私的リーダー論(後)
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大さんのシニアリポート第78回
各部署は担当者に任せ、責任の範囲を明確に線引きする
スタッフの「やる気」を引き出すには、担当部署を決め責任者に一任することである。「ぐるり」の場合はカラオケ担当、映画担当(現在は存在しない)、接客担当、その他(担当は私であらゆることをする)の4つ。担当部署と責任者を決めると、不思議なことに積極的にさまざまなアイデアを出し、適確に実行に移した。担当者の思い込みや若干の暴走もみられる。もちろんアドバイスはするし、不適切なことは指摘する。定期的に(飲み会を兼ねた)打ち合わせを欠かさない。スタッフには部署の壁を越えて発言してもらう。最終的な責任はリーダーである私がすべて負う。
「『ぐるり』内で起きたことは私が対応し、責任を負う。『ぐるり』外で起きたことには責任を負わない」という線引きを明確に設けた。常連も毎日顔を合わせると、わがままが出てくる。一番多いのが、「自分の価値観を相手に強引に押しつける」ことである。人間80年も齢を重ねてくると、「自分の考えが一番正しい」と思い込む。相手も「自分の考えが一番」という猛者だから、これがぶつかると「口喧嘩」になる。私が仲裁に入り、事なきを得るが、コトはそう簡単に収束を迎えない。「ぐるり」の外でも言い争う。絶対に譲ることがない。
また、間に入る常連がこれまた一家言の持ち主で、自分の価値観を表に出して仲裁に入る。逆に「口喧嘩」を買ってしまう。よせばいいのに3人で飲み屋に出かけ痛飲。輪をかけて激論を戦わせ、店を追い出されたりする。なかには、カラオケスナックで相手をマイクで殴打。怪我を負わせたという笑えない〝事件″もある。
店で「『ぐるり』の常連客だ」という声があがっても、「ぐるり」外のことに関して当然私は責任を負わない。また、スタッフの、ありもしない噂を広げた常連には「出入禁止処分」とした。「みんな言っている」という常套句に、「みんなとは誰と誰だ」と反問した。2、3人の名前しかいえなかった。当然、私も彼に嫌われた。
カネとプライド
リーダー、というより組織の一員として最も大切にしなくてはならないことは、「カネとプライド」である。
私は出版社を辞し、フリーになってからも編集者という肩書きは、食うために棄てなかった。今から約40数年前、編集の仕事はいくらでもあった。『日本の祭り』というムック(mook)本(magazineとbookの合成語)の編集からデザインまですべてを請け負ったことがあった。日本全国にある祭りの写真を、アマチュアカメラマンから版権を買い取った。それもAクラス~Cクラスまで3段階に分け、クラスごとに3つの値段に統一した。苦情は皆無だった。一番気をつかったのは、「撮影者の名前を絶対に間違えないこと」(プライド)だ。「カネとプライド」を守るだけで、仕事上のトラブルは一件もなかった。
現在も、各種イベントのチラシや広報紙は、事前に関係者に校閲していただく。講演会などの講師には事前に出演料と条件を伝える。断られることはまずない。年に1回総会を開き、通帳を出席者全員に回覧する。
ほかに、協力いただいた方々には、きっちりとお返しをする。市長や県議、市議はできるだけ利用する。「ぐるり」立ちあげに際しては、市長(当時県議)の力をお借りした。私的な組織を動かすリーダーは常に孤独である。公的な機関に表だって認められることはほとんどない。
(了)
<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)
1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務ののち、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ二人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(近著・講談社)など。関連キーワード
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