九州企業の衰退・勃興 平成を振り返る(8)
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平成動乱の建設業界~昭和60年までは松本組を頂点に安定期が続く
昭和60年までは松本組を頂点とした秩序が形成され、福岡建設協力会所属のゼネコンたちが地元業界を牽引してきた。昭和60年までは福岡に完工高100億円の企業は存在せず(九州各地区には100億円を突破した企業は珍しくなかった)、松本組ですら年商80億円どまりであった。しかし都市福岡の発展は目覚ましく、新興勢力の台頭も目立ち、安寧秩序に楔が入りはじめた。台頭してきた企業として照栄建設、大高建設、前宮建設、上成建設などが挙げられる。
バブルを迎える前に最初に行きづまったのは上成建設であった。
東建設の100億円突破が同業者へ多大なるインパクトを与える
昭和61~62年にかけて東建設が完工高100億円を突破した。筆者は「ついにこの福岡に100億円を超えるゼネコンが誕生した」とレポートしたのだが、これが『思いのほかインパクトがあった』ことを後で知る。
当時、地元建設会社の常務だった友人が回顧する。「うちの社長から200億円の事業計画をたてろとはっぱをかけられた。東さんに抜かれたことが悔しくてたまらなかったのである」。結局のところ『150億円事業計画』で妥協。この会社は現在、抜群の財務内容を誇っている。
東建設は新たな受注ビジネスモデルを求めた。一時『造注』という標語でもてはやされた。わかりやすくいえば不動産開発と建設とをセットにして仕事をつくることである。同社は倒産寸前のころに福間町(現在の福津市)の広大な敷地に物流団地の開発を手がけようとしていた。工事高は莫大なものになる。負債額が600億円を超えたのは不動産仕込みの借入額が底上げしたのだ。
トミソー建設の負債が1,000億円に迫ったのは、まったく同様のビジネスを展開していたからである。この2社は平成初頭のバブル崩壊の影響により倒産した。
マンション受注主体のゼネコンが倒産
東建設と拮抗していたのが高木工務店で、ロワールマンションを一手に引き受けていた。この会社は倒産する必要が無かった。倒産した要因は関連会社の債務保証を引き受けたからである。銀行のいわれるままに法人連帯保証を断らなかったことが運命を狂わせた。橋詰工務店も同様の理由で倒産した。しかし現在、マンション・賃貸の集合住宅を主体に受注しているゼネコンで経営内容が抜群の企業も現れている。回収条件などの改善と単価が通るようになってきたことが要因であろう。
平成中盤に起こったリーマンショックが原因で倒産した高松組は、本来であれば潰れなくて済んでいた。銀行は支援するつもりでいたのだが、代表者があまりにも早く経営を投げだしてしまった。同社の倒産は話題を提供してくれた。同業者の工事保証である(金銭的な責任も発生)。高松組は倒産寸前に工事代金の先取り回収をしていた。だから、工事保証していた同業者は保証補てんを余儀なくされた。高木工務店・高松組共々、経営者がもう少し知恵をめぐらせば倒産することがなかったのである。
名門・九州建設(辻組として福岡の業界を引っ張ってきた歴史ある名門)が名古屋の業者に買収されていった例にみられるように、企業売却を選択する経営者たちが現れ出した。大分県のドン・さとうベネックの倒産は各方面にショックを与えた。だが同社には優秀な社員が数多くいた。彼らを採用したゼネコンからは「さとうベネックの元社員たちはしっかりした教育を受けていた」という称賛の声しか伝わってこない。
桁違いの財務内容の会社が続出
建設業界では長く暗い時代が続いた。業界で働く従業員数が激減して若手の新規求人が大幅に減った。建設インフラは寿命年数があり、いずれは建替え時期がやってくる。新規投資も増えた。そして何よりも、地震・水害による被害が頻発している。受注は急増、しかし、業界の施工力は人手不足によって大幅低下。そうなれば工事単価が騰貴する。
平成23~24年を境にして経営環境が好転し始めた。20年ぶりの我が世の春が訪れたのである。
だから上村建設のような財務力を誇る企業が現れだした。1年半前、同社とタマホームの企業価値の試算を行ったところ、非上場企業の上村建設が上回った。最近、タマホームの株価がもち直しているから互角である。その後に北洋建設、照栄建設が続く。無借金企業も増大している。いずれ建設バブルは弾ける。それを想定して、いつでも廃業できる準備を整えている。一族、孫まで飯を食えるだけの蓄積はある。
建設業者だけではない。業界を支える下請業者も密かに蓄えをしている。南区にある進興設備工業のように4年間売上ゼロでも、社員たちに給料を払えるまで実力をつけた企業もある。こうした特例はさておき、下請業界全体が潤いの渦中にあるのは確かである。この潤いが福岡経済・景気の底上げに貢献しているのは事実だ。筆者としては「あと10年間、この好調さを持続できたら」と願っているが、そう甘くはない。
建設業者の格差は開くばかり
天神再開発が本格化しだした。天神の目玉=イムズビルは、わずか築30年であるが、解体後、新規建替えを行う計画が発表された。この天神再開発の物件に地元業者の出番は少ない。大手・中堅ゼネコンの独擅場である。やはり技術力において格段の差があるのは事実。天神再開発という中枢の現場において地元業者がメインの役割を担っていただくことを願いたいが、残念ながら実現する見通しはたっていない。
(つづく)
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