネルギーに変換するもの。したがって天候に恵まれた土地である条件を満たす広大な用地取得手続きの煩雑さなどに加え、たとえば農地を転用する場合の許認可の複雑さなどで、予定された着工時期が大幅に遅れるケースが目立っている。
フォトボルト社の案件でいえば、2016年に発表された秋田県由利本荘市のゴルフ場跡地を転用した「由利本荘市ソーラーパーク」が昨年12月に稼働したほかは、着工自体がはっきりと確認されていない状況だ。青森県横浜町で進行中のメガソーラー事業(総出力50万kW)については、2016年12月に、送電に必要な負担金が700億円に膨らむことがわかり、事業自体の存続が危ぶまれている。
宇久島のメガソーラー事業についても、太陽光パネルの設置予定地の地権者を特定するのに時間がかかり、2年近く事業が「塩漬け」の状態が続いていた。予定地の権利状況が判明しない土地が多く、地権者を近隣住民からの聞き取り調査などでなんとか割り出すケースもあり、さらに島外に住む地権者が多かったこともあって事業は当初の想定以上に難航していた。
2016年には、さらに追い打ちをかける事件が起こった。メガソーラー事業に関連して佐世保市長に現金100万円を渡そうとしたとして、大岩博文・佐世保市議が2月17日に逮捕されたのだ(同年5月12日に懲役1年、執行猶予3年の判決が言い渡されている)。大岩元市議はメガソーラー事業の関連会社社長から個人献金を受けていたことも判明しており、大岩元市議自身もメガソーラー事業準備会社の社員とともに事業実現に向けて尽力していたことがわかっている。逮捕された際には「メガソーラー事業が頓挫すると困る」などと話していたとされ、遅々として進まない事業に対する焦りが事件の動機となった可能性が高い。
事業の遅れや大岩元市議の逮捕などと関係があるのかは不明だが、京セラは2018年1月24日に「長崎県佐世保市宇久島での太陽光発電事業の検討に関する進捗」とするニュースリリースを出し、事業の権利がフォトボルト社から、新たに設立した発電事業のSPC「宇久島みらいエネルギーホールディングス合同会社」に移ったことを発表した。事業スキームでは、投資額を500億円増の2,000億円に修正したほか、当初2015年度着工予定としていた計画を「2018年度着工予定」に変更している。発電能力は当初予定から50MW増の480MWまで膨らんだ。
事業参加企業からは、2014年に事業が発表された当時に参加していたフォトボルト社とオリックスが離脱し、新たにSPCG Public Company Limited(本社:タイ、太陽光発電事業)、東京センチュリー(株)(本社:東京都千代田区、リース大手)、古河電気工業(株)(本社:東京都千代田区、電線など非鉄金属メーカー)、坪井工業(株)(本社:東京都中央区、中堅ゼネコン)、(株)十八銀行(本店:長崎市)の5社が加わった計8社で事業を継続することを明らかにしている。
しかし、京セラが事業のリスタートを宣言してから約8カ月後の同年9月には、太陽光事業で宇久島に派遣されていた九電工社員(宇久島メガソーラー事業化準備室部長)が亡くなり、同僚だった男が傷害致死容疑で逮捕される事件が起きるなど、想定外のトラブル続きで事業の先行きが不透明となっている。今年1月時点で現地事務所に常駐する職員はおらず、2019年4月の着工(パネルと送電線の設置工事)予定日までに間に合うのかめどが立たない状態だ。
大岩元市議が強引な贈賄事件に手を染めたのは、国の電気買取制度が「期限」を定めていることと無関係ではない。事業をいつまでも塩漬け状態にすることができないのだ。
経済産業省は昨年10月15日の審議会で、2012~14年度中にFIT認定を得ていながら稼働していない太陽光発電事業を対象に、2019年3月末(2018年度内)までに系統連系工事(電力会社の電力系統に発電設備を接続すること)の着工申し込みが受領されていない案件について、買取価格を引き下げる方針を打ち出している。宇久島メガソーラーの案件でいえば、フォトボルト社が1kWhあたり40円の売電権利をもっているため、現状ではこの「破格の値段」で20年にわたって電力会社が買い取ることになっているが、着工期限を超過した場合には2018年度時点の買取価格である18円などに見直すことになる。フォトボルト社はすでに売電権を売却して撤退しているために「売り逃げ」たかたちだ。
具体的な事業化を担う国内企業にしてみれば期限内の着工はまさに死活問題といえる。関係者によると、宇久島メガソーラー事業はすでに九州電力側に系統連系工事の着工申し込みを済ませているとみられるが、これはフォトボルト社の発表(2015年11月)が根拠になっている可能性が高く、九州電力自体はいまだ態度を明確にしていない。
(つづく)
【特別取材班】〈連載3回目では、メガソーラー事業で「黒く塗りつぶされる」島の衝撃的画像を掲載する〉
関連記事
2024年12月20日 09:452024年12月19日 13:002024年12月16日 13:002024年12月4日 12:302024年11月27日 11:302024年11月26日 15:302024年12月13日 18:30
最近の人気記事
まちかど風景
- 優良企業を集めた求人サイト
-
Premium Search 求人を探す