2024年11月24日( 日 )

【スクープ】金融機関に「夫の生命保険を奪われた」~預金が「溶けていく」謎を追う/鹿児島3金融機関との闘い(3)

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鹿児島県内の3つの金融機関で、預金記録が不正に操作されていた疑いが浮上している。被害を訴えた女性はすでに10年以上前から、3金融機関と法廷で闘っている。

■印鑑証明なしで借入することは可能か

 裁判では、通常の手続きとして借入を申し込む際には印鑑証明を添付し、本人が目の前でサインして押印して融資が成立することなどの説明もなされた。しかし、これだけ頻繁に借入を繰り返している形跡があるにも関わらず、銀行側の主張は金融法の説明に終始し、Aさんの印鑑証明書を1枚も証拠として提出しなかった。

 「年数が経過したため証拠となるものがみつからない」――それが銀行側の主張だとすれば、とんでもない話だ。Aさんが借入をしたとされる当時、Aさんは亡夫の保険金を受け取ったことで十分な現金を持っていたため、そもそも借入を起こす必要がなかったのだ。しかも借入の返済は問題の定期預金(連載1回2回参照)で行われており、どんどん減少する預金残高を不審に思ったAさんが銀行を問い詰めて、初めて借入申込書が出てきたという不自然さだ。

■時効直前に3金融機関を提訴「定期預金返還請求」

 最後に登場するのが3つ目の金融機関、鹿児島興業信用組合(以下、「こうしん」)だ。「こうしん」もAさんが保険金を受け取ったことを知って預金の勧誘に来たものの、状況を説明すると今度は融資を提案してきた。融資3000万円が1000万円ずつに分けられてAさんの定期預金口座に入ると、前の2金融機関と同様に手形貸付などが知らないところで実行され、Aさんの関知しない貸付金に対する返済が自動的に始まっていく。

 裁判では、裁判官が「こうしん」の職員に「なぜAさんの指示がないのに定期口座にしたのか」と尋ねると、行員は「(Aさんは)商売をしているので先々資金が必要になるから、自分の判断でやった」と答えている。

 Aさんの不運は続く。初めて裁判を起こしたのが、不可解な現象が始まってから15年近く経過した2010年だったのだ。提訴が遅れたのは、2002年~03年ごろに依頼した弁護士が約7年半もの長期間にわたって案件を放置していたためだ。

 別の弁護士に依頼してAさんは時効の2カ月前の2010年5月に3金融機関を相手取って民事訴訟を起こした。「定期預金返還請求」――裁判はいずれも高裁まで行ったが、証拠不十分ですべて敗訴した。筆跡は別人と認められたものの、裁判冒頭から「印鑑については争わない」ことになっており、借入申込みの際の印鑑証明の提出さえ、銀行側は求められなかった。最高裁まで戦うことも考えたが、「状況を覆す証言や証拠が新たに出てこない限り、最高裁では戦えない」と弁護士は判断した。

 どうしても納得いかないAさんは別の弁護士に依頼。再審請求のため、書類を裁判所に提出しようとしていた矢先に判明したのが、「そうしん」の巨額不正事件(2017年)だった。「そうしん」は不正を公表し、膿を出し切ったとしているが、「すべてではない。信金や興業信用組合もそれをひた隠しにしている」とAさんは訴える。

 3つの金融機関にAさんとの過去の取引について質問状を送付したが、回答があったのは鹿児島信用金庫のみ。しかも「個人情報にあたるので、コメントを差し控える」という事実上の取材拒否だった。他の2金融機関からは回答さえなかった。

(つづく)
【東城 洋平】

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