2024年12月24日( 火 )

東京に進出して35年-行動してこそスタート地点に立てる~手島建築設計事務所(2)

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東京で仕事を始めたときは、行動あるのみだった

ホンダカーズ外観

 仕事のチャンスが多い大都会では、自分から行動する勇気が大切だと代表取締役会長・手島博士氏はいつも感じてきた。まずは自分で動かなければ、どんな結果になるかはわからない。動いてみた結果、成功するかもしれないし、失敗するかもしれない。だが、心のなかでやりたいことを考えているだけでは何も起こらず、行動してはじめてスタート地点に立てるからだ。

 また、東京で設計事務所の仕事を始めたとき、手島会長は気づいたことがあった。どんなに大きく見える組織でも、1人ひとりの人間が仕事をして組織を動かしているということだ。

 大きな組織を遠くから見ると、まるで巨大なクジラが海で泳いでいるように見えた。だが、近づいてみると、巨大なクジラに見えたものは小さなイワシの大群だった。巨大なクジラのかたちをしているのは、先頭を泳いでいる群れのリーダーがイワシの大群を動かしているからだった。

 どんな業界も行政も組織を動かしているのは"人"だと気づいてからは、大きな組織が相手でもチャンスに挑戦できるようになったと手島会長はいう。1つの大きなものを見ながら、その構造の本質を見抜く姿勢は、大規模な建物を設計しながら、その構造を見極めてきた建築士ならではのものだ。

いい仕事をすると行政と信頼関係ができる

 (株)手島建築設計事務所が東京に進出するきっかけとなった官公庁の設計の仕事は、建物をつくる工事をスタートしてから完成させるまでの期間が短く、スケジュール管理がとても厳しい。納期に遅れずにミスのない設計をして、完成後もクレームがない仕事をすることが公共施設の設計では欠かせないといわれている。

 手島建築設計事務所は、決まりごとが多く、堅実な姿勢が求められる行政の仕事にこれまで積極的に取り組んできた。そして、納期通りにミスがなくクレームの出ない仕事をすることで行政と信頼関係ができて、多くの仕事の依頼をもらうようになったという。行政は仕事の実績を積んでいくと、企業規模の大小にこだわらずに成果を評価するフェアな姿勢がある、と手島会長は感じている。

企業が思い描くイメージを具現化する商業施設

 ショールームやビルなどの商業施設は、企業が思い描いているイメージをかたちにした建物だ。たとえば商品の魅力を伝えるショールームは、建物のデザインや部屋のインテリアで商品がみせる顔は大きく変わる。ショールームで人が商品の華やかさや新しさを感じられるのは、流行の最先端の雰囲気をもつ空間があるからだ。見る人に商品の持ち味がうまく伝わるように、いまの時代の空気を感じられるデザインにしていると手島会長はいう。

 また、ビルを設計するときには、使いやすさや過ごしやすさという人の感覚を、デザインや構造や寸法という専門家ならではの物差しに変えて、建物のかたちにどこまで具体的に落とし込めるかが設計事務所としての腕の見せどころだ。また、建物の使いかたは企業によってさまざまなので、顧客へのヒアリングから使いかたにあった部屋の配置や間取り、インテリアなどを提案している。予算が限られているときでも、予算をかけるところにメリハリをつけていい建物ができるように工夫しているという。

建物を使ったときの感覚から、デザインが生まれる

 建物は人が使うものだ。だから、ふだんから建物を見て、建物を使ったときのその感覚から、手島建築設計事務所のデザインが生まれている。

 たとえば街を歩くときは、周りに建っているビルを見て、どんな建物が新しくつくられているか情報を集める。新しい建物のデザインからいまの時代のニーズを読み、建物のかたちを決めるときに世の中のニーズを取り入れるためだ。

 また、ビルのなかに入ったときは、使う人の気持ちになって部屋の間取りや使いやすさ、カラーコーディネートなどを見て、建物のインテリアをデザインするときのイメージを考えている。流行のデザインも本当に良いものかどうかは、使う人の立場になって実際に体験してみなければわからない。たとえば物入れなら、かたちや寸法が少し違うだけでモノをしまいやすくなるなど、建物は使ってみてはじめて長所も短所もわかることがあるからだ。街に暮らし、さまざまな建物で過ごすなかで、いい建物をつくる工夫を手島会長はいつも考えているのではないだろうか。

 完成した建物を目にするだけでは想像もつかないくらい、建物の設計はクリエイティブな仕事だ。たとえば、どの向きで、どの場所に建物をつくるか、どんなかたちの建物にするか、どの構造なら耐久性があるかなど、設計事務所が考えた数多くのアイデアの集まりから建物がつくられている。設計の仕事は、手間をかけていい建物をつくることにやりがいを感じるからこそできるものだ。外から完成した建物を見ても、ぱっと見ではわからない仕事が多くある。だからこそ、決して手を抜かない誠意ある姿勢が、建物の完成度を決めていると感じられる。

(つづく)
【取材・文・構成:石井 ゆかり】

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