【統合医療の現状と課題】「病院完結型」医療から「地域完結型」医療へ CAMは予防医療の分野でも重要な役割を担う(前)
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薬物治療では完治できない慢性疾患に対し、西洋医学に代わるものとして補完・代替医療(CAM)を取り入れた統合医療が注目されている。西洋医学は、病気を敵とみなし、病原微生物を叩く、がんを切り取るなどが得意で、それなりに成功を収めてきたが、その反面、敵ではない生活習慣病、敵がわからない原因不明の疾患、さらには精神的な要素が関与する疾患などについては、最近話題のiPS細胞を用いても治癒せしめることができない状況にある。また、西洋医学はもともと分析科学的な手法を用いて、病気の病態解明とそれにともなう治療法の開発という過程を経ることに重点を置いているため、病人よりも病気の方に焦点が当てられるという欠点がある。また、統合医療は治療だけではなく、予防医療においても重要な役割を担う。ここでは、免疫療法を中心に統合医療の現状と課題、今後の可能性を探った。
新たなコンソーシアムの創生が必要
我が国は超高齢社会の到来とともに、疾病のほとんどが、がんを始めとする生活習慣病であり、それらの病態は身体的、心理的、環境的、社会的な要因が相互に関連する“複雑系”の病態と指摘できる。こうした状況下で、生活習慣病に対して対症療法が主体の近代西洋医学による現行の医療だけでは自ずと限界があり、新たな医療体系の構築が必要となる。つまり、キュア(cure)を目指した、20世紀の「病院完結型」医療から、ケア(care)を目指す、21世紀の「地域完結型」医療へのパラダイムシフトだ。
そこで、現行の医療と補完代替医療(CAM)を有機的に融合させた統合医療がこれからの医療の方向性を示す1つの医療体系だと考えられているのだ。今後深刻な問題となる高齢者医療(メタボリック症候群、ロコモティブ症候群、認知症など)や、心身ともにアプローチが必要な大規模災害後の後遺障害などは、医療保険の枠組みで行われている現行の医療では十分に対処できない領域であり、これらがまさに統合医療に求められるところといえるだろう。
昨年11月に(一社)日本統合医療学会の新理事長に就任した伊藤壽記氏((公財)大阪府保険医療財団大阪がん循環器予防センター所長)は、統合医療には2つのモデルがあると指摘する。1つは医療従事者が中心の集学的チーム体制で疾病に対応する医療モデル。もう1つは地域のコミュニティが主体となってQOLの向上を目的とした社会モデル。これらが相互に連携した新たなコンソーシアムの創生が必要となるとして、「政府が推進する地域包括ケアにおいても統合医療が重要な位置付けになる」と述べている。そして、持続可能な健康長寿社会を実現させるためとして伊藤理事長は、「欧米の統合医療的アプローチをそのまま継承するのではなく、我が国の風土に合った日本型の統合医療を開発し、推進していくことが求められる」との持論を展開する。
免疫療法は脇役的存在から主役級に
統合医療で最も注目されている治療分野は「免疫療法」だろう。日本ではがん死亡率・罹患率が上昇を続けているのに、米国のがん死亡率・罹患率は低下し続けている。この日米の差は、両国での統合医療に対する考え方の差が如実に現れた結果だと考えられている。米国では、1992年に国立衛生研究所(NIH)内に設立された国立補完代替医療センターに、政府が毎年約120〜160億円の予算を割り当て、統合医療の推進を強くバックアップしている。また、米国の125医学校中、82校(66%)で統合医療が講義されている。全米ベスト1位のがん病院、MDアンダーソンがんセンターと、2位のスローン・ケタリング記念がんセンター、第3位のジョンズ・ホプキンス病院では、専門の統合医療研究センターが設けられ統合医療を実践している。
このように、米国では90年以降、免疫活性に焦点を当てた統合医療への取り組みが、がんの死亡率・罹患率の低下につながっている。このことは免疫力を高めるCAMを既存の標準治療に加えることで、がん治療の治療成績が高まることを示している。また、本庶佑氏のノーベル賞受賞で注目された「オプジーボ」などの免疫チェックポイント阻害剤の登場で、がん治療における免疫療法の役割がこれまでの脇役的存在から主役級に変わろうとしているのだ。
(つづく)
【取材・文・構成:吉村 敏】関連記事
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